みんないっぱいいっぱいですわ。

カン!



「打ちました!いい当たりですが、ショートの守備範囲!並木が上手く掴んで1塁へ送球!安定しています、1アウトです!」







「スカイスターズ、選手の交代をお知らせします。バッター、大林に代わりまして、バーディン」




スカイスターズは、レギュラーキャッチャーを下げて助っ人マン代打をバッターボックスに送り出した。打率は2割4分だが、高い長打率。


まずは外のチェンジアップから様子を見る。



そして2球目のインコースを強振。引っ張った打球がグイーンと伸びてこちらにやって来る。



しかし打球はそのまますごい勢いで切れていき、3塁側のファウルスタンドの上の方へ。



ビールガールがひょいっと避けた向こう側のコンクリートに跳ね返ったボールをおじさんがナイスキャッチした。





「外打ちました!!今度はライトに上がった!!ライン際、山田が追いかけていって、フェンス際、ジャンプ!!………捕りました、捕りました!!ナイスキャッチ!2アウトです!


桃白が一昨日、フェンスに激突して離脱することになりましたので、ヒヤリとするところであります」



「今のはフェンスに向かって先に足をぶつけるようにして上手く衝撃を逃がしましたねえ。それでいてしっかりボールの落下点にグラブを出すと、いい守備ですよ。ピッチャーは助かりますねえ」




「最速150キロのストレート、パンチ力のあるバッティング。それでいて俊足、強肩を生かした守備も定評のある山田ブライアン。新井の2番弟子と自負する男のナイスプレーでありました。2アウトランナーなしで、バッターボックスには平柳です!」



「打率が3割6分1厘ですか。この選手もずっと高いレベルを維持していますねえ」



「そうですね。今年は自身5度目となる打率3割、29本塁打を記録しまして、盗塁数もリーグ3位の33個。自身2度目のトリプルスリーが目の前であります。


やはり、盟友とも言われる新井の復帰というのが本人の中で相当な励みになっているみたいですね」



「そうでしょうねえ。8年前ですか。新井時人という選手が出てきて、かなり平柳のバッティングというのが進化しましたからねえ。それまでは純粋なプルヒッターで魅力はあるが、三振が多いタイプでしたけど。


逆方向へのバッティングというのを掴んでから打率3割というところを楽にクリアするようになって……」



「平柳、新井といえば、おケツを触り合うような仲で、日本代表でも1、2番コンビとして躍動した時期もありました。平柳はもしかしたら来シーズンはメジャー挑戦なんじゃないかと、各方面のメディアが報じていますが………ここは追い込まれています」




平柳君の追い込まれた時というのは、逆方向。すなわちレフト方向に合わせてくるバッティングが多いですから、俺は定位置よりかなりレフト線よりに守備位置を変え、センターの柴ちゃんに左中間をケアしてもらう形と取ってもらった。



もちろん、これはかなりリスキーな選択である。スパーンと引っ張るような打球をかまされたらヒットゾーンに飛ぶ確率が上がるわけですから。



ベンチや守備走塁コーチの指示があったりしたら、そういう結果になっても知らん顔で済ませるけど、チームで1番守備力のない奴が勝手に判断してシフトを変えているわけだからね。



しかも、こんな大事な試合で。




いや、こんな大事な試合で僅かなリードをしている時だからこそ、相手チームの反撃の芽を摘んでいくというか。





カキッ!!



「上手く打った!!センター返し!セカンド祭!飛び付いて押さえました!!……立ち上がって1塁へ送球!!平柳はヘッドスライディングー!!アウトー!セカンド祭にもビッグプレーが飛び出しましたっ!!」




結局飛んで来ないというね。




しかし、仕事が1つ増えた。




俺はレフトの位置から高校球児のように爽やかな全速力で平柳君の元へ向かった。



1塁のヘッドスライディングから立ち上がり、3塁ベンチに向かおうとする彼の体を支える。



「大丈夫か?今のふくらはぎだろ?無理するな」





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