そら、拾うでしょ。

「新井君、敬遠!」



球審のおじさんがどこで覚えたのか人の名前を呼び、1塁を指差していた。



びっくりしながら、俺は自分の顔を指差した。



「君しかいないだろ!」



と、スタンドのおじさんからツッコミをもらいながら、俺はせっかくこれでもかとスプレーしたバットと防具を色々外し、ボーイに全て渡した。


そして、まるで鍋掴みのような、指を守るためのごっつい真っピンクな走塁用のグラブを右手に着けて、1塁を踏んだ。



2アウト1、2塁で3番のお祭りちゃん。決して調子が悪いわけではない。わたくしがイケメン過ぎるからというパターンだ。



「さあ、新井が歩かされまして、3番祭です。打率2割9分6厘、18本塁打。打点は80あります。非常に勝負強さがある祭。初球。………ボール!外の変化球から入りました、祭は反応しませんでした」



「祭のイメージは速いボールを右中間方向という、そんなタイミングの取り方に見えましたねえ」



「初球はアウトコース。右バッターから逃げるように投げた変化球が外れました。2球目は速いボールか、変化球を続けるのか。川俣、セットポジション。……長く持ちます。


………ストレートだ!!捉えましたぁー!!センター後方!!前進守備でした!!センター、ライトは追っていません!!打球は、フェンスダイレクト!並木が返って来ます!!サヨナラー!!祭が決めましたっ!!」





ブライアン君のホームランとは違ったけど、打った瞬間。シングルヒットで2塁ランナーは返さないという外野の守備体形でしたから、定位置よりも深いところに飛ばしたら勝ちよ。



余裕のオーバー。右中間フェンスの下の方に、みのりんもご愛用の化粧品のロゴマークにぶち当たるヒット。1塁ランナーの俺は一応3塁まで走りまして、その打球が飛んだ方向にダッシュした。



もちろん、サヨナラボールを拾うためである。ベイエトワールズのセンターとライトの選手は打球がフェンスに当たる前から追うのを止め、3塁側のベンチに向かって走っていった。



俺はフェンスの側。緑の人工柴と茶色になっているウォーニングゾーンの境目で止まっているボールを回収に走る。



それを拾って戻ってきた頃には、サヨナラ打を放った祭ちゃんに群がるノリがちょうど終わったところになっていて………。



新井さん、何処行ってたんすか?



新井さん、何してたんすか?



みたいに、びしょ濡れになっている祭ちゃんを含めて、一瞬のうちにシンと怖いぐらいに集まっていたみんなが静かになってしまった。



俺はちょっと間を置いた後、右手にそっと乗せたサヨナラボールを見せながら………。



「サヨナラのボールを拾いに行ったら、乗り遅れました……」



と、答えると、また一瞬の間を置いて……。








「「ギャハハハハハ!!」」




みんなに爆笑されてしまったのだ。






というわけでもう1度、申告敬遠された俺のために軽く盛り上がってもらい、いい加減に早くしろと急かすコーチに促されて、1塁線に並んでご挨拶。ファンと共に、サヨナラ勝ちの喜びを分かち合ったのだ。




そして翌日の3戦目は、新加入のアンデルセンが6回3失点と粘りのピッチングに対して、今日は下位打線が魅せた。



2回2アウト、フォアボールに盗塁を決めた赤ちゃんを2塁に置いて柴ちゃんがライト前タイムリー、8番桃ちゃんもフルカウントからライト線へ打球を運び、スタートを切っていた柴ちゃんが一気にホームインして2点を先制。



さらに5回には9番キャッチャーの緑川君がライトスタンドに豪快な2ランホームランを放ち逆転すると、6回にはまたしても柴、桃の連続タイムリーツーベースでさらにリードを広げた。



3点リードで終盤に入り、7回玉地、8回エンゲラ、9回キッシーと磐石のリレーで最下位横浜に3連勝。首位埼玉と1ゲーム差の単独2位に上がったのだが…………。






調子が良かったのはその辺りまでだった。




残り20試合を切った頃………。







スカァン!!




「レフト、レフトに上がった!!藤並の打球!!………入りました。なんと今日2本目のホームランは、満塁ホームランになりました!今日、7打点!フジナミ!!9ー2!!フライヤーズ、さらにリードを広げます!!」


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