継投ちゃいますの?

そんなことを考えていましたら、157キロのストレートがどうしてかバットの先っぽに当たってしまいまして。



「打ちました!サードの前、フェアゾーンです!!サードが前進する!新井が走る!!ベアハンドスロー!!あーっと!!送球が逸れました!!新井はこれを見て2塁にいきます!!……1アウトから新井が出ました。記録はヒットと送球エラーという形になりました。大原さん、バットの先でした」



「バットの先でしたねえ。157キロのボールだったんですけど。サードも新井ですから、三遊間寄りの守備位置でしたよねえ。それでも際どいタイミングまでよく持っていきましたけども」



「1アウト2塁でバッターは勝負強い祭です。初球打った!!ショートライナー!あっと、弾いている、弾いている!!拾って1塁に投げられません!!セーフになりました!!新井は2塁のままです!」




祭ちゃんの当たりは2塁いる俺に襲いかかるような痛烈なライナー。すぐ背後にショートがいるのは分かっていましたから、頭から戻ったところで、ショートの選手が膝の辺りの高さで捕球しようとしたグラブの先を打球に持っていかれてしまった。




そっから3塁に走ることも出来ませんから、亀のように2塁ベースに覆い被さったわたくし。




続く芳川君も、ストレートを叩いてライト線のギリに落とすタイムリー。さらに赤ちゃんの犠牲フライで、ビクトリーズが2点を先行したのだった。




しかし……。



「打ちましたー!!センター前!!2塁ランナーは!?止まりました、止まりました!!満塁です!ん~!野中、ここも少しボールが中に入ってしまいましたでしょうか。タイムがかかりまして、ピッチングコーチがマウンドに向かいます」



2巡目の中軸。1巡目は低めにカットボールとツーシームを投げ分けて打たせたところで、先頭バッターに目先を変えようと投げたカーブを上手く打たれたのがちょっと計算外だった。



ライトのフェンス際へ、あわやという飛球を打たれながらも1アウトとした後に、カットボールを流されてライト前、そして今度はフォークボールをセンターに運ばれてしまった。



その打球も、ピッチャーの足元を抜けていった打球ですから、上手く反応してグラブを出していればアウトに出来たんじゃないかと思ってしまう当たりだった。



この辺りも、久しぶりの1軍登板でまだ勘が戻りきっていないということなのかもしれない。



ともかく、2点リードの1アウト満塁ですから、犠牲フライやゲッツー崩れの1点はしょうがない。



そういう気持ちで守っていた。



打席には、左の好打者。1打席目もセンターフライになったが、長打になってもおかしくない打球を飛ばしていた。



緊張が走る。




1ボールからの2球目。低めのカットボールだった。




カァンッ!!




痛烈なライナー。






あかん。



柴ちゃんは右中間に寄っている。俺の足では左中間を真っ二つに割られる。そうよぎった瞬間に。




バシィ!!




ジャンプ1番、キャプテン並木。



ショートの彼は後ろに2、3歩下がりつつ、ここしかないというタイミングでグラブを伸ばし、その先っちょからボールを半分覗かせながも、グラブに納めていた。



アイスクリームキャッチというやつ?



なんにせよデカイ。野中さんも、うわあ………助かった………という表情をしながら、並木君に向かって青いグラブを向けた。





カンッ!!




「1、2塁間だ!セカンド祭!深いところ、追い付いた!立ち上がって1塁へ!きわどい!アウトになりました!!ナイスプレーー!!先発野中を盛り立てます!レッドイーグルス、チャンスは作りましたがこの回も得点ありません!!」




低めのボールをバットの先ながらも、嫌らしいところに飛ばされてセカンドの祭ちゃんがインフィールドラインの向こう側で足から滑り込みながら打球を押さえ、1塁にも片膝の状態でいい送球を送った。



いいね。俺がかつて見ていた二遊間とは守備の堅さが違いますわね。球際の強さが違う。



福岡にある巨大戦力の育成出身のショートと独立リーグ出身のドラ3セカンド。



ようやっとる。





「野中、もう1イニング大丈夫かい?」



連続ファインプレーでチェンジとし、盛り上がるビクトリーズベンチ。その1番ベンチの奥で、タオルで顔中の汗を拭いながらドリンクを飲む野中さんに、ピッチングコーチが言伝。



結構いっぱいいっぱいなところもあるが、なんとか6回まで。そこまで持っていければというチーム状況ですから。



久々の登板。チームに必要とされる充実感を噛み締めるように野中さんは何度も頷きながら力強い返事をした。






スカァンッ!!





しかし、気力の充実具合がそのまま結果に直結するほど甘くないのがスポーツの難しいところである。




「レフトに上がった!!大きな打球になっている!!レフトの新井がずーっと下がってい、フェンスに昇る!!………入りました!!ホームランです!ルーキーの神田に1発が飛び出しました!」



前の回は、カウント球が甘くなったところを狙われてしまいましたから、先頭バッターには特に大事にいこうと2球が甘く続けたカットボールを思いっきり叩かれてしまった。



決して甘いコースではなかったんですけど。外よりの低め。


内野ゴロを打たせるためにはいい球だったけども、がむしゃらモードのルーキーの思い切りのよいスイングのツボにちょうどハマってしまった形になってしまった。






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