いつもより高級なバナナでしたわ!

1塁ベースコーチおじさんも、ホームベースの横で派手なガッツポーズ。それを見たマテルは苦笑いをしながらハイタッチ。


次打者の赤ちゃんとも、アームコンタクトをしてベンチに戻る。



「「オッケーイ!ナーイバッティン!!」」



みんなでフォー!!などと盛り上がりながら彼を祝福し、俺は列タッチを終えたマテルとベンチ横のホームランカメラの前に立つ。













そして何もやらない。



カメラの前でじっと3秒待っただけ。で、プイッと興味を無くしたようにしてベンチに下がっていくのだ。








「フォアボール!!」



マテルにホームランを浴びた直後。6番の赤ちゃんにはフォアボールを与え、ノーアウトのランナー。すかさずピッチングコーチがマウンドに向かい、時間を取るが、黒西の疲れ、気の落ちようというのは見て取れた。



まだたった1点先行されただけと分かっていても、初回からフルスロットルで投げてきたところで、高めの力のあるはずの直球をスタンドまで運ばれたのだから、ダメージはわりとデカイ。中4日というのも効いてくる時間帯。



もう1人ランナーを出したり、さらに1点取られたら交代も見えて来ますから、精神的プレッシャーもある。



意外性のある柴ちゃんですから、打たせても面白いかもと考えたが、阿久津監督は固い作戦を選んだ。



コンッ!!




ピッチャー前へのバント。



黒西がマウンドを降りてボールを取りにいき、2塁を見向きもせずに1塁へボールを送った。



「柴崎は送りバントという形。自らも生きようかという構えでしたが、大原さんここはバントでしたね」



「ねえ。今、エンドランでも面白いかなって話していたところだったんですが、まあ下手に仕掛けてゲッツーというのは黒西を助けてしまいますんでね。それをまず避けるという考え方はあったと思いますよ」



「なるほど。1アウト2塁となりまして、バッターボックスには、スタメン抜擢の山田ブライアンです。打率は2割3分というところですが、独特の勝負強さ。9回のブライアンと言われています」



もう1点。もう1点取ればというところだが、黒西の意地。1点どころか、ランナーを進めさせるバッティングすら許されないといった内角攻め。



最後は、1ー2からストレートを打ちにいくとも、詰まらされてショートへの力のないフライ。



9番のノッチは三振に倒れて追加点はならず。



試合は5回を終えて1ー0。マテルの見事なホームラン。ビクトリーズファンの拍手の中グラウンド整備の時間となった。




「うおおぉっ!」



「サンドイッチ!」



「いなり寿司!」



「美味いバナナ!」



俺は数人の若手選手達と一緒に、ケータリングルームへと飛び出した。






もうノッチが三振してしまうことなど、だいたいの選手が分かっていたわけですから、1歩目の速さが違いますよ。



スイングしたノッチがキャッチャーの捕球を確認して、あー!三振かー!とがっくりしながらベンチの方を見た時には、もう既にもぬけの殻ですから。



さっさとベンチ裏に下がって、手を洗って、お着替えして、軽食を取って、トイレにいったら守備に向かわなくちゃいけないですから。



ノッチを信じるとか、凡退した彼を励ますとか、そういうことではなく、グラウンド整備とはいえ、あまり時間もありませんから、早くエネルギー補給を済ませていい準備をするということです。



オードブルのソーセージとナゲットを口に放り込みながらおにぎりのラップを外して食らいつき、たまごのサンドイッチも頬張ったら、デザートのお稲荷をスポーツドリンクで流し込む。



そしてさらに、おにぎり1つと1本150円する王様バナナを持って部屋を出た。



するとちょうどノッチがやって来る頃ですから、彼にそのエネルギーセットを渡してあげる。



「ほらよ、君の大好きな昆布のおにぎりとバナナ」



「どもっす!……あむっ!モグモグ。いやー、カットするつもりだったんすけど……」



「まあ、あれはいいコースに投げ込まれたからね。味方のカバーにいったら、敵の挟み撃ちにされたみたいな感じだから仕方ない、仕方ない。次に繋がればいいのさ」





「新井さんが昨日、あねりんのカバーにいってやられたやつですね!」



「そー、そー!」



「それでその後、最近追加された新武器使ってみたら、あかりんにちゃんと練習してから使って下さいって怒られちゃって……」



「あはは!あの武器強いっすけど、結構クセがありますからねー……」



そんな風に結局は、ピッチングコーチとバッテリーコーチが来るまでゲームの話をして盛り上がった。



6回だから、向こうも大胆に狙い球を絞ってくるかもしれねえから、入り球は特に気をつけろよ。



とか。



内野にバントのケアしっかりさせとけよなどと。



そんな話を横で聞きながら、俺は若干アゴをしゃくらせつつ、小さい声で……元気ですか?元気ですか?と、戦略コーチに分厚い手帳で能天をチョップされるまでひたすら続けていた。








「えー。試合は1ー0。マテルの31号のソロホームランでビクトリーズが待望の先制点を手にしまして、6イニングス目。スカイスターズは、8番の京川からという攻撃になります。


アンデルセンは5回を被安打0、1つのフォアボールを与えただけ。68球という理想的な球数で来ています」



「彼の持ち味というのを十分に発揮していますよね。ストライク先行でピッチングを進めてどんどんゾーンの中で勝負していくという。ただこの回から3巡目に入りますから、そろそろ怖さも出てくるところですよ」


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