◇お世話しちゃうゾ! -しあわせは十人十色(その3)-

 「こ、これってメイドさん? それともナースさん!?」

 『どっちだっていいじゃないですか。ともかく、その姿なら、貴女のご要望通り、病床の従兄さんを、ちゃんとお世話できますよ』

 「え? ……あ、ホントだ。ちゃんと看病とか家事関連の知識が頭の中にある……」

 『それじゃあ、アッシはコレで。あでゅー!』


 * * * 


 ボクん家に下宿してる3歳年上の従兄の司郎さんが、風邪をこじらせて寝込んじゃったんだ。ちょうど冬休みに入ったばかりなのは不幸中の幸いだけど、このままじゃあ司郎さん、せっかくのクリスマスを布団の中で過ごすことになっちゃうよ。


 ウチは両親が共働きだし、まだ中学2年生で、ロクに家のお手伝いもして来なかった僕じゃあ、司郎兄さんのお世話なんて上手くできないし……。


 司郎兄さんは、「何、一緒に過ごす彼女もいないんだから、構わないさ」と笑ってるけど、いつも勉強とか色々面倒見てもらってるのに、申し訳ないなぁ。


 ──そんな風に思っていたところ、偶然街の骨董品屋で見つけたアンティークのオルゴールから、羽根の生えたちっちゃな妖精さんが出現!


 「封印を解いてくれたお礼にひとつだけ願い事を叶える」って言うんで、「風邪で倒れている従兄の看病をちゃんとしてあげたい」って頼んだら、こんな姿になっちゃったんだ。


 挙げ句、僕をこんな姿──メイドさんっぽいエプロンドレスだけど、色は白に近い薄いピンクで、ヘッドドレスの代わりにナースキャップかぶってるんだ──にした妖精のピッキは、オルゴールの中にひっこんじゃったし……。


 「ふぅ、悩んでいても、仕方ないか。司郎お兄さんの様子を見てこようっと」


 あのオポンチ妖精いわく、この姿でいる限り、自然にそれに合った行動がとれるし、周囲もボクの存在を都合よく解釈してくれるって話だけど……。


 「あの……司郎兄様、お加減はいかがですか?」

 「ああ、カオリか。ありがとう、だいぶよくなって──ケフケフ!」


 あれ? ボクの名前は「薫」と書いて「カオル」って読むんだけど。もしかして、この姿だと女の子ってことになってるのかな? おっと、それより……。


 「もぅっ! ダメですよ。風邪は治りかけが肝心なんですから」


 なんか、言葉とか仕草も普通に女の子っぽいモノに変換されるみたい。


 「ハハハ、すまんすまん。大丈夫。今日一日安静にしてたら、多分明日には回復してるさ」


 その言葉は嘘ではなく、確かに顔色とかいいし、オデコではかってみたところ熱も高くないみたい。


 「それならいいんですけど……」

 「心配しなくても、明後日のイブのデートまでには、気合いで治してみせるさ」


 あ……やっぱり、司郎兄様、クリスマスイブにデートする人いたんだ。

 なんでだろう。微妙にショックと言うかモヤモヤすると言うか。


 「その……よろしければ、司郎兄様が一緒に出かける方がどなたか、教えていただけませんか?」


 躊躇いながらワタシがそう言うと、司郎兄様はきょとんとした顔になりました。


 「ヲイヲイ、もしかして忘れてるのか? カオリの方から、「イブは一緒にお出かけしたいです」ってお願いしてきたんじゃないか」


 え!? あ……れ? そう言えば、そんなコトを言ったような記憶も……。


 「ま、まぁ、本当は俺の方から誘うつもりだったんだけどな。カオリが「妹みたいな従妹」から、「可愛い彼女」になってくれて、初めてのクリスマスなんだし」


 !!

 やぁん、司郎兄様、恥ずかしいですわ~。でも、すごくうれしいです。


 そ、そうですよね。確かに長年、兄妹みたいな関係で過ごしてきましたけど、今年のお盆に田舎の司郎兄様の実家に一緒に帰郷したとき、兄様から告白されて、わたしも喜んで受け入れたんでした。

 ずっとそばにいて、憧れ続けてきた方の恋人になれるなんて、夢みたいです。


 ──あら、何かおかしいような。


 「カオリ……」


 何か違和感みたいなものを感じていたのですが、いつの間にかベッドに半身を起こした司郎兄様の胸に抱き締められると、そんなコト、頭からトんじゃいました。


 「ぁん、ダメです。キスしたら風邪が」

 「む! 確かにそうだな。じゃあ……」


 ほっぺに軽くチュッと口づけをくださる司郎兄様。

 キスできなかったのは残念ですけど、それだけでもわたしはホワホワと幸福な気持ちになっちゃいます。


 「そうだ! 兄様、お腹空いてませんか? よろしければ、わたし特製のおかゆ作りますけど」

 「お、そいつは楽しみだな。カオリは料理が上手いから。頼むよ」

 「はいっ!」


 ウフフ、愛情たっぷりのあったかいお粥を作って、ふぅふぅしてから「あーん」して食べさせてさしあげますわ!


