ガツンと1発。

「さあ、岸田。追い込みました。ビクトリーズファンからは大きな手拍子。打ちました。サード正面!!代わって入っている野川!!軽快に捌いて1塁へ………アウト!!ゲームセット!!2ー0!!


逆転優勝へ落とせない試合、2連戦の初戦をビクトリーズが取りました!!これで下した埼玉と並んで同率2位!今シーズンの3位以上、チームとして初のポストシーズン進出を決めました!!


見事な完封勝利となりました!」



よしよしよし!!素晴らしい、素晴らしい。



終盤、追加点のチャンスを逃してしまった感はあるけど、思田君が6回まで投げ、玉地、エンゲラ、キッシーとリリーフは無安打リレーという素晴らしき。



お立ち台には、今月もう何度目やねんというくらいのマテルインタビューになり、ビクトリーズファンの歓声と応援歌がいつまでも収まらなかった。







そして翌日。



ビクトリーズにとってはこの日がある意味鬼門であった。



先発ピッチャーがいない。




連城君、千林君はまだ中3日、4日であり、アンデルセンは最終戦の登板が決まっていて、碧山君と小野里君は不調で調整中。



じゃあ、こんな大事な試合誰に先発させんねん!



という非常に悩ましい状況で先週1軍に帰ってきたのが、野中あゆむというベテランである。



クラブハウスに到着した時、ちょうど前日調整終わりの野中さんに出くわしまして……。



「よう、新井。明日よろしくな。……あと、君の漫画に出てくるみのりん飯をうちの奥さんがよく作ってくれるんだよ。それを食べるようになったら、ケガがよくなったから、みのりんによろしく言っておいてくれ」



なんておっしゃっていたのだ。


作みのりん、絵マイちゃまでお送りしている❲お隣の新井さん❳には、度々飯シーンが出てくる。



栄養満点、愛情満点のみのりん飯を俺がいつも美味そうにがっつくというのが、ある意味この漫画のキモでありますから。



レシピのために1コマ2コマ書き加えることもあるとはいえ、身近の野球選手の家庭がそれを参考にして実際に作っていたとなると、なかなかに感慨深いものがある。




そんな野中さんも、いざ試合の朝となると、スタジアムまでの道を間違えるくらいに緊張してしまっていたらしく。



いつもより、入念にグラウンドでのウォーミングアップに時間を割いたと言っていた。



わたくしも、朝のお散歩でワンちゃんではなく、間違ってネコちゃんの方を外に連れ出してしまうミスを犯した。



家を出た瞬間に、なんかおかしいなと思ったら、お散歩装備を整えていたきゃらめるちゃんがリビングの窓からこっちをしょんぼりと見ていましてね。




抱っこされてる真っ黒なネコちゃんも、何も言わないで気持ち良さそうにしているだけだったからさあ。




しっかりしないといけませんわね。





「僅かに外れました!!フォアボールです!!いきなりノーアウト、満塁というピンチになってしまいました、ビクトリーズ。ピッチングコーチがマウンドに向かいます」



初回先頭バッターに初球をセンターに運ばれ、バスターで内野安打。そして3番に入っている豊田さんにはフルカウントからフォアボールを与えてしまった。



全然ボールは悪くないんですけどね。向こうは昨日のうちに負けたことで、優勝。リーグ1位という可能性がなくなりましたから、それである意味開き直ったというか。



昨日も完封負けでしたし、ちょっと予想していなかった積極的な攻撃にバッテリーが面食らってしまった形。



とはいえ、うちも今日を落としたら優勝はなくなる。



この回を0でとは言わない。なんとか1点、2点までで凌いでくれたら。後はマテルが打ってくれるから。






「バッターは、4番の川山です。通算400号本塁打というのも達成しまして、今シーズンは豊田と共にホームランダービートップをいきます、35本を放っています。尊敬する豊田と並び、次点が平柳の31本、マテルの30本ですから、3回目のホームラン王を狙う怖い怖い埼玉の4番が、ここは何を狙ってきますか。


フォアボールの後の初球です……。外側打ちました!!センターだ!センター後方!!」



打った瞬間、俺は届きもしない声でバーックと叫んだ。



打球はセンター後方、やや右中間より。柴ちゃんの反応、追い方、最後のアプローチ。全て十分だった。



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