その4:最近よく眠れているか?(ゆったり肩もみ)

※シーン情報補足:その3と同じ和室。あなたは小さなテーブルを挟んで明菜と向かい合って座っている。水ようかんを食べてひと息着いたところで、明菜も足を崩してくつろいでいる。



//環境音B オン 夏の午後。風鈴(鉄器)の音が断続的に聞こえる。だいぶ遠いが蝉の声、ときおり鳥の声が聞こえる。かすかにエアコンの音(要検討)。


//SE グラスに残った氷がとけて「からん」と音を立てる。


●位置:前 中距離(テーブルを挟んで向かい側)

「どうだ? 人心地ひとごこち着いたかの?」


「(苦笑して)おぬし、まさか自覚がなかったのか?」


//SE 明菜がテーブルに両肘を着いて両手を重ねる。


●位置:前 中距離→気持ち前に寄る

「最初、せっかく膝枕ひざまくらしてやったというのに、どこか落ち着かない素振りで、目がちらちら動いておったぞ」


「ただ、照れていたわけではあるまい」


「あれは、照れなんて可愛いものではなかったぞ」


「どこか休んでいることに後ろめたさを感じているような……」


「いまにも呼びつけられるのではないか、と。こうして休んでなどはいられない、と。己を急き立てているかのような……」


「まるで、の悪いいくさに臨むときの武士もののふのように、いつ喊声かんせいが上がるか、と……おののきを押し隠しているかのような……」


「そんな気配を感じ取ったぞ」


//SE 明菜がテーブルから体を起こして、畳に両手を突く。

<体を反らして視線を天井に向ける>


●位置:前 中距離→気持ち後ろに下がる

「この頃……と言っても(ちょっと疲れたように重々しく)軽く2、30年は経っている気はするが、どうにも外の空気がせわしない」//独り言を言うように。


「忙しなさはそれより前から感じてはいたが、その時は人々が望んで先を急いでいるような忙しなさだった」


「だからか、忙しない分だけ安らぎも感じることが多かった」


「しかし、この頃の忙しなさは〝急いでいる〟というより〝急がされている〟という感じがする」


//SE 明菜が体を起こして、ちゃんと座る。

<姿勢を正してあなたの方を見る>


●位置:前 中距離

「世間の事情を全く知らんわけではないぞ」//苦笑して。


「ただ、外から感じるのと同じ気配をおぬしからも感じた、というわけだ」


//SE 明菜がテーブルに乗り出す。


●位置:前 中距離→近距離

「おぬし。最近よく眠れているか?」


//SE 明菜がさらに乗り出して顔を近付けてくる。


●位置:前 近距離→前 接近(鼻が触れ合いそう)

