結構似ていたと評価していますわ。

「うおおおっ!!」



朝日奈君はキャッチャーのタッチを絶対に掻い潜るんたという気迫を見せた。


飛び込むような、転がるような。そんな感じなにふり構わない勢いで頭からホームに滑り込んだ。




「セーフ、セーフ!!」



マスクを片手に、球審が腕を広げた。





「シャオラアァッ!!!」



朝日奈君が雄叫びを上げながら立ち上がり、両腕をブンブン振り回しながらベンチに戻って来る。



「よっしゃ、いいぞ!!よくやった!!」



「朝ちゃん、オメー、速すぎるよ!!」



「サイコーかよ!!」



代走の選手の魂の込もった帰還。みんなが土まみれ、汗まみれの朝日奈君を出迎え、抱き締めた。


もちろん、犠牲フライを放った桃ちゃんも。もっといいところに飛ばしてくださいよ!などと、若手にイジられながら桃ちゃんも朝日奈君とハイタッチをかわす。



とにかく同点。どんな汚い打球になってもいいから同点にしなきゃと気持ちの込もったスイングでしたね。


相手バッテリーもそうさせないようにと、低めの低めを狙い続けた配球の中で、同点にするバッティングをしてくれたのは非常に大きかった。



赤ちゃんの追い込まれながらのナイスバッティングと柴ちゃんの進塁打を含めて。



やっぱり土壇場になったら初年度組の力なんよ。




「ビクトリーズ、ピッチャーの交代をお知らせします。玉地に代わりまして、エンゲラ」




ビハインドで7回の男を出したわけですから、8回同点となったら当然、カリブ海の豪腕よ。



身長198センチ。チームどころか、今日本プロ野球で1番デカイ男がマウンドに立つと、それはもう相当な迫力よ。



4勝2敗。33H4S。防御率1、76。



という数字もなかなかにカッコいい。



それにこの前、マテルとアンデルセンと一緒に俺の鰻を食べたんだから、最後までしっかり頼みますよ。





ビシュ!!




ギュルルル!!




カキィ!!




「いい当たりだ!ショート並木!!飛び付きますが、センター前抜けていきました!!レオンズ、先頭の種崎が出ます!!」



160キロのストレートの後のスライダーを打たれた。



まずい。ノーアウトのランナーだ。





さらに。







カキィ!!




「ライトだ!!ライトの後方に飛んでいる!!桃白が追っていくー!!フェンスに激突!!………捕ったか!?捕っています、捕っています!!しかし、立ち上がれない!!


戻った1塁ランナーがこれを2塁に向かう!柴崎にようやくボールを渡してセカンドにボールが送られますが、セーフ!!タイムが掛けられます、大丈夫でしょうか、桃白」




無論、俺はダッシュした。レフトから見ていても、相当な勢いのまま、桃ちゃんはフェンスに体を打ち付けたから。




フェンスの前で胡座をかくようにして座り込み、苦悶の表情で右腕を押さえていた。



「大丈夫か、桃ちゃん」



「いや、ちっとダメっすね、これ」



なんとかだいじょぶっす。くらいの返事を期待していた俺は、どうにか彼の痛みを和らげなければと考えた。



「宮森ちゃんのことを思い出して頑張れ!柴ちゃん!ほら、桃ちゃんの奥さんのモノマネ!」



「えっ、えっと。ワタシはミヤモリ!なんでもお皿ごとペロリと食べちゃう女の子!そーれ、ハラペコ、ハラペコ~」



「ギャハハハ!なんだよ、それ!自分でハラペコなんて言わないよ!新井さんもこんな時に変なことさせないで下さい」



よかった、わりとウケたぞ。しかし、そんなんでどうにかなるダメージではなさそう。



俺の時にはなかなか出てこないトレーナーが2人、一目散に飛び出してきて、桃ちゃんの側にしゃがみ込む。



そしていくつか言葉を交わした片方のトレーナーおじさんがベンチに向かってバツ印を作った。



「とりあえず、これで腕を固定しますね」



そして若い方のトレーナーが桃ちゃんが痛めた肩や腕周りをチェックすると、持ってきた何種類かの黒いバンドを組み合わせる。



バンドの端を強力なマジックテープで止めて、即席の釣り帯完成。



それを桃ちゃんの首と脇腹に通し、右腕を固定する。



「焦らないでいいよ、待ってもらってるから。ゆっくり立つよ、せーの!」



俺と柴ちゃんも手伝いながら、桃ちゃんは立ち上がり、付き添われながらベンチに向かって歩いていく。





その姿を見て………おいおい、もしかして骨折か!?と動揺する声とフェンス際の飛球をナイスキャッチと拍手も沸き上がる。



このままグラウンドに戻るのは無理そう。まあでも、こんな時のために、守備の得意な朝日奈君という存在がいるからと、考えた瞬間にはっとした。



朝日奈君は、さっき代走で出場して、魂の生還をしたばかりではないかと、バックスクリーンのラインボックスには、6番DHのところに、朝日奈君の名前があるのだ。



いつもは試合の最終盤まで待機させているの。どうしてこういう時に限って、と嘆いていると、ライトポール下のフェンスがガパリと開き始めた。



「ビクトリーズ、シートの変更をお知らせします。ライト、桃白に代わりまして、山田。8番ライト、山田ブライアン!」









「治療を行っていた桃白でしたが、やはりこの試合での復帰は難しかったようです。代わりに山田ブライアンがライトに入りました」




「ブルペンがあるあそこから出てきたということは、ちょうど肩を作っていたんですねえ。珍しいシーンですねえ」



「そうですね。ブライアンは外野手登録ではありますが、今シーズンはリリーフとしても、24試合の登板、外野のスタメンで8試合。代打、代走、守備固めとして35試合の出場があります。


最近では、ファンから9回のブライアンと呼ばれる程、土壇場でのバッティングも光っていました。ここはフェンスに激突。負傷交代の桃白に代わって、ライトに入りました」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る