◆おさないころのひみつ

 ──寿明としあきには、ホント感謝してるんだよ。


 子供のころ、私は“ある病気”のせいで外見が随分変わってしまった。

 そのまま地元にいるのもバツが悪いし、何かと支障があるだろうということで、家ごと北海道に引っ越して、名前を変え、お母さんの言いつけで、着てる服も言葉使いもそれまでとは意識的に変えることになった。


 でも、もともと人見知りするところがあったうえに、小学校に上がったばかりの子供には辛すぎる環境変化のせいで、私はひどく臆病になっていた。

 だから最初は、転校先の小学校でもまったく周囲に打ち解けなかったんだ。


 けれど、引っ越し先の家のお向かいに住んでいた寿明だけは、毎日私を誘いに来て、外へと引っ張り出してくれた。

 おかげで、私もゆっくりとだけどクラスに馴染んでいき、少しずつ友達もできた。

 もちろん、その中でも一番の親友で恩人なのは寿明だけどね♪


 内気だった性格も、悪戯っ子な寿明に振り回されているうちに徐々に明るくなっていった。

 中学校に入る頃には、どちらかって言うとむしろクラスの代表委員に選ばれてみんなに頼りにされるような女の子になってたしね。


 そしてその頃からかなぁ。私と寿明の関係が少しずつ変化していったのも。

 あれは中一の夏だっけ? 部活で疲れてベッドの上でグテーッとしていた私に寿明がマッサージしてくれたのは。


 いつもみたく私の部屋に遊びに来た寿明が、ダレてる私を見て「マッサージしてやろうか」って言ったんだよね。

 もちろん半分は冗談だったんだろうけど、その時なぜか私も気が付いたら「じゃあお願い」って口にしてたんだ。


 小学校低学年の頃は、フザケて寿明とプロレスしたりすることもたまにあったけど、さすがに思春期に入った頃からはそんなスキンシップも減っていって、私自身、ちょっと淋しかったのかもね。今にして思えば我ながら大胆極まりないけど。


 あ、真っ赤になってる。思い出した?

 うん、あの時──マッサージしてる時、たぶんワザとじゃないと思うけど、寿明、私のお尻と胸に触ったでしょ。

 もちろん、すぐに手を離して謝ってくれたけど、たぶんあの時からじゃない? 私達がお互いを明確に「気になる異性」だって意識するようになったのは。


 でも、その割に長かったよね、寿明が告白してくれるまでは。

 私、結構あからさまに「好き好き光線」出しまくってたと思うんだけどなぁ。

 結局、中学の卒業式のあと、屋上に呼び出し&告白されて、ようやく正式に恋人としてのお付き合いが始まったんだよね。


 「あ~、清香さやかサン、浜辺で昔話に花を咲かせるのも結構っスけど……」


 ん? 何?


 「その、ちょ~っと、近過ぎないかなぁ、って……ハハハ」


 あら、恋人同士なんだから浜辺でイチャイチャしてても普通でしょ。


 「い、いや、その意見自体には賛成なんスが、この体勢だと、その……視線のやり場に、ね? 俺、いま海パン一丁だし」


 私は別に気にしないわよ。昔は何度かいっしょにお風呂に入ったこともあるんだし……。


 「六歳の頃と十六歳の今とを一緒にすんな! ヤバいんだよ、おもに俺の理性と下半身的な面で!!」


 あぁ、なるほど──でも、無問題よ。ワザとだから。


 「へ!?」


 ほらほら、据え膳食わぬは何とやらって言うでしょ。いいコトしましょ、と・し・あ・き・クン♪


 「! お、俺、ちょっくら、向こうのブイまで泳いでくらぁ!」


 もぅ、ヘタレだなぁ。小さい頃、私の手を引いてくれたあの積極性はどこ行ったんだろ。

 あの頃の寿明は、子供心に小さなナイトさんみたくカッコ良かったのに。

 え? 思い出補整? い、いいじゃない、乙女のささやかな夢を壊さないで!


 ──ハァ~~、でも私だって同じだよね。

 私の一番の秘密を、まだ彼に打ち明けられていないんだから。

 私が……寿明と出会うほんの一ヵ月ほど前までは、男の子だったってことを。


 本当は、卒業式の日に告白された時に言おうと思ってたんだけど、盛り上がってそのままファーストキスまでいっちゃったから、そんな雰囲気じゃなくなっちゃったし。

 その後は、その……言い出しにくくなっちゃって。


 だからこそ、高校に入って初めての夏休みにふたりきりで海辺に泊りがけで旅行に来て、そこでこの秘密を彼に明かそうと思ったんだけど……。

 やっぱり、ちょっと恐い。

 寿明と恋人同士になれて今がとても幸せなぶん、真実を告げてこの関係が壊れたらと思うと、どうしても躊躇してしまう。


 大丈夫、この秘密を知っても、彼は私を受け入れてくれる。

 そう信じているはずなのに……。

 あぁもぅっ! いっそのこと、先に「既成事実」を作って退路を断ってから、カミングアウトしたほうがいいのかなぁ。

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