決めるのはやはりわたくしというわけですわね。

マスクを外したノッチが頭上を見上げる。打球の方向を確認し、バックネットのやや3塁側に向かってダッシュ。



ネット際、足から滑り込み、衝撃を和らげるようにしながらネットに向かってミットを出す。



バシッ!!



難しいフライをしっかりミットに収めながら、勢い余って半回転。足とおケツがお空の方に向いていた。



球審が力強くアウトコールをし、ベンチのコーチ陣、グラウンドの選手達がホーム、ホームと声を上げる。



ノッチも急いで体勢を立て直し、ホームをケア。ピッチャーの酒屋君がカバーに入り、あわよくばとタッチアップを狙った3塁ランナーは塁に戻った。



ファイト溢れるプレーにスタンドからは拍手。いいね。



普段からゲームの場でも、グレネードを避けきれないと思ったら、すぐ壁際に滑り込んで少しでもダメージを軽減させろと、こじらせ女子2人に言われていますからね。



そんな指示が野球の場でもしっかりと生かされていますよ。




2アウト。バッターはまたしても代打。



右のコンタクト系。



初球インコース。






相手のバットをへし折った。



打球はピッチャーへのゴロ。酒屋君がワンバウンドで掴み、走りながら大事に1塁へトス。



3アウトチェンジ。ノーアウト満塁。絶体絶命の大ピンチを酒屋の長男坊が落ち着いたピッチングで見事に凌いだのだった。





「9回裏、ビクトリーズの攻撃は、7番ライト、桃白」



試合は1点ビハインドのまま。最終回。



ピッチャー陣の踏ん張りでなんとか終盤は失点せずに来たが、こちらもあと1本を繰り出すことが出来ずに、得点を奪えずにいた。




カァンッ!!




「よっしゃあっ!!」




バシィ!!




「うわあぁっ、正面かよおっ!!」



桃ちゃんは初球のストレートを果敢に打っていき、いいバッティングをしたがセカンド正面のライナーで1アウトとなってしまった。




8番の柴ちゃんも追い込まれてから低めのフォークボールを上手く拾ったがセンターの守備範囲。




2アウトとなってしまった。




9番のノッチというところだが、打率は1割5分。当然代打である。



「アンパイア!!」



阿久津監督がグラウンドに1歩踏み出し、代打を告げた。



「ビクトリーズ、選手の交代をお知らせします。バッター、北野に代わりまして、山田。バッターは山田ブライアン!!」




ベンチ裏ではちょっとしたわちゃわちゃ祭。



延長に入ったならばと、ベンチ裏のブルペンで肩を作っていた外野手登録のブライアンがチェンジになった瞬間に、今度は隣のアップルームで素振りを始めていた。



そして桃ちゃんと柴ちゃんがアウトになり、ネクストから打席に向かう。



変則2刀流もなかなか大変ですわね。



でも、 前にもこんなことがあったような。





その時も、9回に代打で出てきたブライアンが横浜ベイエトワールズのクローザーから左中間スタンドに…………。




カッキイイィッ!!



「おおっ!!レフト、レフトに上がった!!すごい音!!完璧な当たりだ!!レフトスタンド入りましたー!!上段までいきましたー!!」




マジ?




やば。




初球。インコースに抜けたボールに対して、アームガードをした左腕をデッドボール狙い軽く出すようなセコさをしながら見送った後の2球目だった。



150キロのストレートをジャストミートのジャストレンジ。



打球速度165キロ、角度25度と表示された打球は、レフトスタンドの上段。あと少しで桃菓堂と書かれた看板に直撃しそうなくらいの飛距離だった。




打った瞬間に、ブライアンは確信。打って2、3歩ゆっくり歩き出した時には、打球なんて見てないんですもの。



もう今シーズン、30発は打っているかのような立ち振舞い。



9回土壇場。チームを救う起死回生の代打同点2号ソロホームランとなった。




「そして、同点となりまして、バッターは並………打っていった!!これもいい当たりになりました!左中間の真ん中!破っていきます!!」



外よりの変化球を拾うと、打球は左中間のど真ん中。ワンバウンドでフェンスに当たるナイスなバッティング。並木君は悠然と2塁へ到達。彼はこれでまた打率が3割に乗ったのだった。



「2アウト、ブライアンの同点ホームランの直後。キャプテンの並木も続いていきました。今シーズン、25本目のツーベース。平柳に並んでリーグトップの数字です。そして、横浜ベイエトワールズは、ピッチングコーチがマウンドに向かいます。


サヨナラのランナーが2塁にいますが、どいしますでしょうか、大原さん」



「申告敬遠の可能性もありますよね。長打の確率が低い新井君ですけど、ライト線やセカンドの頭を越されるようなヒットを打たれると、前進守備を敷いていてもサヨナラになってしまいますのでね」



「川俣との対戦成績は、通算で5打数2安打。打率は4割1分4厘。得点圏打率も3割8分ある新井です」




やっぱり、こういう場面が回って来てしまうんだよなあと、集中を高めていまして、相手の輪も解けたのでバッターボックスに入ろうとしましたら………。



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