◆鬼龍院清美の生涯
「清彦、借金の連帯保証人にだけは絶対なるんじゃないぞ」
2年前に死んだ爺ちゃんが口が酸っぱくなるほど言ってた口癖に反したことを、僕は今、死ぬほど後悔していた。
なぜならば。
腐れ縁の友人が2000万円の借金こさえて夜逃げした挙句、ヤのつく自由業の人達がその取り立てに連帯保証人として署名した僕のところに押しかけて来たからだ。
両親を幼少時に亡くし、祖父に引き取られて育ったものの、その祖父もすでになく、その僅かな遺産とアルバイトで暮らしている貧乏大学生に、返済できる見込みなんてあるわけない。
ところが、事務所に半ば拉致されるように連れて来られた僕を見たエラい人(「若」と呼ばれてたから、たぶん、組長の息子さんか何かなんだろう)が、何と言うか──僕にひとめぼれしちゃったんだ。
自分で認めるのはシャクだけど、僕は結構女顔だ。取り立てに来た人達にも、最初女と間違われて風俗に売り飛ばされそうになったし。
最終的に、僕の身の振り方は、「住み込みで若頭である敏昭さんの身の回りのお世話をする」ってことで何とか勘弁してもらえた。その点は、感謝してる。
──してるんだけど……。
「ふみゅう~、敏昭さ~ん、どうして僕の女の子にならないといけないんですか?」
「俺がその方が嬉しいからだ!」
いや、気持ちはわかるよ。どうせ身の回りの世話してもらうなら、男の執事とかより可愛いメイドさんの方がいいよね。
ただ、それだけの理由でわざわざ高価な違法女体化薬まで買って来て僕に騙して飲ませるのはどうかと思うけど。
戸籍の方も、どうやったのか、最初から“清美”って女性だったことになってるし……。
「何を言ってる。“それだけ”が理由じゃないぞ」
あ~、やっぱり。僕、敏昭さんに抱かれて慰みものにされちゃうんだ。
とは言え、(ヤの家の跡取りのわりには)敏昭さん気さくで優しいし、下手な風俗とかに売られて不特定多数の男を相手に春を売らされるよりは、数百倍マシだよね。
「安心しろ、手荒なことはするつもりはない。何せ、お前には、俺の子を産んでもらわないといけないからな」
うわぁ、ただの愛人じゃなくて、まさか出産までするハメになるとは。
あ、でも、僕が生むのは敏昭さんの子供なんだから、間接的に僕は「その子の母親」ってことで、お妾さんとはいえ、多少は待遇が良くなるかも。
「納得したようだな。では、式は洋式か和式かどちらにする?」
へ? 式って……。
「無論、結婚式だ。ウチの組の伝統は無論和式だが、俺としてはウェディングドレス姿のお前も見てみたいからな」
も、もしかして、僕、敏昭さんの情婦(イロ)とか妾じゃなくて、奥さんになるってことぉ!?
「何を今更。初めて会った時から、そう言ってるだろうが」
そりゃ、確かに、初対面の時「よし、お前、黙って俺の嫁になれ!」とか言われたけど。
でも、その後、男だって説明したし、てっきりその話はなかったことになったのかと……。
「ふん、俺は心から欲しいと思ったことは、どんな道理や障害だって蹴り飛ばして手に入れる男だからな」
! ど、どうしよう、敏昭さんの想いがこんなに真剣だなんて知ったら、なんかドキドキしてきちゃったよぉ。
まだ女の子になって一週間しか経ってないのに、なんか敏昭さんが凄くカッコ良く見えちゃう……。これが、恋する乙女心ってヤツなのかなぁ。
そんなワケで、僕は女になって1ヵ月後、敏昭さんの奥さん──つまり“極道の妻”になっちゃったんだ。
正直、これまで無縁の世界だったから戸惑うことも多いけど、姑さんである敏昭さんのお母さんも、極妻どころか女としてさえ半人前以下な僕に、いろいろ親身になって教えてくれるので助かってるんだ。
「わたし、本当は娘も欲しかったのよ。清美ちゃんは素直で可愛らしいから教え甲斐があるわ♪」って言ってくださるくらい、嫁姑の仲は極めて良好です。
え? 夜の生活? もぅ、そんな恥ずかし事、聞かないで!
──まぁ、結局、僕、童貞捨てる前に、処女を敏昭さんに捧げちゃった(「奪われた」じゃないトコがミソね)けど、少なくとも後悔はしてないかな。敏昭さん、すごいテクニシャンだし♪(←ノロケ)
そして、結婚してもうすぐ一年になるという頃、僕の妊娠が判明。旦那様の敏昭さんやお義母さんはもちろん、それまでちょっと恐かった義父──組長さんも、「でかした! さすがはトシが選んだ嫁だ!」ってコロッと態度が変わったし。
どうも、元男なのにちゃんと跡継ぎができるのか、懸念してたみたいなんだよね~。
で、先日、僕らの長男・和明が生まれたのを機に、お義父さん、敏昭さんに跡目を譲って引退しちゃったの。
跡を継いだ以上、当然敏昭さんが組長なんで、ボク…コホン! あ、アタシは組のみんなに「姐さん」と呼ばれる身の上になっちゃったワケなんだけど……まぁ、何とかそれなりに巧くやれてます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます