そう。私はリクエストマスター。

ふー、アブねー!!



4点リードの場面で刺されたらまあまあ怒られそうなところだったんでね。リクエスト様々でしたわ。





「ノーアウトランナー2塁、祭はどうしますか。……バントしました!3塁線、上手く転がした、1塁送球アウトになります!1アウトランナー3塁という形を作りました。大原さん、送ってきましたね、ビクトリーズ」



「次の1点の意味というところでしょうね。またこれで1点でもまたリードを広げられると、フライヤーズとしてはきついですよ」





カンッ!!





「打ち上げた!右中間!犠牲フライになりそうだ!センターの藤並がずーっと追いかけていって捕りました。タッチアップ!!………ボールは内野に返されただけです!ホームイン!8ー3!ビクトリーズが追加点。4番芳川の犠牲フライです!」




野球とは不思議なもので、初回先頭からの10者連続ヒットという記録を作ったかと思えば、2回以降は無安打という試合。



しかし、3点返された直後に、ノーヒットで奪った1点がフライヤーズの反撃ムードを萎ませた。



先発の思田君はランナーを出しながらも要所を抑えて、6回3失点で8勝目。その後は、ブライアン、酒屋君と繋いで勝ちパターンを休ませつつの4連勝を決めた試合になった。




そして翌日。フライヤーズとは今シーズン最後の試合。



朝、双子ちゃんと1匹にたたき起こされ、すずめベーカリーの食パンと分厚いベーコンエッグを食べて、1匹の散歩をして、部屋の掃除をして、新聞とチラシを眺めた後に、家を出てきた。



クラブハウスの食堂で、柴ちゃん桃ちゃんと一緒に、サンドイッチをつまみながらココアブレイクしていると、肩で息をするようにした今日の先発である千林君がやって来たのだ。



トレーニングシャツに薄手のハーフパンツという姿。



「フー!フー!」



「おっ、センちゃんおつー!最初のウォーミングアップ完了かね」



そんな風に話しかけてから気付いたのだが、ちょっとやべー薬でもやってんのかというくらいに彼の様子はおかしかった。



「どうした、セン!!もしかして体調悪いのか!?」



柴ちゃんが心配しながら立ち上がった。



「いえ!なんだか、めっちゃ調子いいんすよ、今日!だから、報告しておこうと思いまして」




「「へ?」」



俺たち3人は、片手にたまごサンド、もう片手にココアが入ったカップを持ちながらしばらく固まってしまっていた。



「じゃあ、他のみんなにも報告してくるんで。今日はよろしくお願いします」



センちゃんはそう告げると、遠くのテーブルに着いたばかりの並木、祭、芳川チームのところへ向かっていった。




その3人組も、俺たちの方に度々視線を送りつつ、同じような反応。しばらくすると、センちゃんは食堂の中を見渡しながらゆっくりと廊下へ出ていった。




「今のセン君、なんだったんすかねえ?」



「さあ?俺も聞きたいよ」



「今日はちょっと大変な試合になるかもしれませんね」



「柴ちゃん、どっちの意味よ」



「言ってみただけっす」









という不安イベントがあって試合を迎えたのだが、今日の俺にピンクのグラブは必要なかった。



だって、全然外野まで飛んでくる気配がないんですもの。






ビシュッ!!





156。





ズバアァンッ!!




「ストライクアウッ!!」





ビシュッ!!




157。




ズバアァンッ!!




「ストライクアウッ!!」




ビシュッ!!!




158!!!



ズババアアァンッ!!




「ストライクアウトーッ!!」





どうした、センちゃん。



158キロって。自己最速を6キロも更新しているじゃないの。




マジでドーピングとかやっちゃってるんじゃないの?と、いろんな意味で不安にかられる。




ねえ。経験者は語りますよ。




しかし、そのおが付く薬でどうにかなるような状態ではない。



今も、マテルと芳川君の連続エラーでノーアウト2、3塁というピンチだったにも関わらず、昨日ホームランを打っている藤並君と村野を含めた主軸から、3者連続三振という快投を魅せた。





エラーしちゃってごめんね打法。



芳川君、マテルの連続ホームランで奪った2点を守りきり、9回115球。被安打2、1四球。ビクトリーズのピッチャーとしては最多の16個の奪三振を奪うピッチングで、キャリア10年目にして、プロ初完封で6勝目を飾ったセンちゃん。



チームも5連敗の後に引き分けを1つ挟んで5連勝。


2ヶ月半ぶりの貯金1となり、連勝で下した北海道フライヤーズを交わして、単独3位に浮上することになった。



そして1日移動日を挟んで、今シーズン最後の遠征。5位の東北レッドイーグルスが待つ杜の都仙台へと乗り込んだ。










「東北レッドイーグルス、本日の先発ピッチャーは、ルーク・アルバレス!!ナンバー、フォーティーワーン!!」



マウンドにはベネズエラからやって来た色黒の長身右腕。来日3年目。2年連続で2桁勝利をマークし、今年はここまでハーラートップとなる15勝をマークしている東日本リーグトップクラスのピッチャーだ。



問題は中5日。108球投げた試合から中5で来ているというところだ。




「間もなく試合が始まります。解説は東北レッドイーグルスで内野手として長年活躍されました、深村さんです。よろしくお願いします」



「はい、よろしくお願いします」




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