実況！４割打者の新井さん８

つまりは、諦めかけた時の魚群です。

そんな場面になって、スカイスターズは１６０キロを平気で投げるという助っ人マンをここで投入。

確実に俺を仕留めるための刺客。身長が２メートルに迫ろうかというピッチャーがマウンドに上がる。

ものすごいボールをズバン、ズバンと。

投球練習の段階から俺を威嚇するように投げ込んでいる。

というわけですから、もうストレート勝負ですよ。こんな場面でいきなり変化球なんて投げさせられない感じだけはありますから。

キャッチャーとスカイスターズのベンチは、とにかくストライクゾーンに投げ込んでくれと。

そんな思いがバッターボックスまで届いてきますから。キャッチャーの子に教えてあげましたよ。

「もうこんな場面になったら、ストレートしかないよねえ！」

バッターボックスに入り、足場をならしつつ、ウフフフフ！！とそんな風に笑いながら話してきた俺を見て、若いキャッチャーの子はびっくりしていた様子だった。

そのキャッチャーからマウンドに上がったテイクという助っ人マンにサインが渡り、初球。イメージは外よりの低めの真っ直ぐをライト前ですから、そんな風に待っていたところ、ほぼ真ん中だった。

タイミングは掴めていたから振っていったのだが、遅れた。１塁側のスタンドになるファウルボール。

２球目のストレートは高めに外れた。

１ボール１ストライク。お世辞にもコントロールがいいタイプではありませんからね。ボールの勢いでバッターを押し込んでいくスタイルですから、細かいコントロールはない。

ゾーンから外れたボールに手を出して相手バッテリーを助けないようにしたい。

３球目は、スライダー。あまり変化は大きくないが早いタイミングからゾーンを外れており、外に流れていくそれを見ながら俺は、なるほどねと頷いた。

「中野さん。３球目はスライダーでした。１４８キロ。変化球にもスピードがあります」

「１ボール１ストライク。楽にスライダーを投げられる唯一のタイミングだと思うんですけどね、ここは。もう少しストライクに近いところに欲しかったですけど、３ボールにはしたくないですね」

ストレート、ストレート。１球スライダーですから、ストレートでしょうねえ。

長いセットポジションからぐあぁっと来たのはインコースのギリでして、ない！ボール！と、バットを出し掛けながら見たのだが、ストライクを取られてしまった。

これで２ー２。フルカウント。

勝負球はフォークボールだった。

「落とした！見ました！！新井は見極めました！場内がどよめきます。１５１キロのフォーク。真ん中低め、新井は我慢しました」

「やっぱり新井はいい選球眼をしていますよね。ストライクからボールになるコースでしたけど、ある程度意識しながらそのフォークを見極めましたからね。手が出なかったわけではないと思いますよ」

「なるほど、これでフルカウントになりました。２アウト満塁。ランナーは自動的にスタートします。大事な、大事な６球目。バッテリーは何を選択し、新井は何を待つのか。

……テイクがセットポジション。投げました！！ ストレート、打ちました！！３塁線、痛烈、抜けました！！ファウル、ファウルボールです！！僅かに左でしたが、なんと１６３キロ！！

テイクはこの１球で日本での自己最速を１キロ更新しました！さらに、今シーズンのプロ野球での最速です。しかし、新井はこれを弾き返しました」

「しかも、引っ張っていきましたよね、新井は」

「そうですね。しかも、３塁線、あと１メートルないところ。完全に捉えた当たりになりました」

「ボールがインコース寄りというのもあるんですけど、フルカウントの状態で今の１６３キロを引っ張ってファウルにするんですから、やっぱり４割打者は違いますよね。

ただ、キャッチャーの中野は困りましたね。ただそれなりのとこにはいっていますから、もう１球ストレートでも面白いとは思うんですけど」

惜しい。惜しすぎる。打った瞬間は、サードが抜群の反応をしても間に合わないところでしたから、よっしゃ！と思ったけれど、僅かにタイミングが早かったですわね。

ただそんなに速くは感じるボールではなかった。初球の１６０の方が速かった気がするくらい。

もうこうなるともう１球、１６０キロもあるし、押し出し覚悟の変化球もある。

正直迷った。だから、ワンバウンドのフォークボールにバットが回ってしまい、空振りになってしまった。

それと同時に、キャッチャーがそのワンバンフォークを大きく弾いてしまっていたのだ。

「フォークだ！！空振り！三振ですが！ボールを逸らしている、逸らしている！振り逃げだ！！キャッチャー中野、ボールを見失ってしまったが、ランナーが向かってくる！２塁から桃白もホームへ突っ込んで来るぞ！！」

あっ、こういうパターンもそういえばあるんだねと、忘れた頃にやって来るもの。

振り逃げなんてものは。

攻撃側からすれば、新井が空振り三振！ぎょえ～！ってなった瞬間に、ボールが後ろにポーンと弾んでいるわけですから、そしてランナーがオートマでスタート切ってるじゃん！

ってことに気付いたら、もうビクトリーズファンの脳汁がヤバいですわよ。