やはり今はこの男よ。


ズバァンッ!!




相当な気合いが入っている。そりゃそうか、今日は気合いの入らない選手がいるわけがない。



それでも、自分の気力とプレーのクオリティがいつでもリンクするほどスポーツというのでは単純なものではない。



それでも、今日マウンドに立つ優勝を争うライバル、球界の盟主と言われるチームのエースのボールは、相当気持ちが込もっているものだと痛感した。



気持ちが入りすぎていたら、甘くきたストレートをスパコーンと打ち返して、冷や水を浴びせてやろうと思っていたし、慎重に変化球勝負で来るなら、それを見切って出し抜いてやろうと、昨日ブドウを食べながら考えていましたけど。



ここまで気迫の込もったピッチングを見せられると、パワーのない僕ちんなんかは余計バッティングしずらい。





ビシュッ!




カキッ!!





「新井の右打ち!セカンドの右!破っていきました!!1アウトから新井が出ます!!深めに守っていた京川のさらに右を破っていきました!この1本で新井の打率は.405!自身2度目となる打率4割達成を濃厚なものにしました!」






いやー。バッティングとは難しい。







スタジアムがバッターの1本で盛り上がったのは、試合開始55分でたったこの1回だけ。




優勝決定戦にしても、重苦しい雰囲気が徐々に試合を支配していくような状況になってきた。



観客の皆様方も、もしかしたらそうなるんじゃないかと分かってはいたけれど、マウンドに上がる2人のピッチャーのぶつかり合いに、固唾を飲んで見入るしかないような。





「アンデルセン、追い込みました。………インコース、変化球!ハーフスイング!バットが回りました!空振り三振!!フルカウントまで粘られましたが、7番速水は最後スイングを取られました!5回終わってスカイスターズは無得点!アンデルセン、見事なピッチングが続いています!!」




これぞピッチングというやつ。



スカイスターズの黒西は、150キロ台中盤の真っ直ぐでグイグイ攻めて得意のスライダーで仕留める手法だが、アンデルセンは巧みに様々な球種を投げ分ける。





純粋なフォーシームのストレートは見せ球で、カットボールとツーシームが軸。



基本はバッターの懐に食い込ませるようにボールを動かしながら、ナックルカーブやチェンジアップといったボールで緩急をつける。



バッターは内側付近の動くボールを意識しながらも、実際に多く振っているのは緩めのボール。体勢とタイミングを崩され、結果的に打たされる格好になり、それに気をつけ始めると、横に大きく曲がるスライダーやスプリットがやってきて、狙いが外れる。



どのボールもゾーンの際どいところに投げ込まれるから、判断が遅れ、バットをようやく出した頃には芯を外されて凡打の山。



さっきの7番から奪った三振がようやっと1つ目という究極の打たせて取り。



だからテンポがよく、攻撃にリズムが生まれる。


そのわりには、ヒットは初回のわたくしだけという体たらくな無得点ではあるが、5回裏の先頭、マテルは黒西のストレートを狙い澄ましていた。



僅かに高め。155キロという速さなど全く問題にしないマテルのコンパクトかつ力強いスイングは、宇都宮の夜空に放物線を描いた。





「打った!!レフト後方だ!佐藤が下がっていきますが、フェンスの向こう側を見上げる!!……突き刺さったー!!やはりこの男の1発でした!!第31号!!なんと月間17本目!!勝てば優勝のこの試合でも、マテルのバットが火を吹きました!!」



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