結構マジなやつ。
仮眠室に入り、照明を常夜灯モードにして空調をつけて、寝転がる。みのりんやマイちゃま、ポニテちゃんだけにはメッセージを送り、1時間のタイマーをセットして軽く眠りについたのだ。
パーン!!
と、目覚めた瞬間に、ヤバい!と感じてしまいましたわね。
見事なまでの目覚めと回復具合から察するに、どう考えても1時間の仮眠でなかったですから。
バンと飛び起きて薄暗い照明の中しばらく固まる。そして微かに聞こえてきたのは、選手達の賑やかな盛り上がり声。
酔っぱらいの集団が放つ、独特のやかましさ。
俺は立ち上がり、仮眠室の窓を開けて外を確認した。クラブハウスの前には、ビールファイト会場の往復に使ったバスが止まっていて、その周りでほぼ半裸の選手達が散り散りになろうとしていたところだった。
「ヨッシー!この後どうするー?寿司?焼き肉?」
「そりゃあ、焼き肉でしょうよ。コウちゃんよ。なあ、ナミッキー」
「寿司でも焼き肉でもいいけど、北野さんを運ぶの手伝ってくれよ」
仮眠室に行ってるわよと伝えたノッチが、ぐでんぐでんの状態でキャプテンに支えられながらバスからようやく降りてきた姿。
俺はその様子を見て愕然としましたわね。
タイマーを掛け損なった自分も悪いが、ノッチがそんな状態になるとは、思いもよらなかったよ。
だから俺はこの時決断しましたね。
メジャーに移籍しようと。
それ以降………。
「U・S・A!U・S・A!」
「ゆー・えす・えー!ゆー・えす・えー!」
「ユー・エス・エー!ユー・エス・エー!」
「ワンッ!ワンッ!ワンッ!」
「にゃー!にゃー!にゃー!」
風呂上がりなどに、みんなで拳を突き上げてアメリカへの思いを解き放つのが新井家の習慣となった。
俺が声高々に叫ぶと、双子ちゃんが続き、きゃらめるも尻尾を振り、ネコちゃんもソファーの高いところへ飛び上がる。
赤ちゃんも笑うし、みのりんも麺を啜る。
「おとう、アンちゃん凄かったね!」
「ああ、マダックスノーノーなんて凄すぎるよ」
「マダッ………クス?」
「100球未満の球数で完封することだよ」
「社会人野球チームの!?」
「それはシマダックス」
「かえでちゃん、違うよ。ゲームのコントローラーとかパソコンのマウスとかに使われている精密部品で近年急成長を遂げている会社だよ」
「それはノダックス。ともかくね、そんなことを口にする子供なんて普通の小学校には入れられませんから、アメリカの小学校に留学して頂きますからね。せいぜい銃社会に恐れるといい」
「うん!わたしはメジャーリーグを肌で感じられるからさんせー!」
「もみじも、アメリカのゲーム会社に興味あるからさんせー!英語も勉強したいし」
「みのりんは?みのりんはアメリカさんせー?」
「最近はアメリカにもラーメンの専門店はたくさんあるし、スーパーにも生ラーメンとかあるみたいだし、全然。最悪自分で作る」
うちの家族は非常にたくましいですわね!
ティンコーン!!
午後4時過ぎ。家のチャイムが鳴る。
俺、かえで、もみじの3人がイカの被り物を装着して、それぞれ長物。掃除機の先っちょだったり、バットだったりを構えながらお出迎えした。
ドアがガチャリと開けられる。
「ぎゃー!!!」
「ワァーン!!」
新井家の姿を見て、発狂したように興奮したのは、やって来た柴崎家の長男と桃白家の長男である。
2人とも、インクを塗り合うあのゲームが大好き。そのコスプレ的なのでのお出迎えですから、一気にテンションはマックスになった。
「すみませーん!お邪魔しまーす!久しぶりですね、新井さん」
可愛らしい赤ちゃんを抱っこしながら、柴ちゃまの奥様がペコリと頭を下げる。流石は元モデル。子供を3人生んだとは思えない、スラッとした体型。つい、緊張してしまいますわ。
その後ろから、車のキーをチャラチャラと鳴らしつつ、大きな買い物袋を持った柴ちゃまもやって来て………さらに。
「うわぁー!!おっきいおうちですねー!玄関もこんなに広いじゃないですかー!」
大食いモンスター、宮森現れる。
おしゃぶりをくわえておとなしくしている赤ちゃんを抱えながら、瞳の中には、寿司や肉やケーキが写っている。
「新井さん、お疲れ様です!!これが噂の豪邸ですね!憧れます!」
「おう、とりあえずお上がり。旦那様は?」
「今、物資を持って現れますんで」
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