実況！４割打者の新井さん８

夢は繋がりますわ！

「埼玉ブルーライトレオンズ、マウンドにはクローザーの江連が上がっています。今シーズンはここまで２２Ｓ。シーズン途中から最終回。締めくくり役というところを任されています。バッターボックスには朝日奈です。

今日は赤月の代走で途中出場という形。気迫込もった走塁で先ほどは同点のホームインを決めています。打率は２割ちょうど。ホームランは２本放っています」

「この朝日奈が出れるかどうかは非常に大きいですよねえ、両チームにとって」

「そうですね。１ー１。同点です。１点取ればビクトリーズはサヨナラ勝ちということになります。チーム１の俊足であります、朝日奈です。……３球目。

……打ちました！いい当たり！ショートの右だ！センター前か！？いや、ここに源がいる！！掴んで、難しい体勢から１塁へ送球！………アウトだ！アウトにしました！ショート源の守備がありました！」

センター前に抜けようかという当たりをギリギリのタイミングで止めて、２つステップしながら、素早く持ち替えて１塁へ正確な送球。

朝日奈君もヘッドスライディングで応戦したが間に合わず。

これはプロの守備。

ブライアン君のバックホーム２つといい、柴ちゃんと桃ちゃんのフェンス激突キャッチといい、守備を見ているだけで球場に来た価値があるというそんなことを言える１日になりそうですわね。

と言っている間に、柴ちゃんは空振り三振に倒れた。

「８番、ライト、山田！」

山田と言ってもハーフボーイ。アメリカ人である父親譲りのこゆい顔と逞しい色黒ボディ。ブライアン君が打席に立った。

「さあ、先ほどいい守備があったブライアンです。桃白の負傷離脱から、見事なバックホーム２本でチームを救い、観客を沸かしました。今度は師匠直伝のバッティングで勝利に導けるか」

「山田は、いいところで思い切りのあるスイング出来ますのでね。期待は膨らみますよ」

「今シーズンの山田は、外野手登録ではありますが、ビハインド登板の多いリリーバー起用が主でした。しかし、打席数はまだ１００に満たないくらいですが、５月の横浜戦で９回勝ち越しのホームラン。先月には、同じく９回同点とサヨナラホームラン。１０日前にもチームの負けを消す同点ホームランを延長戦で放っています。

９回２アウト、１ー１同点。当然、ファンの皆様は期待します！……２球目。変化球！！これはギリギリ決まりました！！」

「レオンズ側も分かっていますね。低めの変化球２つ。慎重に入って来ていますよ」

ベンチに控える野手達がベンチから身を乗り出すようにして、声を出し、柵を叩き、ブライアン君を見つめる。

その彼がスパーンと、３球続いた変化球を掬い上げた。

左中間に向かって、打球が高く遠く上がっていった。

「打ちました、どうだ！？左中間！！高く上がりました！飛距離は出ています！風も押す！センター下がる、下がる！

レフトも追う！！下がって、ジャンプー！！越えました！！フェンスダイレクト！！ボールが無人のレフト側へ。２人が慌てて追う、ショートも追う！

ブライアン、速いぞ、速いぞ！！もう２塁を蹴っている！！ボールは、今ようやくレフトが追い付いた！！ブライアンはどうする！？

小林コーチ、回した、回した！ボールがバックホームされる！！ブライアン突っ込む！！

ボールがこぼれたー！！セーフだー！！サヨナラー！！ブライアンのサヨナラランニングでビクトリーズ９連勝ー！！」

「「うおおおっ、しゃあああぁぁーっ！！」」

風のような走塁。

まるでダイヤモンドを１周してきたとは思えない終始軽やかな足捌きでブライアン君は歓喜のホームへ滑り込んだ。

地面を２度叩きながら、まずはネクストにいた緑川君と抱き合い、次々と襲いかかるチームメイト達の手荒い祝福を全て受け入れる。

無論、俺も彼の背中を叩きながら抱きついた。

「新井さん！やっと新井さんみたいなプレーが出来ましたよ！」

「ランニングホームラン未遂が３度ある俺への嫌がらせか、コノヤロー！」

と、俺はツッコミを入れたのだが、その真意をなんとなく察して俺はもう１度彼に抱き付いたのだった。

北関東２ー１埼玉

勝ち投手 岸田 ３勝２敗３１Ｓ

負け投手 江連 ２勝１敗２２Ｓ

本塁打 山田５号 (９回Ｒ)

北関東が怒涛の９連勝。０ー１で迎えた７回、北関東は８番桃白の犠牲フライで同点追い付くと、９回２死から途中出場の山田が左中間へサヨナラランニングホームランを放ち試合を決めた。９回表を無失点投球の岸田が３勝目。

敗れた埼玉は再三の得点チャンスを相手の攻守に阻まれ、２回以降は無得点と打線が沈黙。クローザー江連が痛恨のホームランを浴び、シーズン３位が確定した。

北関東はこの勝利でシーズン２位以上が確定。明後日の東京戦に全てを託す。

本日のヒーロー、山田。

「桃白さんの魂の込もった守備を間近で見ていてそれが乗り移った。２つのバックホームはどちらもベストのプレー。最後のホームランも気持ちです。新井さんにもたくさん褒めてもらったので最高です！」

今シーズン２度目の先発６回無失点の好投、野中。

「絶対に負けられない試合。自分の力を出せた。前日にみのりん飯を再現してくれた奥さんに感謝です」

勝利した阿久津監督

「非常に緊迫した試合だった。ポイントはやはり、野中の好投と山田ですかね。キャッチャーと協力して強い打線を封じてくれて、山田も試合の途中からでしたがヒーローになってくれた。明後日勝てば優勝ですから、もちろん何が何でも。ファンの皆様と喜びを分かち合いたい」