レフトは幸せの置物枠ですのよ。
脇腹付近の避けづらいところにズドンですから、かなり痛い。
祭ちゃんもどちらかといえば俺と似たムキムキタイプですから。
普通に1塁まで歩いているし、大丈夫だとは思うが、場所が場所だけに心配である。
やべーアザにはなってしまっているだろうけど。
ここまで度々ランナーを出しながらも、3併殺という失態でチャンスを潰してしまっていた攻撃陣。
ですから、内野安打とフォアボール、デッドボールで作ったこのチャンスをなんとしても、ものにしたいところだった。
そんな中で、芳川君が低めのストレートを見事に打ち返してセンターに抜けた瞬間というのはやったった!という感じでしたわね。
送球が微妙に逸れたことも影響して、2塁から俺もホームイン。
キャッチボールをしていたアンデルセンは特に笑ったりすることもなく、ホームインした俺たち2人のおケツをグラブで叩いて歓迎。
何か聞き取れない言葉を発していて、ちょっとこえー!ですわ!
4番のタイムリーで、新助っ人にようやく援護点をプレゼントすることが出来た。
さらに、5番マテル。
スカァン!!
こちらもアウトコース低めのボールを逆らわずに打ち返した。グイーンと打球は高く舞い上がりながら伸びていき、右中間フェンスダイレクト。
3塁ランナーに続いて、1塁から芳川君も頑張ってホームインした。
6回に4点をもらったアンデルセン。
ピッチャーとしては、ずっと0行進で来た中で、急に点が入ったりすると、微妙にピッチングが変わってしまうこともあるが…………。
「ストライク、バッターアウト!!」
「ストラックアウッー!!」
あれ!このピッチャー、めっちゃすごいかも!!俺がレフトから見ていてそう感じたのは、連続三振を奪ったこの瞬間だった。
点を貰うまでの6イニングで三振は僅か1個だけだったのに。
7回に入って急に2者連続三振。カットボールやツーシーム、シンカーのようなボールで打たせていたピッチングから一転。
追い込んだところで、突然スプリットを連投して空振りを奪いにいった。
しかも、ノッチのサインに首を振る形で。
序盤はテンポよく、ストライクゾーンの中でどんどん勝負していき、打たせて取る省エネピッチングで打線にリズムを持たせる。
そして援護してもらった直後は、なんとしても反撃したい相手打線を牛耳るピッチングで心を折りにいく。
憎いのは、三振を狙ったのは最初の2人だけで、3人目には初球のカットボールを引っかけさせて当初の予定通りだったように内野ゴロに仕留めて見せたこと。
あくまで球数を抑えながら、打線を打線として機能させない。ただ目の前のバッターを抑えるだけではない。
これは、試合の勝ち方を知っているピッチングだ。
そしてノーヒットピッチングも継続している。
カァンッ!!
「大きな当たりだー!!赤月の打球!!………ライトが下がっていって………入りましたー!!赤月に、第6号のホームランが飛び出しました!!これで5点差!さらにリードを広げます、ビクトリーズ」
打った瞬間。高めの変化球を捉えた打球はあっという間にライトスタンド中段へ。
右手でガッツポーズをしながら力こぶを作る赤ちゃんをみんなでお出迎え。
5点差であと2イニング。しかも、アンデルセンは未だに1本のヒットも許していない快投。
勝ったな。と、余裕をかましていましたから、ヘッドコーチから思いもよらない言葉が!!
「新井。お疲れさん、下がって休め。芳川も。野川、朝日奈!準備しとけよ!!」
「「はいっ!!」」
なにぃ。
守備力Eのレフトと守備力Dのサードが下げられることになってしまった。
その結果。直後の8回表の守り。
カキィ!!
「打った!!……ああっ、レフトへ……大きい当たりになっている!!………入りましたぁ………。アンデルセン、初被安打がホームランになりました!5番、星野の1発!第10号のソロホームランです!!」
今までも、俺がレフトの上空に結界を張っていたのよ。だからホームランにならなかった部分もあったんだけど。
甘いボールだったね。
それまでは、右バッターの膝元に食い込んでいくようなツーシームが決まっていたけど、今の1球は多少逆球になり、外から真ん中に入ってしまうボールになっていた。
相手は3割バッターですから。ガツンと叩かれてレフトスタンドまで運ばれた。来日初登板。試合中盤まで気の抜けない展開。さすがに疲れが出始めていた。
ベンチからピッチングコーチと通訳さんがマウンドに向かう。そして、その2人がアンデルセンに話しているのを眺めながら、阿久津監督もゆっくりとベンチを出る。
いくらノーノーできていたとはいえ、ブルペンでは、いつでも継投出来る準備させていたでしょうから、先を見据えた交代。
アンデルセン、お疲れちゃん。来週もよろしくねと、そんなところでしょうか。
初球が甘くなり、パカーンといかれてしまった悔しさを顕にしながも、アンデルセンはピッチングコーチの言葉に納得しながら、通訳さんと一緒にマウンドを降りてきた。
スタンドからは、もちろん大いなる拍手。来日初登板、7回を投げて被安打1、失点1。期待以上の投球内容に、ベンチ裏でも、大田原GMと強化部長も惜しみ無い賛辞を送っていた。
8回は二浦、さらに1点を加えた9回は中山諒がマウンドに上がり、ゲームセット。
なんとか連敗をストップさせ、辛うじてAクラスをキープして、レッドイーグルスとの3連戦を勝ち越したビクトリーズは、ビジター6連戦の戦いに身を投じることとなる。
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