◆真説・いばら姫

 待望の王子誕生に浮かれる某国の王宮。しかし、庶務係のポカによって機嫌を損ねた魔女が……(以下略)。


 「この国の王子が17歳の誕生日を迎える日に死んじまう呪いさ、ヒヒヒ!」


 メンヘラ乙。


 「ご安心ください、王様。かの魔女の魔力は絶大。わたくし達では完全に無効化することはできませんが……(ゴニョゴニョゴニョ)」


 善き三魔女の提案に、顔を輝かせる王様とお妃様。


 「おお、なるほど! すまぬ、よろしくお願い致す」


 こうして、イバラと名付けられた王子は、自らにかけられた魔女の呪いのことも知らず、すくすく成長しましたが、かの物語の流れ通り、17歳の誕生日前夜、糸車に指を刺されて昏倒してしまいます。

 しかし……。


 「私はいったいどうなったのだ?」


 王子は一命は取り留めました──しかし、目覚めたとき、彼の身体は同じ年頃の美少女へと変わっていたのです!


 「つまり、「王子」でなければ呪いは効果を発揮しないということじゃな」

 「貴女が助かって本当によかったわ、イバラ」

 「父上、母上!」


 最初は途方にくれた王子あらため王女でしたが、ふたりから事情を聞き、「そんな呪いをかけられていたとは」と、やむなく自分が女となったことを受け入れたのでした。


 「ところで、母上。私の部屋は東宮にあるはずなのですが、どうして西宮へ?」

 「ふふふ、イバラ、貴女のお部屋は、今日からここよ」


──キラキラーーーン!


 「こ、この、白とピンクと水色に彩られた、乙女ちっく度120パーセント全開の部屋は!?」

 「この部屋で、貴女には淑女となるための特訓を受けてもらいます!」

 「えぇ~っ」

 「ほらほら、嫌そうな顔しない。実はね、イバラ。わたくし、娘が欲しかったの」

 「は、はぁ……」

 「やっぱり、娘を可愛く着飾ったり、一緒にお菓子焼いたりするのって、世の母親の憧れじゃない?」

 「まぁ、言いたいことはわかりますけど……(それを私に求められても)」

 「貴女が女の子になる日を一日千秋の思いで待ち焦がれた母のシュミ……こほん、思いやりの詰まったこの部屋と、ドレスとぬいぐるみの数々、さぁ、受け取ってちょうだい、イバラ!」


 (う、うれしくないなぁ)


 ともあれ、数年後、立派なレディとなった王女は、隣国の第二王子を婿に迎え、某国はますます栄えたそうです。



<そして……>


 「──という言い伝えが、当ローゼンソーン家には代々伝わっておりましてな、坊ちゃ……いえ、お嬢様」

 「……つまり、その呪いとやらは、現代に至るまで絶賛継続中で、ウチの本家の長男は全員17歳になる前日に女になる、と?」


 もしかして、だから両親は、僕に子供の頃からピアノだのバイオリンだの、料理だの刺繍だのの、お稽古ごとを習わせたのかな?


 「御意」


 フザケンナー! それならそうと、せめてもっと早く教えておこうよ!


 「おそらく冗談に思われると判断されていたのか、と」


 う……そりゃ、こんな話、ジョークと聞き流していた可能性が高いけどさ。


 ──しかしながら、子供の頃からの教育の成果か、この少女となった少年も結構簡単に女の子生活に馴染み、20歳を迎える頃には立派な婚約者(無論♂)が出来ていたりするのでした♪

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