代えてもらってちょっとホッとしているのは内緒でしてよ。

まるで、守備が下手そうな2人が代えられたみたいで、気分が良くないですわね!



俺と芳川君の2人は、ちょっとやさぐれたようにベンチ裏に行って、これ見よがしにさっさと着替えて、残っていたいなり寿司やサンドイッチを平らげてやった。



するとそこにいたのは、昨日殊勲のファインプレーをかました男の姿だった。



「新井さん!桃さんいましたよ!」



「おっ、ほんとだ。どうかね怪我の具合は」



「まー、伝えてある通りって感じですかねー。復帰まで2週間は。今日ちょっと動いた限りだと、軽い走り込みくらいは出来るくらいで」



「そっか。まあ、仕方ないから今のうちに鋭気を養っておきなよ。子供の相手して、宮森ちゃんに美味いご飯作ってもらってさ」



「そうっすね。あれ?2人はもしかして交代しました?」



「そうなんすよ。新井さんはともかく、どうして俺まで最近はあんまりエラーしてなかったのに」



なんて、わりとひどいイジりをしてきた4番バッターのお腹をつねりながら俺は残っていたいなり寿司をモグモグ。



「桃ちゃんは、今日最後までいるの?」



「ええ、もちろん。ビールかけやりに来たわけですから」



「おっ、桃さん。いいますねえ。一緒にベンチに行きましょうよ」



「そうだな」




というわけでちょうど8回の守りが始まるところ。



首脳陣やチームスタッフにどうも、どうも挨拶する桃ちゃんを引き連れて、ベンチのど真ん中の1番前に腰を下ろした。





「オッケー、ナイスボ!ナイスボ!」



「内野、集中しろよ!集中!!」



「外野もいくよ、外野も!」



3人でワー、ワーと声出ししていると、他の選手達も、あっ桃さんがいるぞ!と、若手の連中どことなく集合してきて、気付いたらベンチの真ん中で左右前後でギッチギチ。



そのおかげか、アンデルセンのコントロールもギッチギチで、スカイスターズの5、6、7番を簡単に抑えてしまった。




8回裏、ビクトリーズの攻撃はブライアンから。その彼がコントロールを乱したリリーバーからフォアボールを選び出塁。ノッチが送って1アウト2塁。


並木君が佐藤さんのファインプレーに阻まれたレフトライナーに倒れ、バッターは俺と代わって出場している朝日奈君。



バットを短く持って、コンパクトにストレートを弾き返した。



「ピッチャー返し!京川、飛び付くも、抜けたー!!山田が3塁を回る!!センターからバックホームー!タッチ、アウトになりましたー!!ここはセンターの速水から素晴らしい返球!!追加点を許しませんでした!!」



大きなストライドでホームに向かい、上手いスライディングをしたブライアンだったが、センターからのバックホームがそれを上回った。



悲鳴と歓声が入り交じる中、3アウトチェンジ。




ついに優勝を掛けた大一番は最終回を迎えた。






「アンデルセンがもちろんと言っていいでしょう。9回表のマウンドに上がります。ご覧のように、スコアボード。1回から8回まで0が並びまして、許したヒットも0です。許したランナーは、2回の4番吉原に与えたフォアボールだけで来ています。大原さん、これは………」



「でも、このアンデルセンというピッチャーは、それ相応のピッチングをずっとしていましたよ。1ヶ月前にもありましたから。7回までノーヒットというのが。しかし今日はどの球種もコントロールとキレが抜群ですね。このまま優勝を決めてもらいたいですよ」



「そうなんです。優勝もかかっています。あと3人。3つのアウトを取ればビクトリーズは、球団創設9年目での初優勝ということになります。優勝をノーヒットノーランで決めるというのは、日本のプロ野球90年以上の歴史の中で、まだありません!


そのマウンドにアンデルセンが立ちます。バッターは8番のところですが、スカイスターズは代打を起用します。右の杉下です。打率は2割4分というところですが、代打での打率は2割6分5厘。


先月の対戦でアンデルセンからヒットも放っている、今シーズンは長く不調に苦しむ杉下が右のバッターボックスに入りました」

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