それはそれは逞しいカラダでしたわぁ。
マジ?ヤバ!
アウトローのいい真っ直ぐですよ。
ビタッ!っと、インパクトだけを残したような打ち方だったのに、打球はグングン。あっという間にスタンドイン。
逆方向へ、計算していたかのように軽々。
ホームインして出迎えた俺は、ジャンプしなが腕をぶち当てるようにして喜びを分かち合う。
まだ1点ビハインドだが、スタジアムの雰囲気はビジターのビクトリーズ寄りの感じになってきた。
カンッ!
「いい当たり!!ショートの左、並木が押さえた!!膝を着いて2塁へ送球フォースアウト!祭から1塁へ!!ワンバウンドになりましたが、マテルが掬い上げて……こちらもアウトになりました!!
ダブルプレー!!高久、ピンチを背負いましたが、エラー数リーグ最小の固い守り、レッドイーグルス得点ありません!!」
試合は5回まで終わりまして、3ー4。しかし、こういう展開になると、もうビクトリーズが取る戦術はマテルしかない。
グラウンド整備が行われるタイミングで、ヘッドコーチと打撃コーチが野手陣を集める。
「みんないいか、今日はマテルにどんどん打席を回すぞ。1人でもいい、なんとかしてランナーを置いた状態でマテルに打席を回すんだ。前のバッター達は特に頼んだぞ!」
そんな指示が入ったこともあり、なるべくいい形で5番の助っ人マンを打席に立たせようと、ビクトリーズというチームはさらに1つになった。
試合が後半戦に入り、向こうは1点リードしているわけですから、同然いいリリーバーがマウンドに上がってくる。
うちの下位のバッターはなるべく消耗させようと、粘り込みに入り、球数を投げさせた。
5回は7番、8番、9番と3者凡退になってしまったが、そこで23球を投げさせ、向こうの先発は球数が90に到達し、ここで降板。
とはいえ、向こうも必死。6回も、1番からの攻撃を3人で退けられ、7回表、1アウトランナーなしという形でマテルが打席に入った。
そんな光景を見て、俺は呟く。
「匂うなあ。ビーンボールが来そうな気がするぜ。今のうちにフォーメーションを決めておこう」
「何のっすか?」
隣で柴ちゃんが呆れている。
俺は初球が投げ込まれる前に、ガタイのいい人間を前に3人並べ、その後ろにスピードのある選手を配置する戦略を終始半笑いのチームメイト達に説明していた。
ビシュッ!!
グアッ!!
バシィ!
「ボール!!」
「おっと!一瞬ヒヤッとしました!初球のインコースがやや抜けたでしょうか。マテルの胸元に来ました」
「どこかでインコースというのは攻めていかないといけないですよね。ちょっと危ないボールにはなりましたが、今の1球を生かしていきたいですよ」
2球目は外の変化球。遠いし、低い気がしたが、キャッチャーの上手い捕球。球審の右腕が挙がった。
1ー1となって、キャッチャーはまたインコース。マテルの胸元付近に一瞬、ミットを置いた。
そしてボールは、その位置よりもさらに体に近い場所に投げ込まれる。マテルがバットを手放しつつ、後ろに倒れるようにしてなんとか避けた。
スタンドからどよめきが上がり、ヘルメットが外れ、スキンヘッドを露にしたマテルが怒りながら立ち上がる。
その瞬間には、両チームのベンチにいた選手が飛び出していた。
「おい、さっきからどこ投げさせてんだよ!」
「なんだ、コラァ!!全然アブねえ球じゃにねえだろ!!」
などとやり合うのは、大概打撃コーチと相手のピッチングコーチでして。
今の時代はね、特に。ピッチャーに突進していって膝蹴りしたり、バットをぶん投げたり、キャッチャーに見事な大外刈を決めたりなんてことはめっきり少なくなりましたわね。
もう画面で見ている通り、バッターが………危ないよ、いい加減にしてくれよ……と険しい表情になっていて、球審おじさんがどことなくまあまあと、なだめているまさにその通りの感じだ。
今は、交流戦とか代表戦ともあるし、色んな媒体で選手の素顔とかが露になる時代ですから、あの選手なんかムカつくなあとなる雰囲気もなくなったですわね。
ちょっと何かいけない発言や行動をしただけで、すぐに晒されてしまう世の中ですから、どの選手もなるべく平穏に、穏便にとそういう意識の中でプレーするようにしていますわね。
だからこそ、俺はそんな中で何が出来るかを考えながらやって来ましたよ。
逆もしかりで、いい事や面白いことをすればそれも話題になるチャンスがありますから、どういう行動や発言をすれば、オンリーワンな存在になれるかというのをルーキーの時から模索していましたわね。
とりあえず、見た目から分かりやすくしようということで、着けられるものは全部ピンク色にして。
みんなが大好きなおケツとアイスクリームにこだわるキャラになり、たまに熱血で仲間思いなところを見せたら、隙あらば踊ったり歌ってみたり。
ドーピングが疑われた時にも、おもちゃの注射器を腕に着けたままヒーローインタビューをやって、世間をざわつかせたりした。
そして今、3球目のビーンボールをひっぱたいて、レフトのポールにぶち当てたマテルに思い切り抱き着いているのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます