俺は何もしてへん。君らの努力が実ったんや。
「新井さん、新井さん!甲子園に出る高校が新井さんに感謝していますという記事を見つけましたよ!」
と、ちょっと興奮した様子でタブレット端末を見せてきたのだ。
なんだか宮森ちゃんが広報をやっていた頃を思い出す。
どれどれと、渡されたタブレットを見てみると、マウンド上で雄叫びを上げているピッチャーが派手なガッツポーズを繰り出している写真が出ていた。
足利工科大学附属、10年ぶり夏の甲子園決めた!4割打者のアドバイスで、イップス克服のエースが魂の完封勝利!
27日、栃木県宇都宮市、ビクトリーズスタジアムで夏の県予選決勝が行われ、足利工科大学附属高校が作真学園を3ー0で破り10年ぶりとなる夏の甲子園出場を決めた。
足利高校大附属は初回、2死2塁のチャンスに4番朝倉がセンターへタイムリーを放ち幸先よく先制すると、4回にも朝倉がレフトへ今大会3本目となる2ランホームラン放ちリードを広げた。
投げては復活したエース沼館が最速148キロのストレートを軸に、キレ味鋭いスライダーを織り混ぜるピッチングで相手打線を寄せ付けなかった。9回を投げて被安打3、14奪三振のピッチングを披露し、最後までマウンドを守り抜いた。
この大会、背番号10を着けて試合に臨んだ沼館だったが、1ヶ月程前まではイップスでキャッチボールすらまともに出来ない状態だったという。
退部すら考えたエースを励まし続けたのは、リトル時代からの親友である、キャプテンで4番の朝倉だった。
練習後は毎日のようにイップス克服の為のトレーニングに付き合うなど側で励まし続けた。しかし、なかなか状況は進展せず、そんな時に見つけたのは、地元のスターであるビクトリーズ新井のユアチューブ生配信の知らせ。
その中に、視聴者からの質問コーナーがあると知った朝倉は、迷わず4割打者にメッセージを送った。
そしてそれが配信中の新井の目に触れることになる。
自身も高校時代、軽度のイップスがあったという新井がその時送ったアドバイスは、短い距離ではなく、むしろ遠投をしてボールを投げる感覚を養えということと、投げた後のフォローの形を1番意識して投げろなどという、今までになかった発想だったという。
早速翌日から、沼館と一緒に自分達のメッセージが読まれた配信動画をアーカイブ視聴して、トレーニングに取り掛かると、わずか1週間足らずで効果が出始めた。
大会1ヶ月前にはブルペンでの投球練習を再会し、その後の練習試合では立て続けに好投。1年間取り組んだ筋力アップのトレーニングの甲斐もあり、自己最速も1年間で10キロ程アップした。
試合後のインタビューで沼館は………。
「本当に苦しい日々を過ごした。最後の大会は背番号も貰えないのではないかと覚悟していたが、朝倉がずっと支えてくれましたし、新井選手の言葉は本当にありがたいものでした」
と語り、決勝戦では親友を援護するホームランを含む全打点を叩き出した朝倉は………。
「リトルからずっと一緒にやってきた沼ちゃんがいないのは考えられなかった。絶対になんとかしてあげたかったし、自分も色んな勉強をするきっかけにもなった。本当に新井さんには感謝しかないです」
と2人揃って、恩人とも言える新井に改めて感謝していた。
見事、連覇がかかっていたチャンピオンチームを撃破し、10年ぶりとなる甲子園大会に臨む足利工科大学附属高校。そのエース沼館と高校通算40本のホームランを放った朝倉。
今大会は、ビクトリーズスタジアムでの初めての決勝戦となる記念大会であった。
2人が今度はピンクのユニフォームを着て、4割打者と共に、次のステージで躍動する時が来るのか。
現地でこの試合を観戦し、そんな想像をした野球ファンは私だけではないはずだ。
大本めぐみ。
めぐみんの記事かよ!と、ツッコミを入れつつも、足利の高校球児とメッセージにあったから、あの時の子達かと、胸を打たれる思いになりましたわよね。
「わ~!めぐちゃんと……」
「マイちゃんだ~!」
「なにぃ!!」
今日、晩御飯食べにゲストが来るよとは聞いていたんですが。とりあえず、中華が食べたいとリクエストはしましたけれど。
移動日ですから、そんなことを忘れて夕方はのんびりとチームタコヤキのみんなでFPSしていましたら、多少見慣れた車がやって来まして、双子ちゃん達が俺の書斎にやってきて、部屋から引っ張り出された。
「やっほー!4割打者、ゆっくり休めてる?」
夏だからか、タンクトップのような上着にいつもの短いホットパンツ。そのいい具合にムチムチした白い太ももに楓がしがみつく。
「コラコラ、歩けないでしょうが。……でも、野球やりたいだけあって力強いわね」
「うん!おとうにいろいろ教わってる。腹筋とか、インナーマッスルとか」
「へー。よかったわねえ」
そのギャル美に続いて玄関から上がって来たのは、グリグリ眼鏡の新聞記者。同級生のめぐみんである。
「どうも、新井君。でっかいおうちッスね」
「いやー、それほどでも。上がって、上がって」
スリッパを出しながら迎え入れたが、中学校の頃の対して知らん眼鏡が35歳になってから、家に上がり込んで来るなんてなんだか不思議な気分である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます