新戦力ですわ!

そんでもってこの度加入したのは、先発ピッチャー。



ビクトリーズの先発投手事情は、6勝を挙げている連城君と思田君に、5勝の碧山君。負け越してはいるが4勝の千林君と小野里君の5枚は確定。



残り1枚は中山諒というシュートボール使いなのだが、ここが不安定。開幕よかったかと思えば続けて大炎上したり、ロングリリーフや2軍ではめちゃめちゃよかったのに、再び先発してみたら3回持たずとか。



かつてそういう状態だった、千林君がいろいろアドバイスしているが、なかなかピッチングが安定せず。



本当は打線強化で左打ちの元メジャーリーガーを獲得するかもと報道があったりもしたが、GMと阿久津監督の判断では、先発を6人でしっかり固めるのを優先したいという判断になったらしい。



それはこれまで今シーズンはDH起用だった俺をレフトで使い、マテルと赤ちゃんを併用しながら打線はバランスが取れると目処がついたからだろうと俺は考える。



つまり、まあまあ責任重大なポジションにいるんだなと、感づいてしまうのだ。



俺の打力を信じて、打線はなんとかなるだろうと計算しているのだから、阿久津監督達は。



そう考えると、子供達に見つからないように、冷凍庫の奥で大事に取っておいてある濃厚なバニラアイスにはなかなか手が伸びなくなってしまう。





そしてやってきたのは、その助っ人ピッチャーのデビュー戦である。



8月の試合。オールスター明け後は、5勝6敗と1つ負け越して、4位のスカイスターズに若干ゲーム差を詰められている状況での、5位東北レッドイーグルス戦。



下位チーム相手の金曜日。週末3連戦の初日。



お夏休み、お盆シーズンの午後4時スタートの試合。



「ビクトリーズ、本日の先発ピッチャーは………ジェイク、アンデルセン!!背番号50!」



身長187センチ、体重94キロの立派な体格の男。よく日に焼けた体と、肘先まで見える豪快なデザインのタトゥー。



バッテリーを組むノッチからボールを受け取ると、おでこと胸に指を持っていき、十字を刻みながらマウンドのプレートに足を当てた。




雰囲気はある。球の勢いも。



後はバッターを迎えてどうかというだけ。






バキィ!




バキィ!




バキィ!





黒、赤、ノーマル。




3本のバットを連続粉砕。



左バッターをずらりと並べてきたレッドイーグルス打線に対し、新加入のアンデルセンとノッチのバッテリーは、懐をえぐるスライダー系のボールを積極的に使った。




その結果のセカンドゴロ2つに、ファーストフライ。




へし折られたバットが宙を舞う光景が3回連続となると、この助っ人はちょっと、もしかすると、という雰囲気に早くもスタジアムはなっていた。




最速が95マイルで、左右に動かせるボールで打たせるピッチングが持ち味と聞いていたが、それ以上にコントロールの良さが光っていた。



変化球の曲がり具合というのはそこまでではないように見えるが、小さく動かすボールを右バッターの1番遠いところや左バッターの泣きどころに、面白いように決まる。



なんとかしようとするレッドイーグルス打線だが、それが全て打たせられてしまう形になり、凡打の山。



セカンド祭、ショート並木に連発した好プレーが、アンデルセンのテンポのいいピッチングを後押しする。



5回までデットボール1つだけのノーヒットピッチングが展開されていた。



対するビクトリーズ打線も、5回まではそんな相手打線に3併殺でお付き合いする形になってしまっていたのだが………。






カンッ!



「高いバウンドだ!!サードがカットする!1塁へ送球!!ヘッドスライディング!!セーフ!!セーフです!………セーフですが………レッドイーグルスはリクエストです!」



柴ちゃんがヘルメットを吹き飛ばしながら1塁ベースにヘッドスライディングを仕掛けた。際どいタイミングにはなったが、判定セーフ。



しかし、3塁側からでは微妙に見えたのかリクエストの権利を行使、しばし休憩となった。



俺は柴ちゃんの元へ、濡れタオルと飲み物を持っていく。









「ナイスファイ、ナイスファイ!」



「あざす、新井さん。セーフでした?」



「セーフ、セーフ。だいじょぶだと思う」



俺が渡した濡れタオルで、腕と顔の汚れを拭う柴ちゃん。小さいボトルのスポドリも飲み干した。



「新しい外人さんが頑張ってますからね。早く点を取ってあげないと」



「そうだね。話は変わるけど、アンデルセンってなんかウインナーみたいじゃない?」



「はい?」




あれー。通じなかった。帰ろっと。




すぐに審判団が現れまして、改めてセーフ。判定変わらず、もちろん記録はヒットで、ノーアウトランナー1塁となった。



バッターはノッチ。







コンッ。





おバント。1塁手に取らせるナイスバント。1アウト2塁となって、打順は1番だ。






「落とした!!空振り三振!!ここはいいところに落としました、須貝。2アウトです!」



期待のキャプテンは三振で2アウトとなり、俺のバットに全ては託された感じになったように見えたのだが、コツンとシングルヒットを打たれて先制されるのを嫌がったのか、バッテリーは明らかなボール球で様子見。結局フォアボールとなった。




3番祭。



ドゴッ!!



「あーっと!!これは痛い!デッドボールになりました。大丈夫でしょうか。インコースのストレート。コントロールしきれませんでした。祭が手当てを受けながら1塁に歩きます!」


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