その8 かえり見るなかれ(エンディング)

※シーン情報補足:その7で明菜とともに眠ってしまったあなた。目が覚めると空は夕焼けに染まっていて、明菜は慌てた様子であなたを「送っていく」と社務所の外へ連れ出す。あなたは明菜に手を引かれて参道を小走りに鳥居の方へ向かっている。


//環境音D オン 森の中の神社。夏の夕暮れ。わずかに風があり木々がざわめき、ヒグラシの声が響いている。


//SE ざっざっざっ、と参道を小走りに歩く音。FIで。


<あなたは明菜に手を引かれている>


●位置:前 中距離(このセリフをFIで)

「——すまぬな。ついうたたねをしてしまった」


//SE ざっざっざっ、と参道を小走りに歩く音。


●位置:前 中距離

「ああ、おぬしは良いのだ。『くつろげ』『楽にせよ』と言ったのはわしだからな。うたたねするくらいでちょうど良いくらいだ」


//SE ざっざっざっ、と参道を小走りに進む音。


「しかし、客を招いた主人が寝てしまっては格好がつかんであろ?」//ちょっとおかしそうに。


//SE ざっざっざっ、と参道を小走りに進む音が次第にゆっくりになっていき、小さな足音になる。


「よしよし、鳥居だ。どうやら間に合いそうだな……」


//SE 数歩進んで足音が止まる。


●位置:前 近距離

「しばし待て。……んー」


//SE 明菜、たもとに右手を突っ込んで護符を取り出す。

//SE ぴっと指の間で護符を立てる。


「ああ、これか? 火の神様の護符だ。これをな……」


「ふっ!(護符に息を吹きかける)」


//SE ぼっと護符の先に火がつく。


「驚かせたか? んむん……そうか、まあ見ていよ」


//SE 紙が静かに燃える音。


「せいっ!」


//SE 明菜が火の着いた護符を鳥居の外へ向かって投げる。

//SE 飛んでいく護符。


//SE ぼっぼっぼっぼっぼっぼっ、と鳥居の外、獣道の左右に松明のような火が灯っていく。火の着く音は徐々に遠ざかる。


//SE 明菜が一歩下がってあなたの右側に寄る。


●位置:右 近距離

「いま鳥居の外、道の左右に明かりが灯っているであろう。うむ、そう。まあ灯籠とうろうというのにはいささか貧相だがな」


「あの明かりは森の外まで続いている。左右の明かりが照らす道をたどっていけば、おぬしが来たところへ戻れる。あれが帰り道だ」


「急ぎ足で悪いがの。今日のところはこれでお別れだ。なかなか楽しかったぞ」


「んっ? おお(少し意外そうに)……名残を惜しんでくれるか。うん、うん……」


「まあだが今日のところはこれで帰るがよい。陽炎の杜はな、外の世界とは少しばかり時間の流れが異なるのだ」


「そして、外から来た者がここで夜を明かすと——」


●位置:右 近距離→右 耳元

「——二度と朝日を見ることはかなわぬ。あの鬼に成り果てた男のように……」


●位置:右 耳元→右 近距離

「ふへっへっ、最後のは冗談。だが、わしが確信を持って『内と外が繋がっている』『あの道を辿れば帰れる』と言えるのは日が沈むまでの間だけ……」


「もし、縁があるのなら、また来ることもかなうだろう」


「その時は手みあげの一つでも持ってきてくれるかの」


「ああ」


「行くがよい——あっと、待った! 待った待った!」


<歩きはじめようとしたあなたを明菜が慌てて引き止める>


//SE 足音と腕をつかむ音。


「ふう……」//危なかったー、という感じで。


●位置:前 近距離

「すまぬすまぬ。一つ大切なことを言い忘れておった」//息を少し弾ませて。


「鳥居を出たら決してこちらを見返るな。そう、振り向いたり、立ち止まったりしてはならぬ」


●位置:前 近距離→前 接近

「これは脅しなどではない。振り返ったら最後、おぬしは幽顕ゆうけんのあわいで永遠とわに迷い続けるであろう」


「先にこの世とあの世と言うたがの。それは〝ある〟と〝ない〟の違い、〝いる〟と〝いない〟の差だ」


「おぬしは、おぬしがいる世界にあるから、おぬしでいられるのだ」


存在そんざいとは良く言ったものだな」


「……」//互い無言の間。


「不安か? ……(かすかに笑って)」


「よし。では、少しかがめ。うむ、そう——」


//SE 明菜があなたの頭を胸に抱く。


●位置:前 接近→右 耳元(ささやき)


「……大丈夫だ。現におぬしはいまこうして生きているではないか」


//SE ぽん、ぽん、と優しく背中を叩く。


「いま生きている、そのことがどれほど尊いか。わしにはわかる。よーーーくわかる」//最後の一言はしみじみと。


//SE ぽん、ぽん、と優しく背中を叩く。


「そして、生きているからこその出会いと別れだ」


「一度こうして会えたのだ。またきっと会えるだろうさ」


「うむ……」


「よいよい」


//SE ぽん、ぽん、と優しく背中を叩く。


//SE 明菜が体を離して、あなたと向かい合う。


●位置:右 耳元(ささやき)→前 近距離

「だから、おぬしがここを去るまで、わしがここからおぬしを見ている」


「おぬしがあり続けられるように」


//SE さあああ……っと静かに風が吹く。揺れる木立の音。


「では、またいずれな……」


//SE さあああ……っと静かに風が吹く。揺れる木立の音。


//SE あなたの足音(石の階段を降りる音)。

//SE ざっざっ、と足音が遠ざかる。


//環境音D FO


//少し間を置いて。


//SE 鈴の音A 小さな鈴(神楽に使うような振り鈴)が「しゃりーん、しゃん」と鳴る。×2


//SE 鈴の音 小さな鈴(神楽に使うような振り鈴)が「しゃりーん、しゃん」と鳴る。エコーあり。




【おしまい】




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