◆重装王女(フルメタルプリンセス)の追想
地球とは異なる世界アールハイン。いわゆる「剣と魔法の
そのアールハインにある国のひとつ、バーゼラルドは、今まさに存亡の危機に瀕していた。
百年周期で起こる大々的な魔族の侵攻。それ自体は大陸の賢者たちが予想していたことではあるが、それに耐えうるには、現在のこの小国の軍事力は十分とは言えなかった。
不幸中の幸いと言うべきか、現国王の長子である第一王女シトロナードは、20代半ばの女性ながら国内一の剣士にして姫将軍として知られている。
彼女が前線に立つことで、かろうじて士気が保たれていたのだが……。
何度めかの魔族の侵攻を撃退し、しばしの休息を取ろうと城に戻ったシトロナードを悲劇が襲った。卑劣な魔族の一体が城に潜入、あるマジックアイテムで、彼女から武技と作戦指揮能力、カリスマなどを奪い取ろうと画策したのだ!
シトロナードの
ひとりの若者の勇気ある行動が最悪の事態を防いだ。その若者とは、シトロナードの妾腹の異母弟である騎士見習いのロイク。
母の身分の低さ故、王位継承権すら与えられていない15歳の少年は、今回の戦いでは弓兵として配されていたが、咄嗟に手にした弓で飛び去ろうとする魔族を打ち抜き、その魔手からダーククリスタルを見事に奪い返したのだ。
唯一、彼に落ち度があったとすれば──空から落ちてくる剥き出しのクリスタルを素手で受け止めたことだろう。
その瞬間、クリスタルが割れ、そこに込められた“シトロナードの姫将軍としての要素”が解放されて、すべて手にしたロイクの身に宿ってしまったのだ。
王族と重臣のごく一部を緊急招集して秘密会議が開かれ、その席でロイクは当面「シトロナード」として軍を指揮することとなった。
幸い、女としては長身な王女と、男としては華奢な騎士見習いは、男女の差異を除けばそれほど体格に差はない。容貌も髪の長さ以外は化粧で誤魔化せる程度によく似ている。
また、その間シトロナードは「ロイク」として「シトロナード」の
姉が愛用する女性用騎士甲冑を身にまとい、「シトロナード」としては戦場を駆け抜けることとなったロイク少年の運命や如何に!?
***
そして、一年後。無事に平和が訪れたバーゼラルドで、「第一王女」は、「そろそろ結婚しないか?」という父王や王妃のお見合い攻勢にうんざりしていた。
「まったく、お父様ときたら、戦が終わった途端、これだから……」
信頼する「従騎士」に、(いつの間にか板に付いた姫様口調で)そのことを愚痴る「シトロナード」。
「それだけ、陛下は、姫様の身を案じておられるのですよ」
「だからって……私が本当は「誰」なのか忘れてるのかしら。
──ねぇ、そろそろ元の立場に戻らない?」
「はて、何のことでしょう?」
素知らぬ顔でトボける「異母弟」の姿に溜息をつく「姫将軍」。
王族の義務と重責から解放され、気楽な一介の騎士見習いの立場でいることが大いに気に入ってしまった「ロイク」は、当面(もしかしたらずっと)、元の窮屈な第一王女に戻るつもりはないらしい。
最近では、この「立場入れ換え」を知っているはずの一部の重臣たちでさえ、「シトロナード」を素で姫君として扱ってくるのだ。
(とは言え、私が吸収した各要素を、「この子」に返すための方法は、まだ見つかってないのよねぇ。はぁ~、もうしばらく第一王女やってるしかないのかしら)
と、心の中で呟く「姫将軍」シトロナードだが、「彼女」は知らない。
元に戻す賢者たちの研究は、とっくに打ち切られて、別の研究がスタートしていることを。
(ずっと女物の下着で体を締め付けてるせいか、最近胸のあたりがちょっと膨らんできたみたいだし、アレも何だか小さくなってる気がするし……)
それが気のせいではなく、賢者たちの新たな研究の結果生まれた「性転化の秘薬」をこっそり盛られているせいだと、はたして「シトロナード」は手遅れになる前に気づけるだろうか?
***
結論から言うと、「彼女」は自らを陥れる(?)“陰謀”に気付けなかった。
まぁ、メイド長や侍従長、親衛隊長、果ては大臣や国王に至るまで王宮の主要メンバーの大半がグルで、(「本物」よりずっと“お淑やか”で扱いやすい)「彼女」をこのまま「王位継承権第一位の王女」にすべく、一丸となって策謀を巡らせているのだから、気付けという方が無理だろう。
半年ほどで無事(?)女体化は完了し、同時に「シトロナード」は正式に王太女に任命されたのだった。
そして数年後、この国初の女王となったシトロナードは、文武両道・硬軟兼ね備えた施政の名君として、バーゼラルドの歴史に名を残すことになる。
彼女の即位と前後して、すでに正騎士となっていた妾腹の弟「ロイク」(偽)にも近衛隊長としての役職が与えられる。
前王の血を引きながら、実直かつ謙虚な性格のロイク卿は、再三その地位を固辞したが、異母姉たる女王から繰り返し強く乞われて、ようやく就任したという。
「嫌でござる、20代の内から責任ある地位なんて御免でござる!」
「うるさいわね! 本来はアナタが継ぐべき重責を私が肩代わりさせられたんだから、せめてその重荷の一部くらい負担しなさいよ!!」
「そんなぁ~、オレの“平騎士としての悠々自適ライフ”がぁ~!」
……という醜い姉弟の争いがあったなどという記録は、王宮には残っていない。
-どっとはらい-
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※作者注:さらっと掌編で流しましたが、大まかな流れを踏襲しつつ、長編化したいネタでもあります。
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