こ、これはっ!

「ここで回って来ますか、やはりいいバッターにいい場面で回って来るものなんですよね」



「2アウト満塁です。ここところ絶好調、一昨日のゲームでもホームランがあったマテル。攻め方というのはどういう形になるでしょうか」



「とにかく高めは禁物ですよね。アウトコース低めにしっかりコントロールして打球を上げさせないことですよ」



「なるほど。初球です。高めだ!!打った!!捉えたか!?左中間にグーンと上がっていく!!深めのレフト、センターがさらに下がる!!


ん?打球が。2人が今度は前に出てきて、打球がその前に落ちました!!1塁ランナーの芳川が3塁を回っている!そしてショートの平柳から、バックホーム!!きわどいプレー!!アウトだ!アウトになりました!!」



「今の打球、天井に当たりましたか」



「はい!天井ですね!フェンスに向かって一直線で下がっていったセンターの間島とレフトの佐藤でしたが、最後は慌てて前進し

て来ました。天井がなかったらと考えたらどうだったでしょうか」



「屋外だったらホームランになっていたでしょうね。今の打球の勢いと外野手の追い方を見ると、スタンドの中段くらいに届いていそうな飛距離でしたよ。ものすごい当たりでしたから」




「ホームランでしたら、もちろん満塁でしたので………しかし、水道橋ドームルールでは天井に当たったボールがフェアゾーンに落ちた場合はそのままインプレーです。キャッチすればアウト。ファウルグラウンドならファウル。そういったルールになっています」




2塁から見ていても、これはいったわと、なんならここ最近の中でもトップクラスに会心な当たりだったくらいでしたから、まさかの結果だった。



滞空時間のある打球でしたから、俺や緑川君は楽勝でホームインでしたけど、昨日のホテルの飯で、トマトスープ味のロールキャベツを15ロールとカレーライスを4杯も食べていた芳川君はホームにいい送球をされてアウトになってしまった。



打ったマテルも、ホームランを半ば確信していたような感じでしたから、2塁ベースを回ったところで、嘘だろと、車が盗難されてしまったかのように絶望の表情で頭を抱えていた。



4点勝ち越しが2点止まり。嫌な予感というものだけは的中するもので、代打の9番バッターにフォアボール与えた碧山君が………。



「インコース打ったー!!どうだー!ライトポール際!!入ったー!!平柳の同点2ランホームランになりました!!今シーズン、第29号です!!」




マテルの絶好調もさることながら、平柳君も爆発ぶりも目を見張るものがある。



一昨日、昨日もチームが負けはしたが、右へ左へ、ホームラン有り、巧打あり、セーフティバントなんかも決めたりしていた。



そして1番得点が欲しい時に、インコースの難しめのボールを捌いて同点ホームラン。マテルの天井打で一気に静かになったスカイスターズファンにまた勇気をもたらしていた。





そして、試合は進んだ。





「9回表、ビクトリーズの攻撃も2アウトです。祭、芳川が連続三振で早くも2アウト。バッターボックスにはマテルです。マウンド上は、金平俊一。今シーズンはここまでリーグ3位の27Sをマークしている右腕です」



「やはりスライダーの威力は凄まじいですね。祭と芳川から奪った三振は見事ですよ。カウント球だけ甘くならないように注意したいですね」



さっきの一撃。本当だったら満塁ホームランだったバッティングがありましたから、ここはもう下手すりゃ申告敬遠されておかしくない場面でしたけど、スカイスターズは勝負。



結構そういうところあるんですよね。東日本の盟主は。



逃げることはしない。野球マンとして、勝負するところはしっかりと勝負をして白黒つける。


そうやって過去40回もリーグ優勝してきたチームですから、クローザーが自信を持って真っ直ぐを投げ込んできた。





156キロ。躍動感のある投球フォームから繰り出された高めのストレート。マテルもフルスイングでそれに対抗したが空振り。



ヤニでベッタベタのヘルメットが吹き飛んで転がるくらいのフルパワースイング。



マテルは、いいボール投げるじゃねえかと、細かく頷くようにしながらニヤリと笑い、落ちたヘルメットを拾う。



2球目は初球よりも低いコース。そこからギュイッと曲がる縦のスライダー。一瞬反応しかけたがマテルはバットを止めた。



ストレートのタイミングでまた振ってしまうのではないかと思ったが、さすがはマテル。選球眼がいい。



ピッチャーとの勝負にこだわりながらも、しっかり見るボールは見る。



これが好調の要因だろうか。



ヘッヘッヘッ!!その手には乗らないぜ?という感じで不敵に微笑むマテル。



3球目。アウトコースに逃げるスライダー。それを軽打しただけに見えた。




「打ちました。ライト、ライトに上がっている!ライトの栗が下がっていって、どうだー!?……入った、入りましたー!!マテルにホームランが飛び出しました!!なんと、クローザー金平から第23号!!今月10本目のホームランになりましたっ!!」




すごい。無駄のないバッティング。無駄のないホームラン。



絶好調ではなく、覚醒。そんな風な。



スタンドギリギリではあるが、もはや風格のあるバッティングがビクトリーズに3連勝をもたらす勝利の一撃となった。



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