実況！４割打者の新井さん８

まだまだこれからですわ！

カキッ！！

「痛烈な当たりだ！！レフトの左に落ちます！！フェンスまで到達！！ランナーが２人返ってきます！ボールは新井から並木に返されました。横浜追加点です。大牧の２打席連続のタイムリーでリードを広げました！」

横浜ベイエトワールズは、現在最下位。しかし、５位東北さんとは僅か１ゲーム差。

なんとかクライマックスシリーズ進出争いに加わろうと、いつにない粘りと猛攻。ルーキーピッチャーを援護しようと、打線の集中力が増しているような状況に、連城君は失点を重ねてしまっていた。

「ビクトリーズ、ピッチャーの交代をお知らせします。連城に代わりまして………酒屋。ピッチャーは酒屋」

連城君とは、オナ大の同級生である酒屋君にスイッチ。ブルペンカーを降りてきた細身の体。真っ白なボールを受け取り、淡々と投球練習を開始した。

稀少な左のアンダースロー。球速は出て１３２キロというところだが、体の柔らかさを存分に生かしたゆったりとした投球フォームと浮き上がる球筋に、左バッター２人は当てるだけのバッティング。

力ないセカンドフライとファーストゴロ。４番にタイムリーを浴び、尚も２、３塁というピンチだったが、酒屋君が落ち着いたナイスピッチング。このイニングで試合を決められてしまう危機は脱した。

「ありがとう、ナイピ」

「うぃっす。ちょっと運がなかったね、連ちゃん。切り替えなよ」

「ああ」

タオルは肩に掛けたまま。汗びっしょりな連城君が拍手をしながらベンチを１番に出て、見事な火消しをした酒屋君を出迎えた。

そしてその酒屋君に、ピッチングコーチが話をしにいく。

「もう１イニングいける？」

「はい！いけます！」

「右バッター２人から始まるところだが、頼むね」

「分かりました」

点差はあるがまだ５回。ビジター６連戦の初日ですからね。ガンガンピッチャーをつぎ込んでいきにくいところではある。

「５回表、ビクトリーズの攻撃は、７番、ライト桃白」

カァンッ！

１ボールからの２球目。真ん中のボールを打ち返すと、打球はセンターの左へ弾んだ。よしよしよし、ナイス宮森ちゃんの旦那様。ナイスバッティング。

続く柴ちゃんはナイスミートだったが、セカンド正面のゴロになってしまった。

「これはゲッツーコース！！４ー６………あっと２塁への送球が乱れました！踏み直して、２塁はアウト！１塁は間に合いません！！んー、ここはセカンドの大牧の送球がずれてしまいました、アウトは１つだけです」

「もったいたいですね。慌てる場面ではなかったんですが、きっちりやっていきたいですよ」

「打ちました！ピッチャー左の高いバウンド。捕って２塁は見ただけ、１塁に送球しまして、２アウト２塁となりました。２塁は厳しいか、ここは柴崎の俊足がありました」

カキッ！！

「大きな打球になりました！並木の打球！！左中間にぐーんと伸びていって………フェンスダイレクト！！タイムリーになります！ビクトリーズが並木のタイムリーツーベース！１点を返しまして、これで４点差になりました！！」

ナイス、ナイス。並木キャプテンバット振れてますわ。打球があっという間にフェンスまでいっちゃいますもの。

それに対抗して、俺の打球は多分９０キロぐらいの打球スピードでライトの前にポトリと落ちた。

そんな渋い打球も手伝い並木君が２塁からホームインし３点差。

そしてお次の守り。酒屋君の飄々としたピッチングは健在だった。

先頭バッターにフルカウントまでいったが、最後はインローいっぱいの１３０キロ。見切ってフォアボールだと１塁に歩きかけたバッターに、球審のコールが炸裂した。

嘘ぉ！！入ってますぅ！？というバッターのリアクションに、球審は新しいボールを受け取りながら、入ってるよ？ベンチにお帰り下さい。という毅然とした表情。

この三振かフォアボールかの分かれ目判定は影響がでかい。次のバッターの初球は甘くなってしまったが、力んでくれたことが幸いし、大きなセンターフライ。

３人目の左バッターも、ストレートを空振りさせて最後はシンカーを打たせてショートゴロに打ち取った。