これはまさにわたくしのお弟子ですわね。
俺も最後まで追いかけてホームランキャッチを狙ってやろうとしたが、打球はフェンスを5メートルほどオーバーしてレフトスタンドに入ってしまった。
満塁のピンチを凌いだんだから、この回もいけるだろうという気持ちと、満塁の時に打たれなくて良かったという空気が入り交じる中、ノッチはホームランを打った選手がホームインするのを見届けると、マウンドに近付いて野中さんに何か声を掛けた。
カキッ!!
「これもいい当たりになりました!柴崎下がる、柴崎下がる!!フェンス際!…………捕った!捕りました!!これはビッグプレー!!最後はフェンスに激突しましたが、大丈夫!ボールも離しませんでした!1アウトです」
「これは野中を助けましたねえ」
カンッ!!
「詰まった打球ですが、レフト線だ!!フェアです!!打球はファウルグラウンドを転がります!!新井が追う!!バッターランナーは1塁を回る!!素手で掴んで新井は2塁へ!!ワンバウンド送球!!………セーフ、セーフです!!ツーベースヒットになりました!!」
「2ボール2ストライク。ここまでカットボールとチェンジアップという組み立てですが。決め球はどうするか。………フォークボール!!サードの横!!飛び付いた!!止めました!!1塁送球アウト!!サードの芳川にも好プレーが飛び出しました!!2アウトランナー2塁です」
「2球目打ちました!!1、2塁間!!マテルがダイビングしますが、届きません!!ライト前!!俊足の鈴木は2塁を蹴る!!ライトは桃白だ!!バックホーム!!ノーバウンドですごいボールが返ってきましたー!!タッチ……アウトになりましたー!!
ライト桃白のこれレーザービーム!!今シーズン、9個目の捕殺で2塁ランナーをホームで刺しています!!」
出ましたよ、食いしん坊嫁バズーカ。やっぱりレフトから見ているとものすごい軌道。リリースポイントから放たれたボールがグイーンと伸びたまま、構えるノッチの膝元にストライクですから。
顔や胸の高さではなくて、1番ありがたいところ。
ランナーが3塁を蹴った瞬間は、5分5分のタイミングかと思いましたけど、わりと余裕のタッチアウトでしたわ。
これもまた久々登板の野中さんを救いましたね。
鬼の連敗モードですけど、ショートの並木君、セカンドの祭ちゃん。サードの芳川君もいいプレーがあった。そして柴ちゃんと桃ちゃんも、自分の持ち味を発揮してくれた。
わたくしだけですわね。レフト線ポトリをツーベースにしてしまって、なんか変な感じにしてしまったのは。
だから顔を隠しながらベンチに戻ったのですけれど………。
「新井!追い方悪いぞ!打球は切れるんだからもう少し回り込まないと!」
などと、外野守備走塁コーチに、みんなの前で叱られてしまった。
ですので、ガムを1枚渡しまして、みんなの笑いを誘い、なんとかごまかしましたわ。
ですから、8回にエンゲラが向こうのルーキーバッターに今日2本目となる逆転ツーランを食らったのは本当に痛かったですわね。
ここまでパーフェクトなセットアップぶりを見せていた助っ人マンのフォーシームを今度はライトポール際に持っていかれてしまった。
そして残すは最終回のみ。
しかし赤ちゃん、柴ちゃんとクローザーサウスポーに連続三振を食らってしまった。
「ビクトリーズ、選手の交代をお知らせします。バッター、桃白に代わりまして、山田」
代打のブライアンが登場すると、スタンドからは大きなどよめき。
山田ブライアンといえば少し前にも同じようにビハインドの9回に代打登場し、起死回生の同点ホームランを放ったばかりですから。
そのホームラン以来ヒットは出ていないとはいえ、当然ファンもチームメイトも、もしかしてと予感が走る。
しかし、落ちるボール2つ。真ん中とインコース。膝元の高さからストンと落ちたボールにブライアンは連続で空振り。
あっという間に追い込まれてしまった。
落ちるボールにはタイミングが合っていない。最後はまたそのボールで仕留めたい。キャッチャーは高めにミットを構える。
釣り球のストレートだった。
カァンッ!!
「打ちました!レフト。たかーく上がりました。レフトが上空を見上げながら……どうだ?まだ下がっている!まだ下がる!!見上げた!は、入りましたー!!山田!9回2アウト、同点!!また土壇場で代打ホームランを放ちました!!第4号です!」
「「うおおおっ!!」」
ボールがレフト最前列のスタンドに飛び込んだ瞬間、ベンチにいたメンバーが一斉にグラウンドへ飛び出す。そして2塁を回るブライアンの姿を見て、ちょっと冷静に、あいつ、ヤバくね?と、みんなびっくり。
色黒で真っ白な歯をキラリと光らせながらブライアンはホームインし、ベンチにゆっくり戻ってくる。
チームメイト達は、大騒ぎで彼を出迎えたが、本人はちょっと憎いくらいにクールだった。
「俺はもっと師匠である新井さんと一緒に試合に出たいんで、まだまだ頑張らないと」
ブライアンはヘルメットを外しながら、ちょっと見下ろすようにして俺にそう言った。
まあ!なんて嬉しいことを言ってくれたのかしら、このお弟子ちゃんは。俺は感激しながら改めて彼におケツを叩かれた。
そして試合はそのまま引き分けた。
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