「顔色は悪くないがの……」


//SE 明菜が右腕を伸ばしてあなたの左肩に手を当てる。


「やはりな、肩がすっかりこっているぞ」


//SE 明菜が手を離す。


「うん、わしに任せよ」


//SE 明菜が立ち上がりテーブルを回り込んで、あなたの後ろまで歩く。足音が近づいてくる。


●位置:前 近距離→左 上 遠距離→後 上 近距離

「ふふふ、決まっているであろう。わしがおぬしの肩を——」


//SE 明菜があなたの後ろに座る。


●後 上 近距離→後 右 近距離

「——もんでやろう」


●後 右 近距離→後 近距離

「なぁに、遠慮はいらんぞ。これでも力には自信がある方でな」


●後 近距離→後 左 近距離

「(くすりと笑って)そもそも倒れかけたおぬしを縁側まで運んだのは誰だと思っている?」


●後 左 近距離→後 近距離

「よいよい。さっきも言ったであろう。わしにもてなされよ」


//SE 両手をあなたの肩に置く。


「まずは、ここ。肩と背中の間のところ……だ」


//SE 指が沈み込む。


※シーン情報補足:以下肩もみ。セリフの間に呼吸音が混じる。力を込めてもんで、緩めて、のリズム。


「ん(力を入れてもむ)——はぁ……(力を緩める)」


「ん(力を入れてもむ)——はぁ……(力を緩める)」


「ん(力を入れてもむ)——はぁ……(力を緩める)」


「わかってはいたが……ずいぶん硬く……んっ」


「こわばって——いるな」


「ううん? ——んっ……ははっ。心配、無用——だ」


「詳しくは——んっ……聞かぬ——が!」


「だいぶ体を——っと……酷使している——んんっ……よう、だの」


「ふう……少しずつ、内から……外へと——やって、いくぞ」


「ん(力を入れてもむ)——はぁ……(力を緩める)」


「ん(力を入れてもむ)——はぁ……(力を緩める)」


「おうおう……これは——んっ——やりがいが、あるの」


「ふへっへっ……寝不足の——肩……だな」


「それとも——んっ、これだけ……こって、いるから——よく眠れないのか」


「いずれにしても——こうして……んっ——ほぐしてやらねば、な」


「ん(力を入れてもむ)——はぁ……(力を緩める)」


「ん(力を入れてもむ)——はぁ……(力を緩める)」


「どうした? ……ああ、んっ——無論、それなりに……」


「力を込めて——はいるが、本気からは——ほど遠いぞ」


●後 近距離→後 右 耳元

「わしが本気で力を込めたら、おぬしの肩など砕けるかもしれんな」//ささやき声で。


●後 右 耳元→後 近距離

「ふへっへっ。なに、たわむれだ。客人の肩を砕いてどうする、どうする」


「ん(力を入れてもむ)——はぁ……(力を緩める)」


「ん(力を入れてもむ)——はぁ……(力を緩める)」


「ん(力を入れてもむ)——はぁ……(力を緩める)」


「ん(力を入れてもむ)——はぁ……(力を緩める)」


「よし、次は……」


//SE 肩から手を離す。


※シーン情報補足:以下首もみ。肩もみと同じ「力を込めて、緩めて」のリズム。もうと言うより指で押す感じ。肩もみほどは力を込めない。


「首のな、付け根の部分。おぬしも自分で手を回して、親指と人差し指でときどきもんでいるのではないか? うむ、ここ。この部分」


「そう、いまわしが両手の親指を当てているところだ。ここも、ぐっと押していくぞ」


「ここは、それほど力まずとももめるな」


「ふふん、ふ~ん♪」//リズミカルに押していく。徐々に鼻唄っぽくなる。


「ひーと、ふーた、みーっつ♪」//節を付けて歌うように。


「よっつに、いーつつー♪」//節を付けて歌うように。


「むーっつを数ーえて、ななーつを過ぎる~♪」//節を付けて歌うように。


「ん~? 特に意味はないぞー。なんとなく……」


「なんとなーく、数え歌にしてみただけだ」


「ふへっへっ。こういうなんでもないことでも——」


「——楽しんだ方が気分が良いであろ。ふふふっ」


「ん~♪(もみもみ)」//再び鼻唄っぽく。


//SE 明菜が首から手を離す。


「さて——」


//SE パンと軽く肩を両手で叩く。


●位置:後 近距離→左 耳元

「あまりやり過ぎると逆に良くないからな」


●位置:左 耳元→右 耳元

「ひとまずこれまでだ」


//SE 明菜、膝立ちになる。


●位置:右 耳元→後 上 近距離

「ほうれ。ちょっと腰を上げよ」


//SE あなたが立ち上がると、座布団を取り上げる。


「うむ、そう——」


//SE 明菜、立ち上がる。


「しばし待て。……まずグラスと皿を片付けるか(独り言)」


//SE グラス二つとお皿二枚をお盆に載せて、あなたか見て右手にあるふすまを開けて廊下へ出ていく(ふすま開けっぱなし)。

//SE 廊下を急ぎ足に歩く足音。


//少し間を置いて。


//SE 廊下から近づいてくる足音。明菜が台所から戻ってきて、ふすまを閉じる。


「よっと……」


//SE テーブル持ち上げてあなたから見て右側の壁に寄せる。足音。

//SE 座布団を二つ並べる。足音。


<テーブルを部屋の隅に寄せてスペースを作り、座布団を二つ並べて寝られるようにする>


//SE 明菜、また膝立ちになる。


●位置:前 下 近距離(見上げる位置)

「即席で悪いがの。そこへ横になれ」


「うつ伏せにな」


「うん? 決まっているであろ。あれだけ肩がこっていたのだ、背中と腰もほぐさねばなるまい」


「まあ、わしに任せよ」



//環境音B オフ




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