まあ、ほっぺは許して差し上げますわ。

「いいぞー、新井!!」



「新井さん、ラブラブっすねー!」



「みのりんさんも見てますよー!」



逃げるわけにはいかなかった。何せ4000億円企業の会長さんだからね。その御仁が俺をハグして熱烈な思いを胸にチューしてくれたわけですから。



側でSPも見ていますしね。



そのチューのお返しとばかりに、俺はビクトリアちゃんの背後に回って、ひょいっとお姫様抱っこをして、カメラに向かってくるんと1回転した。




そして、もちろんSPに喧嘩を売る。



「ディスイズ!ジャパニーズ、タイマンスタイル!!」



俺はグラサンを掛けたSPのアメリカマンに向かって勝負を仕掛けた。










しかし、簡単にやり返された。極めて優しく人工芝の上に投げ下ろされる。



そりゃあ、元格闘家ですもの。UFCが主催する試合にも出場経験のあるファイターですもの。



171センチ70キロのおケツまん丸マンなんてアリンコみたいなものですよ。



立ち上がった俺は改めてそのSPマンとハイタッチをしてまた喜びを露にする。



そして、選手全員でファンにご挨拶と感謝。



広げた球団旗を交代して持ち、サービスの丸めたTシャツや応援タオルなんかを持ちながら、ゆっくりとグラウンドを1周し、スタジアムに駆けつけたファン達と喜びを分かち合った。




北関東2ー0東京


勝ち投手 アンデルセン 9勝0敗


本塁打 マテル31号、32号。



北関東ビクトリーズが奇跡の10連勝を決めて、球団創設9年目のリーグ制覇を達成した。


先発アンデルセンは、得意のカットボールとツーシームを巧みに操り、変化球のコントロールも冴え渡った。


9回を99球。被安打0、四死球1、無失点。見事マダックスで、ノーヒットノーランを達成した。マテルが2本のソロホームランを放つ活躍で同僚右腕を援護。


敗れた東京は、アンデルセンの前に打線が完全に沈黙。3年ぶりのリーグ制覇とはならなかった。





シーズン最終戦でノーヒットノーランを達成した、アンデルセン投手。


「大一番で最高のピッチングが出来てよかったね。キタノがいいリードをしてくれたし、調子もよかったよ。ベンチに帰る度にチームメイト達が元気づけてくれた、最高の試合になった」


2本塁打で球団記録となった、マテル選手。


「アンデルセンが頑張っていたから、なんとかしたいという気持ちだけだったよ。自分のバッティングが出来た。これもアライボーイのウナギパワーだね。また食べに行きたいよ」




就任3年目で見事リーグ制覇、阿久津監督。


「最後までチーム全体で諦めずに戦えた。選手はもちろん、コーチ陣やスタッフ、そして素晴らしいファンの皆様に感謝したい。東日本リーグのチャンピオンですから、もちろんこれからもいい試合にしていきたい。本当にありがとうございます」





初めてのリーグ優勝。しかも、アンデルセンがノーヒットノーランで決めてしまいましたから、試合が終わった後もすごい盛り上がり。



しかもさらにすごいのが、18時に始まった試合が終わったのが19時50分で終わったこと。



これは今年のプロ野球全体で見ても、最もスピーディーに行われた試合だそうだ。



東京スカイスターズはノーヒット。ビクトリーズもマテルのホームラン2本以外は、俺とブライアンがホームで刺された野川君のセンター前だけでしたから。



ある意味めちゃくちゃ塩試合。だから、時間が余ったという言い方は変かもしれないけど。今日ばかりは、メディアの方々も大活躍だった助っ人マン2人にご肩入なわけです。



優勝したわけですから、もちろんビールかけがあるんですけど、まだ出発までだいぶ時間がありそうでしたし、プレッシャーから解き放たれた心情もありますし、とりあえず寝ようと考えた。



「ノッチ、ノッチ!俺ちょっとクラブハウスの仮眠室行って来るわ!」



「あっ、俺も行こうかな……やっぱいいや。分かりました!」



俺はちょうどそこにいたノッチにそう告げて、ビールファイト出来るスタイル。トレーニングシャツにハーフパンツ。着替えに水中ゴーグルの準備をして、意気揚々と仮眠室に向かったのだ。






それがミスチョイス。運の尽きってやつだった。


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