消毒が必要ですわ!
スカイスターズの打順の並びを見ても、1番ヒットを打つ確率が高そうなのが、去年までバリバリレギュラーを張っていた杉下だ。
慎重にサイン交換したわりには、攻め方は変わらず右バッターのインサイドにカットボール。思いの外強く振ってきた杉下はこの147キロを空振りした。
2球目は、逆に右バッターのアウトローに沈むツーシーム。ストライクのコースから僅かにボールゾーンへ沈ませる絶妙な球。
カキッ!!
バッターは打っていったが、打球は俺たちの真上を通るようにしてスタンドへ。打った杉下が首をかしげるようにしてバッティンググローブのテープを止め直した。
今のタイミングで打ちにいってもファウルかぁなのか、ボール球だったかなぁなのかは分からないが、追い込み方としては今日の黄金パターンである。
カットボール、ツーシームと来てチェンジアップ。これもアウトローのいいところ。なんとかおっつけにいってというバッティングだったが、今日のアンちゃんのチェンジアップのブレーキの効き具合は素晴らしい。
ボールの下っ面を叩かせた。
「打ち上げた!!ファーストのマテルが下がる!いや、祭が回り込んで掴みました。1アウトです。まずは1人目、セカンドへのファウルフライです!」
打球を祭ちゃんが掴むと、スタンドからは割れんばかりの拍手。それが鳴り止まないまま、またアナウンス。
また代打。今度は左バッター。非常に思い切りのいいバッターだが、得意なゾーンに投げなければ大丈夫。
ノッチもFPSゲームを通じて戦場を把握してベストな選択をチョイスする能力を磨いていますから、今日のアンデルセンの球の傾向やコントロールの癖を計算に入れて、1ー1からのカットボールで見事に詰まらせた。
「打ちましたが、3塁線際!打球に勢いはありませんが、いやらしいゴロになっている…代わって入っている野川、軽快な動き!逆シングルから……1塁にいいボールを送りまして2アウト!!ついに、ついに、あと1人!!」
「1番、セカンド、井関!」
はやる気持ちを押さえて、俺は桃ちゃんの膝を何度も撫でた。
もうなんて声を出していいか分からない。ただもうなんか、口を半開きにしてグラウンドを見ているだけ。
さすがにちょっと緊張感が出てきたアンちゃんが投球に入ろうとする姿を見ているだけ。
そのアンちゃんが投げた今日99球目のボール。
今日1番の甘いボールになってしまった。
「打ちました!真ん中だ!!センターに上がった!!センターの前、柴崎が来る!!来い!突っ込め!!柴崎がダイビングー!!
………捕っている!!ゲームセット!!ビクトリーズ、アンデルセンのノーヒットノーランで、球団創設9年目!桃色の戦士達が東日本リーグチャンピオンになりましたっ!!」
ギャああアァっッッ~!!
しばすけっ、あいしてるぅ!!
マウンドで190センチのアメリカ人がグローブを真上にぶん投げるようにしてバンザイする。
そこにノッチが抱きつき、アンちゃんが抱き抱え、連れて並木君と祭ちゃんも飛び付き、マテルと野川君も笑顔の抱擁。
俺は、最後にサイコーのダイビングキャッチを決めた柴ちゃんのところへ。
「柴ちゃん、すげーよっ!!君が優勝を掴み取ったんだよ!」
「新井さんが……新井さんがいたからずっと頑張れたんすよ!!」
もう笑っているのか泣いているのか分からない柴ちゃん。そこに桃ちゃん、ブライアン、朝日奈君。ロマーノもやって来て、外野陣完全集結。
さらに、後ろから来た選手達に寄ってたかってで、一瞬のうちにもみくちゃに。
「「うおおおおっ!!!」」
振り返ると、ライトのポール下のドアが開いており、ブルペンから飛び出してきたリリーフ陣達が魂の雄叫び。
長い両腕を挙げながらエンゲラが先頭でやって来て、酒屋君と高久君、津久井達が2番手を追走。ちょっと遅れて玉地君と、何が起こってもいいように、ギリギリまで肩を作っていたのだろう、最後にキッシーがやって来た。
俺は吸い寄せられるようにキッシーともハイタッチを交わして抱き合う。
同い年、ビクトリーズ1年目。同じ時期に1軍で輝ける場所を掴んで、日本代表にも選ばれて。
色んな思いが一気に込み上げてくる。
離れ際。キッシーは俺に言った。
「ビクトリーズで優勝出来たんだからいいだろ。オファーも来てんだろうから、早くメジャーに行ってこいよ」
キッシーはそう俺に告げると、ノーノーを決めたアンちゃんの元へと向かっていった。
「監督、監督!!」
キャプテンの並木君によって囃し立てられた阿久津監督が輪の中へ。
「何回いきましょうか!?」
「監督、何歳でしたっけ?」
「よ、45だよ!」
「それじゃあ、45回いきましょう!」
「止めろ!!死ぬ!」
「じゃあ、四捨五入して5回で!みんな、5回な!!いくぞーっ!!」
「「わーっしょい!!」」
「「わーっしょい!!」」
「「わーっしょい!!」」
「「わーっしょい!!」」
「「わーっしょい!!」」
阿久津監督は喜びを噛み締めるように、握った拳を突き上げるようにして、きれい5回宙を舞った。
「ナイス!!ベリーナイスデス!!」
そして現れたのは、真っ赤なスーツのアメリカおばちゃん。アメリカロースカロライナ州など、東アメリカを中心にして展開する年商4000億円企業のビクトリア会長。
ビクトリーズの親の親。グランドオーナーである。
そのおばちゃんが襲来となれば、当然狙われるのは俺の頬っぺたである。抱き締められて、スーツのように真っ赤な唇が襲いかかってくる。
「アライボーイ!!ユーは、エクセレントデース!!ブッチュワアァッ!!」
ぎょえーっ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます