この謙虚な姿勢よ。

真ん中高めのボールを強引にはいかずに、右方向へ。ノッチに対してバットを短く持てと偉そうに言ったばかりですからね。



俺も堅実的な連続性を発揮して、しぶとく弾き返した。セカンドの選手に捕られたかもと一瞬思ってしまいましたけどね。なんとか抜けてくれました。



1アウト1、3塁ですから、後はもう中軸に任せるだけという気持ち。走るな!というサインがいちいち出ますし。




「空振り三振!!期待の祭りは低めの変化球にタイミングが合いませんでした。これで2アウトです」



「なんとかバットには当てようとした分、スイングが緩んで空振りになってしまいましたよね」



「2アウト1、3塁で4番芳川です。初球、キャッチャーはインサイドに構えます。………あーっと、当たってしまいました!デッドボールです。芳川は大丈夫でしょうか?


トレーナーが駆けつけまして、一緒に1塁へ歩きます。肘当てのところだったでしょうか、芳川本人は苦笑いを浮かべながら歩いていきます」



速いボールかズガッと当たりましたんでヒヤッとしましたけど、さすがはおっきいお腹をしているだけあって大丈夫だったみたい。



むしろ、大丈夫じゃなかったのは当ててしまった埼玉さん方。



2アウト満塁。1ボールからの2球目。ドミニカン砲が炸裂した。






シュドッ!!



物凄い打球が飛び出した時って、思考が停止しますよね。パワーのあるバッターがドンピシャのタイミングで捉えて、1番飛距離が出る角度で打球が上がる。



打った本人は確信し、チームメイトは飛び上がりながら喜び、相手チームは絶望する。



そんな紆余曲折を生み出す白球は、着弾するまで誰も触れることが叶わない。



激しく叩かれた打球がドーム内の空中を思うがまま舞い上がり、歓声と共にスタンドへ飛び込んでいく。



マテルの放った一撃は、連勝中だった首位チームを下すには十分な破壊力だった。









1位埼玉ブルーライトレオンズ


2位北海道フライヤーズ 2ゲーム差


3位北関東ビクトリーズ 1ゲーム差


4位東京スカイスターズ 0、5ゲーム差


5位東北レッドイーグルス 0、5ゲーム差


6位横浜エトワールズ 3ゲーム差




8月に入り、ご覧のように東日本リーグ例年では全く持って見られなかった大混戦である。



開幕から1ヶ月半、そして8月頭。首位の埼玉さんが混戦状態から抜け出そうとしたところに立ちはだかったのが、我らがビクトリーズであった。



5月は俺が復帰したタイミング、8月は新加入の助っ人スターターが加わり投手力が上がったタイミング。それぞれ大型連勝に向かっていた獅子軍団を北関東サクラ中隊が打ち破った。



それ横目に逆転首位に立ったフライヤーズは、怪我人が戻り、調子が戻った最下位横浜に、ホームビジター合わせてまさかの5敗を喫して1日天下に終わっていた。





前半戦はAクラスをしっかりキープしていた東北さんは、活気のあった打線が鳴りを潜め、ここ最近は接戦を落とす試合が増えた。



逆にオールスター辺りまで最下位に近いところで沈んでいた東京さんは、平柳君の7月の月間MVPを獲得する活躍に引っ張られて打線が活性化。


打率3割5分、24本塁打の平柳君を1番に置き、ベテランの佐藤さんが繋いで、キューバからの助っ人と4番の吉原君が返すいい形が出来上がっていた。





ビクトリーズはその東京スカイスターズをホームに迎えた試合。



8月20日。



この日は、わたくしの36回目の誕生日である。




そんなわけですので………。




並木君が幸先よくセンターへヒットを放ち、ノーアウトランナー1塁となったところで。




「「ハッピバースデー、アライー!」」



「「ハッピバースデー、アライー!」」





1打席目の前に、スタンドのビクトリーズファンからの大合唱。わざわざバックスクリーンにも、HAPPYBIRTHDAY!!と、文字を出して頂いたりして。



こうやっていつも応援して下さるファンの方々がいらっしゃるから、私達は毎日野球が出来るわけですから。本当に、言葉も出ませんよ。



どーもどーもと、改めて感謝の気持ちを伝えながら打席に入ると、気付いたらバントをしていた。







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