  * * * 


 ──その後、風邪の治った司郎とイヴにデートし、深夜、司郎の部屋で「身も心も」結ばれたのち、翌朝同じベッドで目覚め、互いに照れながらプレゼント交換するまで、薫(かおる)改め花織(かおり)となった元少年が、妖精のことを思い出すことはなかったりする。


 で、いざ思い出しても──「頼りになる兄貴分」から「愛しのお兄様」へと昇格した司郎のことを想うと胸がキュンとなる、「恋する乙女」にクラスチェンジしてしまっている花織。

 彼女は、結局元には戻らず、そのまま女の子としての日々を過ごすことになるのだった。



<後日談>

『ちわ~ッス! 呼ばれて飛び出て、あなたのおそばに湧き出る妖精ちゃんでーす! 願い事で何か不都合はないか笑いに……いえ、アフターサービスに来ました~!』


 抑えきれないニヤニヤ笑いを満面に浮かべた妖精?が一週間ぶりに、元は薫という少年だった少女・花織の部屋に来たところ、ちょうどそこでは、問題の人物と「彼女」の従兄が「親交を深めている」真っ最中だった。


 「あの……司郎兄様、ど、どうでしょうか?」

 「ああ、すっごく巧いよ……ってか、ヤベッ! このままだと出ちまう。ストップだ、花織」


 ようやくミドルティーンに達したばかりの少女、それもつい先日、彼自身が花を散らすまで処女だったはずの娘による手管で、青年の快感が急速に高まっている。


 「ふふっ、そのまま出してくださっても構いませんよ? 喜んで飲んで差し上げますわ」

 「いや、折角なら、お前のナカの方がいい」


 その言葉を聞いた途端に、娘の顔が「愛欲に蕩けた淫らな女」から「恋する乙女」の表情へと劇的に変化する。


 「! も、もぅっ、司郎兄様はズルいですわ。いつもいつもわたしが「キュンッ」とするようなコトを真顔でおっしゃるのですから」

 「はは、照れることはないだろ。俺達は恋人同士なんだし──心の其処から愛し合っているんだから」

 「だ、だから、そうハッキリ口に出しておっしゃらないでください!」


 プイと顔を背けるが、それでもチラチラと背後を気にしているのが丸わかりの少女。


 「嫌か?」


 それでも、あえて青年は問う。


 「……嫌なワケないでしょう。司郎兄様のいぢわる」


 彼の腕の中にフワリと身を投げる少女。青年も心得たもので、しっかりと華奢な少女の肢体を抱きしめ、一瞬至近距離から見つめ合った後、そのまま熱い口づけを交わす。


 少女の身体の「弱点」を愛撫しながら、巧みにその服を剥ぎ取る手際は、ある意味称賛に値するだろう。


 程なく、ショーツとニーソックスだけというあられもない格好で、仰向けにベッドの上に横たえられた少女は、恥ずかしげに胸元を右腕で隠しかけ……あえてその仕草を止め、大きく両手を広げた。


 「来て、司郎兄様……」


……

…………

………………


 『──いやぁ、コイツぁビックリだ。アッシとしたことが、つい雰囲気に飲まれて見入っちまいましたよ』


 デスクの上の筆立ての陰から、ふたりの営みをデバガメしていた妖精?が、感心したような呟きを漏らす……が、互いの身体に夢中になっているベッドの上のふたりは一向に気づく気配もない。


 「ああっ、そこ……そこ、イイのぉ♪」

 「花織……感じてる表情も可愛いぜ。最高だ!」

 「ふわぁぁぁぁぁ……兄様、そんな激しくしたら……わたしおかしくなっちゃうぅぅ」

 

 『──聞いちゃいやせんね。ま、当初の「突然女の子にされてオロオロする少年を見て爆笑する」という予定とは違ったものの、コレはコレでイイもん見させていただいたでやんす』


 ベッドの上で「イチャコラ」している二人の様子を生暖かい視線で見守る妖精?


 『この分じゃあ、どうやら女の子になった事に不満はなさそうでやんすね。それじゃあ、アッシは失礼するでやんす~』


 微かな光のきらめきと共に妖精?らしき影が姿を消したあとも、両親が不在なのをいいことに、若いふたりの愛の営みは夕方までたっぷり続くのであった。どっとはらい。

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