新たな敵。
時期はお盆。シーズンは残り1ヶ月半と佳境。
この時期は特に右打ちが決まる。
相手が一緒にオールスターを戦った北海道フライヤーズのエース、上山となれば尚更である。
「フルカウント。8球目です。上山セットポジション。………ランナーがスタートを切った!新井が打つ!詰まった当たりですが、ライト線!………フラフラッとした打球がラインの内側落ちました!!」
いてえ。ある程度ストレートに張ってタイミングを絞っていたのに、結構がっつり詰まらされた。それでも、なんとかファーストの頭を越してライト線にポトリ。
ランナー1塁という局面のシングルヒットとしては最高の形である。
1アウト1、3塁。バッターは3番祭。ストレートが2つ外れてボール先行。3球目の小さく曲がる変化球を上手く打ち返した。
「いい当たり!サードの正面!!ああーっと、捕れません!後ろに弾いてしまいました!!」
ショートバウンドになった打球がサードの目の前のアンツーカーで跳ねた。グラブの土手に当たり、大きく跳ねたボールが3塁側のエキサイティングシートの前へ。
1塁から3塁にスタンディングで到達するには、十分な形になった。
記録はエラー。初回には、互いに打線が繋がって2点ずつを取ってからは膠着状態にはいっいましたから、ゲッツーが過った打球がレフトまで跳ねて勝ち越し点が入り、尚も1アウト2、3塁はデカイ。
フライヤーズ側はピッチングコーチがマウンドに向かった。
「フライヤーズにとってはこれ以上の失点は許したくない場面になりました。マウンド上の上山はデビューから7年連続の2桁勝利がかかっているマウンドになります」
「今日はね、よく粘って投げているとは思いますよ。初回も並木のツーベースはレフト線にポトリと落ちた打球になりましたし、打撃妨害もありましたからね。………しかし、新井にライトへしぶとく運ばれたのは痛かったですねえ」
「通算で12勝というところも見えている上山。今シーズンもここまでローテーションを守り抜いて9勝を挙げていますが、このピンチ。負け越しは1点で凌ぎたい上山です。バッターは4番芳川。………初球!落として空振りです!」
初球のストライクからボールになるフォークボールを振ってしまったという。それが全てとも言える打席になってしまった。
2球目は、アウトローのストレート。低さもコースもこれ以上ないところに150キロが決まってしまい、2ストライク。
1球、振ってくれたら御の字というフォークボールがまた来て、最後はインハイのストレート。なんとか空振りは免れようと。そうするだけでいっぱいいっぱいのスイングになってしまい、平凡な内野フライ。
前進守備のセカンドが少し回り込むようにしてそのフライを掴み、すかさず3塁ランナーである俺をケアする。
「5番、ファースト、マテル」
2、3塁ですからねえ。なんとかもう1点取って、2点リードにしたい。
ビクトリーズの願いはそんな感じでして、3塁コーチャーおじさんも、フォークボールがワンバウンドしたら狙えよ。その代わり、第2リードからのバックは早くなと、俺に耳打ちする。
バッテリーの攻め方は、芳川君と同じイメージ。まずは落ちるボールで様子を伺う配球。
その初球。フォークボール。低めのいいところにいったナイスボールをマテルは叩いた。
スカァンッ!!
助っ人マン特有の、長い腕を生かした低めの掬い上げ打ち。ライナーになった打球がレフトに向かって飛んでいき、そのままスタンドに飛び込んでいった。
うわあぁっ!!すげえっ!!
そんなリアクションしか出来なかった。
よもやの3ラン。1アウト2、3塁で4番が倒れ、あーあとなっていたところで、鮮やかな1発。
助っ人マンらしい、豪快なひと振りは、マウンド上の上山に、がっくりと膝を地面に着けさせたのだった。
虫。
それは所沢ドームで戦う際のもう1つの敵である。
夏ちょい前。
もしくは夏の終わり頃の所沢ドームの虫エンカウント率はなかなか半端ないものになる。
特に今日は、1番気温が高くなる時間帯を避けた午後5時からのプレーボールですので、余計に虫がグラウンドに寄ってきてしまうイメージだ。
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