汁なしラーメンもありましたわ。
そしていざ移籍してみると、奥様の体調がすこぶる快調になったご様子だったようで。
もちろん、それまでの懸命で地道な治療があってこそなんでしょうけど、翌年には念願の第1子が誕生したりと、幸せづくめだったみたい。
成績の方はというと、移籍初年度は子作りに励む元気はありながらも、背中の張りがあって出遅れたが、夏場に復帰して7勝。
2年目は開幕ローテに入るなど順調で、4年ぶりの2桁勝利となるチーム最多の11勝を挙げるなど、ビクトリーズの6年間で45勝をマークした。
しかし、去年の秋頃からコンディション不良に悩まされ、今シーズンはここまで1軍登板はなし。とはいえ、9月に入った瞬間、チームは悲願の優勝争い中にまさかの大失速ですから。
阿久津監督から、お前しかいないお呼びが掛かり、先週2軍で5イニングを投げて、今日1軍に上がってきた形だ。
「間もなく試合が始まります。ビクトリーズが今日が133試合目。今日を入れてシーズンは残り11試合というところまで来ています。解説は大原さんです」
「2週間前まではね、首位とあと1ゲーム差まで来ていたんですが、ちょっとしばらく流れが良くないですねえ」
「そうですよね。夏前に最大7つあった貯金は、現状借金が3。首位とはまだ5ゲームとはいえ、残り試合的には、もう1つも落とせない形になってしまいました」
「勝てない要因はピッチャー陣。特に先発ですよねえ。ここに来てちょっと精彩を欠いてしまっていると言いますか、今まで踏ん張れていたところで痛い1打を浴びてしまっていますのでねえ。
そういった意味では、今日はベテランの野中が先発ですから、チームを蘇らすような気持ちの入ったピッチングを期待したいですねえ」
「野中も本来なら今年も開幕からローテーションでという期待はあったんですが、背中や下半身のコンディション不良でなかなか思うようにはいきませんでした。
1軍のマウンドはおよそ1年ぶりということになりますが、先週は2軍で5回80球、1失点とまとめ来まして、今日はそこから中5日。4位東北レッドイーグルスとの今季最後の対戦のマウンドに上がります。1番は勝見です」
プロ15年目のベテランとはいえ、今シーズン初先発が負けたらもう優勝はないなあという土壇場の1戦ですから。
投球練習が終わり、マウンドの後ろを少し歩いて、つけすぎたロジンをふうっと息を吐いて落とした後に、またロジンに手を伸ばしているのを見て、やっぱり緊張しているんだなと、見て取れてしまった。
ですから……。
初球、2球目と球が上ずってしまって、なんとかフルカウントまで持っていったところから、向こうの1番バッターが流し打ってレフトのファウルグラウンドにいった打球。
それを予めレフト線に寄っていた俺がダイビングしてキャッチした最初の1アウトというのは非常に大きいですよ。
だからその打球をキャッチして、フェンス際までズササーッと滑った後に、キャッチアピールなどせずに、人工芝に倒れ込んだまま平泳ぎのジェスチャーをしていた時は、野中さんも笑っていましたね。
こんな後がない試合で、自分の次に年上の選手がレフトでバカなことをしているんですから、無駄な力と気負いなんて自然と抜けていきますよ。
2番深田、3番アレックを共に低めのボールを打たせて連続内野ゴロ。らしい打たせて取るピッチングで初回を立ち上がり、スタンドから大きな拍手をもらっていた。
となると、ビクトリーズとして早く欲しい先制点だが、最速156キロというボールを投げ込んでくるチーム最多勝右腕に、序盤3回はヒットが出ず。
4回、並木君がセンターフライに倒れて、俺の2打席目である。
「これもファウル!新井が粘ります。次が9球目。全てバッテリーはストレートで勝負しています」
初球から、153、155、154、152、156、150、153、154、155。
これはもうみのりんのデート配球と同じですよ。ラーメン、ラーメン、またラーメン、混ぜそば、油そば、雨が降ったらまたラーメン。
今日こそはパスタとかあるんじゃないかと思いきや、やっぱりラーメン。速さとコースが違うだけなんです。
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