正月はサンドイッチ最強説。

「打ち上げた!!芳川の打球はキャッチャーフライ!バックネット際、浦野が走る!!落下点………掴みましたっ!!試合終了!!5ー3!!広島カルプス、4勝2敗で北関東ビクトリーズを下し、2025年のプロ野球日本一に輝きました」



最後は2塁ベース上から、真上に上がったフライが掴まれるのを見ているだけに終わった。



多くがファウルになれと願った打球がバックネット際でホームベース方向に戻ってきて、その浦野君がしっかりミットに収めガッツポーズ。



ピッチャーは飛び上がりながらバンザイし、内野手達は雄叫びを上げながら抱き合い、外野手も全速力でマウンドに向かう。3塁ベンチからも全員が飛び出してきて、赤いユニフォームが幾重にも重なり合う。



俺はそんな様子を横目に、鍋掴みみたいな走塁用のグローブを外しながらベンチに戻り、呆然とする柴ちゃんの横に座る。




「「わーしょいっ!!」」




「「わーしょいっ!!」」




ある者は睨み付けるように、ある者は涙ぐみながら。ある者は頭を抱えるようにして、日本一に輝いた赤いカルプス軍団の胴上げを全員で見届ける。



それが終わったところで、俺は立ち上がり、悔しさを胸にしながらみんなの方を見た。




「俺たちもファンの皆様に挨拶するぞ」





誰かが返事をしたわけではないが、チームメイト、首脳陣、スタッフがベンチから立ち上がり、タオルや袖で顔を拭って、グラウンドに立った。



列の端に並木君が立ち、彼のありがとうございましたを合図に、ビクトリーズの面々はスタンドに深々と頭を下げた。



ビクトリーズの日本一を賭けた初めての戦いはこれで終わり、球団として来年で10周年。にわかに変革の時を迎えようとしているのかもしれない。















新井、メジャー移籍か。シャーロットウイングスが最有力。夏に既に接触当球団GMマクドナルド氏「今、地球上で1番欲しい選手」





新井、メジャーか。候補はシャーロットとボストン、対抗馬にシアトル。3年20億。4割打者、新たな挑戦。




新井、平柳。東日本リーグのスター2人がダブルメジャー!?名門シカゴも獲得競争に名乗り。前村もFA移籍を視野に。




日本プロ野球の全日程が終わると、広島カルプスの日本一と、北関東ビクトリーズの健闘を称えると共に、そんな話題が新聞を飾った。



流石はスポーツ各紙。一言もそんなことを言っていなし、もちろんビクトリーズ側からの発信もなかったのに。記事の内容もなかなかに的確である。



夏に接触してきたのは、シャーロットのGMとかじゃなくて、まだ別のシャーロットおじさんだったんだけども。






というわけで、日シリが終わってからの忙しさというのはシーズン以上でして。



オファーのあった球団から身分照会があったり、代理人と話をしたり、メディカルチェックをやりにいったり、向こうの住まいやら移住手続きとかもありますから。



それに加えて、ファン感や宇都宮市役所からビクトリーズスタジアムまで、優勝パレードが開催されたり。


テレビの収録があったり、CMもあるし、地元テレビ局の特番を7、8人で出たや年間会員向け、太客向けの球団主催のディナーショーもあった。


1日署長とか、そういうのもあるから、双子ちゃんにしがみつかれ、赤ちゃんの急激な成長を感じながら、みのりんに夜な夜な啜られるような。ありがたいことに充実した毎日を過ごさせて頂いてますよ。




「とちぎFMレディオッ!!ゲストは宇都宮の安打量産機、ミスターフォーハンドレッドアベレージ、新井時人さんです!!」



「どもー!」









うちのおばあは、結婚するのが早くて、高校を卒業して温泉街の旅館で働いている時に、俺の母親を産んでからずっと仲居さんをやっていたんですけど。


娘が10歳になった時に授業参観でサンドイッチを作ることになりまして、指折り数えながらすごい楽しみしていて。


いつもは仕事が忙しいおばあもその日午後は同僚の仲居さん達にも協力してもらって、なんとか時間空けてもらって、温泉街からバスに乗ったところでウトウト。





町に着く頃には、授業参観のことをすっかり忘れてしまって、どうして午後休みにしてもらったんだっけと考えながらも、出来たばかりのデパートの喫茶店でゆっくりケーキを食べて、買い物をして家に帰ってみたら、娘が包んだサンドイッチを握り潰す勢いで……。



「お母さん、どうして、来てくれなかったの!?うわーん!」



目の前でガン泣きする娘を見て、これは母親としてダメだ。なんてことをしてしまったんだろうと、思い知らされて、旅館で働くを辞めて、近所の和菓子屋さんで定年を迎えることになった。


という話を正月親戚で集まった時に必ずするんですよ。ホロ酔いになった頃に。



だから新井家では、1月2日にみんな集まった夜には、地元の美味しいお肉と野菜をふんだんに使ったすき焼きとお寿司を食べ、翌朝にはサンドイッチを作るんですよ。おばあが戒めのために。8枚切りの食パンを10袋の使って。取り憑かれたように。



でも、みんなで集まって明けた朝というのはサンドイッチくらいがちょうどいいですわよね。



お母さん達もゆっくりしたいし、お父さん連中は逃げるように朝早くからゴルフに出かけますから、子供達はコントローラーを持ちながら眠っている状態ですんでね。




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