つまりチャンスよ。
5番マテル。2ボールからのアウトロー。今度はカット気味のボール。これはすんばらしい!というキャッチャーの捕り方だったが、ストライクコールがそこにはあらず。
キャッチャーが今のボールですかと、思わず振り返るも、球審はまるで人が変わったように、ボールだけど?と、冷たい態度。
3ボールですけど、ストライクを取りにいって痛打されては目も当てられない。厳しく攻めてフォアボールでも仕方ないと、キャッチャーは外のきわどいところに投げたが、ボールは高めへ。
それをマテルは積極的に打ち返した。打球はややバットの先になり、ライト前にポトリ。
俺に続いて祭ちゃんも一気にホームを狙って滑り込む。非常に際どくなったが判定セーフ。ベイエトワールズさんはリクエストもこれは判定が覆らないだろうと、そんな気持ち。
その間、ホームインしたばかりの俺はキャッチボールをしていた連城、ノッチ、さらにピッチングコーチにバッテリーコーチも呼んで話をした。
「俺がランナーとして見ていた感じなんですけど、ランナーがいるといないとじゃ、全然ストライクゾーンが違いますね。もう下手すりゃ右バッターの外はボール1個違っちゃってるんで、マジでその辺りを頭に入れて配球していった方がいいっすね。連ちゃん、外のコントロールしっかりね」
「ウイッス!!」
「ノッチもストライク取ってもらえないからって、イライラして退場しないように」
「いつもFPSやってる時に、メンタルを乱すな、冷静に撃ち合えと、みなもんやあかりんに躾られているんで大丈夫っすよ」
「ははっ、確かに!」
そういえば、昨晩も言われていたばかりでしたわね。
そうこうしている間に、リプレー検証していた審判おじさん達がバックネットから戻ってきた格好。
ピッチングコーチやバッテリーコーチのおじさん達からも、わざわざありがとなとお礼を言われながら、俺は自分がアドバイザーしているエナジーゼリーを一気に飲み干した。
事件が起きたのは6回表、ベイエトワールズの攻撃である。
4番からの攻撃でヒット2本とフォアボール。2アウトランナー満塁となってバッターボックスには9番キャッチャーの高下。
リードは2点。ここを凌げば試合は終盤戦。球数が100に到達しそうな連城君に取っては最後になる踏ん張りどころが来ていた。
初球、スライダーが外に流れて1ボール。
2球目は右バッターのインローストレート。若干低いかなという気もしたが、コースは抜群。球審の手が上がった。
バッターの高下は、ちょっと待ってよ!!と、上半身を大きく仰け反らせるように訴えた。
次の球もインロー。今度はさらに低くいってしまってボールツー。
次のスライダーは真ん中近くに入ったが、高下のタイミングが早く、3塁側のエキサイティングシートの上を通過するファウルボールとなった。
2ボール2ストライク。
このバッターにはまだ見せていなかったフォークボールをここで使う。真ん中低めのいいところからホームベースに落としたボールに高下は反応。
しかしすぐにボールと判断し、バットを止める。しっかりと前に落としたボールを拾いながらノッチが1塁審判にチェックスイング。
手が横に広がった。
両チームのファンから、おお~っ!と、思わず声が上がり、どこからともなく、選手を励ます拍手も起こった。
2アウト満塁のフルカウントですから。
飲み会終わりの終電10分前に、ネオン街裏のコンビニ前。そんな時間にまだ女の子と2人で一緒にいるみたいな。しかもちょっと雨がパラついてきたし………。
そんな状況でしょうか。
「ランナーはオートマチックでスタートします。連城、セットポジション。………アウトロー、真っ直ぐ!!見送る!………ストライクだー!!見逃し三振!ああーっ、高下が怒った、怒った!!退場、退場です!!」
最後は今日のポイントになっている右バッターのアウトロー。そこに151キロのストレートが入り込んだ瞬間、バッターの高下はボールと判断した。
左腕のアームガードに手を伸ばしながら1塁に向かうところに、球審のストライク判定。
バットを叩きつけ、ヘルメット脱ぎ捨てながら、高下は激昂。球審を突き飛ばすような勢いで詰めよった。
ところをホームベースを踏みながら、次のバッターが止めに入ったが、間に合わず球審は後ろ向きに右腕を退場を宣告。それを聞いた高下はさらに怒り出した。
さらに3塁側のベイエトワールズベンチからも監督と打撃コーチが現れて、今のボールのどこがストライクなんだよ!と、猛抗議体制に入ってしまった。
俺がちょっと前に、連城君とノッチに対して偉そうに忠告していたのがまさにこれ。
俺が危惧していた事態が目の前で起こってしまった。
高下は、 際どいところをボールと判定されていたギリギリのアウトロー。まさに今のコースのボールをずっと受け続けていましたから。
そのボールが自分がバッターの時の、しかも2アウト満塁のフルカウントという状況で来てしまいましたからね、色んな意味で最高のアウトローが。
自分が出れば1点返して満塁で上位に回るというところでしたから、それまでマスクを被っている間に我慢していた分も含めて、感情が爆発してしまってもおかしくはない。
俺はそんな風に考えながら、柴ちゃんに声を掛ける。
「向こうのキャッチャーが退場となればチャンスだね。思う存分君の足が生かせる」
「ええ、任せて下さいよ」
互いに乳飲み子がおうちに居る間柄ですからね。今の我々は、責任感が違いますから。
入団1年目、2年目の頃が懐かしいですわよ。
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