実況！４割打者の新井さん８

てんやわんや物語

しかもキャッチャーは軽いパニックになってしまったみたいで、完全にボールの行方が分からなくなってしまっていた。

珍しいんですけどね。そういうことは。多分ワンバンしたボールがミットの土手に当たって、さらにマスクの顎付近に当たりましたから。

どうしても、一瞬怯んで視界が無くなりますから。その瞬間に、ボールが左にいったのか、右に跳ねたのか分からなくなってしまったみたい。

前を見たり、真後ろに走ろうとしたり、３塁側を見たり、１塁側に首を振ってみたり。そして自分の足元を見渡してみたり。

完全に冷静さを失っていた。

肝心のボールは、１塁側のベンチ付近。監督などが立っている当たりで、ちょうどボールボーイが待機している角っちょのエリアに転がり込んでいたのだ。

だから、スカイスターズの監督さん達は、近くを指差しながらワー！ワー！叫んでいるのだが、その角度だとキャッチャーからでは１塁ベース側方向を指差しているように見えてしまい、余計に混乱を招いている形になっていた。

ようやくキャッチャーが柵に跳ね返って視界に入るところに出てきたボールを追いかけ始めた時、２塁ランナーの桃ちゃんは三本間の真ん中辺りまで来ていたのだ。

これが返れば同点だ。

助っ人マンがホームのカバーに入り、キャッチャーが両足のレガースを滑らせるようにしながら、ボールを素手で掴んだ。

そして振り向きざまスロー。

桃ちゃんも頭から滑り込む勢い。

送球をもらおうとする助っ人マンは１塁側に向かって半身の体勢になっており、送球はどちらかといえば３塁側方向に流れていた。

自分の背中側にボールが来てしまいましたから、体を捻るようにして腕を伸ばしたんですが、グラブの先を弾くようにしてボールは抜けてしまい、今度は３塁側のベンチ前へ。

もちろんそんなところにカバーはいませんから、サードの選手が走り、それと時を同じくして並木君も３塁を蹴った。

３塁ベンチ前に跳ねたボールを拾い、送球しようとした時には、並木君はホームに滑り込んでいた。

ビクトリーズは見たことない３ランプレーは、敵地で狂喜乱舞。俺の空振り三振がまさかの逆転振り逃げ。

今日の俺は球場入りしながらゴミを拾って来ましたからね。女神様はやっぱり見ているもんですわよ。

スコアボードに３が点灯し、それがこの試合の決勝点となった。

連敗し、首位の座を明け渡した東京スカイスターズは、３戦目だけはと必勝体制だった。

離脱していた主力も戻り、うちの碧山君に対して右バッターを出来る限り並べてきたのだが………。

ガキッ！！

「打たされた！！ショートゴロ！並木、祭、マテルと渡りましてダブルプレー！！スカイスターズ、この回も１アウト満塁というチャンスを作りましたが、あと１本が出ませんでした！」

打たなきゃ、打たなきゃと打線が焦っているところに技巧派の碧山の緩い変化球ですから、ある程度はチャンスを作れても、ここぞの１本だけがない。

初回の１、３塁。３回の１、２塁。そしてこの５回の満塁と３つの併殺打。

平柳の内野安打からの盗塁に佐藤さんのツーベースで挙げた１点を柴ちゃんの犠牲フライで追い付き１ー１。

そしてビクトリーズの攻撃。今日は９番キャッチャーに緑川君が入っており、そのグリーンリバーが低めのボールをナイスバッティングでライト前に運んだ。

並木君がセンターフライに倒れ、バッターはわたくし。１ボールからの２球目。高めにきた緩いカーブをフンッ！！

ライト線にギリギリに落ちるヒットで１、３塁となった。

カキッ！！

「いい当たり！！も、ショート平柳！正面のライナー！！２人のランナーが慌てて戻りました、２アウトです！」

「んー！いいバッティングでしたけど、惜しかったですね」

「２アウトになりまして、バッターは芳川、４番です。ピッチャー投げました！！インコース！！おっと！当たったか、当たりました！デッドボール！満塁、満塁で、怖いバッター、最近当たりに当たっているマテルに打順が回りました」