極めてピンポイントで角っちょに当たる奇跡。

「オッケー、ナイスピッチー!!」



「いいよ、いいよ!ショート、セカンドナイスプレー!!」



「オッケー、いける!いける!」



今日はクランチチョコみたいに、お客さんが隅から隅までぎっしり。


それに、いつもよりカメラの数が多い。


日本放送センター経由でスカイスターズの試合と並んで全国放送されていますから、おのずと選手達から発せられる声も、いつもより2割増しでいい声になっている。



いきなりフォアボールを与えてどうなることかと一瞬心配したが、セカンドの祭ちゃんのナイスプレーもあり、3番バッターに対しては計算したピッチングでショートへの併殺打。



よし、まず先制するぞ!!という気持ちが高まったが………。






ズバァン!!






ズバァンッ!!







ズッバァンッ!!




「ストライク、バッターアウト!!」





「3者三振!!向こうが勝ち頭左腕なら、こちらはメジャー帰り!!桜池が今季自己最速155キロ連発でビクトリーズの上位右3人から三振を奪いました!!」



リーグに何人といない、唸りを上げるようなストレート。それを1、2の3で待っていても、コースを判断した時にはもう振り遅れ。



ボールがロケットのように通過した残像だけが頭に残っているのだ。



今日は投手戦になるかもしれないわね。





思田君は、140キロ後半のストレートをしっかりコントロールしながら、変化球を上手く投げ分けて打たせて取るピッチング。



対する桜池は、最速155キロのストレートでとにかく押し込んでいく強気なピッチングで得意のスライダーの威力も上々だった。



互いそれなりにランナーは出るが得点には至らず両左腕の気迫が目立ち、完全に膠着状態。


そんな流れの中で、試合は0ー0のまま、6回裏に入っていった。



先頭バッターはわたくし。そろそろなんとかしないとね。1点勝負になりつつありますから、こういう試合はエラーかホームランかで勝敗が決まってしまう流れ。




とは思っても、向こうもこっちの話しなど聞いてくれないくらいに必死ですから、容赦なく俺の懐にボールを集めてくる。


それでもめげずに積極スイング。


しかし、ストレートと変化球を1つずつファウルにし、あっという間に追い込まれてしまった。



そして最後は155のストレート。左腕からクロスして入ってくるボールですから、どん詰まり。



「打ちましたが……詰まった、新井の打球、ショートの右だ!あーっとベースに当たりました!!ボールは跳ねて直接ピッチャーに返ります、投げられません!内野安打になりました」




あっ、こんなパターンのピッチー返しがあるんだと、36歳になってまた1つ勉強になりましたよ。



小フライがセカンドベースに当たり、それをピッチャーがダイレクトでキャッチするという所業。



ベースに1度当たっているわけですから、ノーバウンド捕球にはならず、俺が1塁を駆け抜けていると。



普通にバウンドしていれば、ワンバウンドでショートが捌いて、1塁はアウトになっていたでしょうから、俺にしてみればラッキー以外の何者でもない。




3番祭ちゃんのセカンドゴロで俺は2塁でフォースアウトになり、4番芳川君が三振で、バッターボックスにはマテルが入る。



「1塁ランナーは、祭。盗塁はここまで17個決めています」



「バッターはもう当たっているマテルですけど、走っていきたいですよねえ」



「試合は6回。1点の重みが増してくるとに入ってきています。桜池、セットポジション。走った!!マテルが打つー!!どうだー、レフトに上がっている!下がる、見上げる!!入りましたぁ!!


また、またマテルが打ちました!!マテル、第30号となる1発は、貴重な先制2ランホームランになりましたっ!!」




祭ちゃんがいいスタートを切ったのに、と思った瞬間。スカーンと気持ちよい打球音を残して、ボールはレフトスタンドに吸い込まれた。




マテルちゃん、マジですごすぎる。



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