◆キャラ作りはほどほどに!

 月並み(?)な話で申し訳ないが、ある日、日本で五指に入る人気MMO-VRPG(多人数同時接続型オンライン・バーチャル・ロールプレイングゲーム)『ライジングハート・オンライン』が、突如デスゲーム化した。


 あ、いや、正確には“デス”ゲームじゃないな。死んでも24時間後に拠点の神殿でリスポーン(再生)するし、「不死鳥の尾羽」とかのレアアイテムを使えば、その場で生き返ることも可能だ。


 正しくは「脱出不能ゲーム化した」と言うべきか。事件当時──20XX年12月24日18時から20時にゲームにアクセス中だった3万人あまりのプレイヤーは、ゲームの世界に意識を取り残されてしまったんだ。


 システムメニューから「ログアウト」アイコンが消えたのみならず、外部からPCをリセットしても、回線接続用のヘッドギアを外しても無駄で、プレイヤーの身体は昏睡状態になったままだった。


 僅かな救いは、「神託」という形でボイスメッセージのみとは言え外部からの情報をゲーム内のプレイヤーにも伝える手段が残されていたこと。


 また、新たにゲームにアクセスすることはできなかったが、すでに起動状態の運営会社のモニター用機器は接続が維持されていたので、ゲーム内の様子をおおよそ知ることもできる。


 ──もっとも、脱出不能化から現実リアルで1週間、ゲーム内の体感時間で2ヵ月以上が経過した現在でも、未だ事件解決のメドは全く経っていないんだけどね。


 で、だ。

 『ライハオン(ライジングハート・オンライン)』内に取り残されたプレイヤーとしては、腹をくくって当面、この世界で暮らしていく算段をつけないといけないワケだ。


 幸か不幸か事件発生日時が日時(それゃクリスマスイブだしなぁ)だっただけあってか、残留プレイヤーは非リア充のゲーオタ気質な人間が多く、一刻も早く現実に帰りたいという者はむしろ少数派だった。


 僕こと古里紅一(ふるさと・こういち)も、まぁそんな残留プレイヤーのひとりで、ご多分に漏れずコアなゲームユーザーではあったんだけど……。


 「──やめときゃよかった」


 今になって非常に後悔している。


 あ、このゲームをプレイしたことじゃないよ? むしろ24時間ゲーム内で暮らせるなんて、ゲーオタからすれば大歓迎らくえんだし。


 ゲームのアバターが女性キャラだったことは……うん、別に気にしてない。むしろ、サブアカのムキムキマッチョな暑苦しいオッサン戦士とかを使ってる時じゃなくて良かったと心底思う。


 現在の僕の容姿アバターは、“リィエラ・テスタロッサ”という黒髪ロングでムチムチバインな美人女魔導士だ。設定年齢は28歳だけど、このテのフィクションのお約束で設定より5歳は若く見える。


 さすがにティーン設定の女性キャラには若さでは負けるけど、どちらかと言うと貧乳・ロリ系よりグラマーなお姉様系の方が好みな僕にとってはストライクど真ん中な外見&雰囲気。

 それが今の自分の姿だというのは、なんというか滾る(ないし濡れる?)モノがあるね!


 うん、女性キャラなのはいいんだ。でも……問題は、その衣装。


 『ライハオン』では、武器や防具はともかく、その下に着る服は、特殊な課金アイテムの“着替え用衣装”を購入しないと変更が難しい。あとは特殊イベントを好成績でクリアしたら入手できるくらい。


 で、リィエラなんだけど──キャラクターメイク時に“悪の組織の女幹部”っぽいイメージで作成したせいで、黒と濃紫をベースにしたいかにもそれらしいドレス姿がデフォなんだ。


 ゲームとして“妖艶な魔女”をロールプレイする分には良かったんだけど、いざ四六時中自分がその格好をするとなると……恥ずかしいし、露出が多いからスースーするし、と散々だった。


 しかも、僕、極力課金しない微課金勢だから、あんまり“衣装”は持ってないんだ。


 「春イベントのセーラー服は……ダメだ。このキャラだとイメクラっぽくなっちゃう。夏イベのビキニも町中で着てたらただの露出狂だし。冬イベの賞品は……ミニスカサンタ!? 却下。それなら今の方がマシだ」


 あくまでコスプレとわり切って一時的に着てみるくらいならまだしも、普段使いできそうな服が、ほとんどない。

 結局、秋イベの“浴衣”と去年の冬イベの“童貞を殺す服(セーターじゃない方)”くらいしか、まともに着られるものがないよ。後者も年齢的に結構キツいけど、セーラー服とかよりは、まぁマシだし。


 「はぁ~、まさかこんなコトで悩むハメになるなんて」


 この世界ゲーム内では、敵やモンスターの血や体液以外で服は汚れないし、その汚れも「クリーン」の魔法で簡単に取れるから、「着替える」必然性があまりないのが救いだけどさ。


 「テスタロッサ! どうやら隠しイベントで新しい衣装がゲットできるらしいぞ。一緒に行かないか?」

 「え、マジ!? 行くいくー!」


 同じクランに所属するシグムーン(20歳・♀・職業シノビ)からの情報を得て、早速現地に向かう僕。


 シグムーンも僕同様「中の人」は男で、しかもアバターのデフォ衣装が「真っピンクの長袖ハイネックレオタード」なんで、僕と同じような悩みを抱えてるんだよね。


 本人はキャラメイクの時は某退●忍のイメージでアバター作ったらしい。ネタに走ったんだろうけど、まさか自分がそのアバターそのものになるなんて普通思わないよなぁ。


 ちなみに、その隠しイベントで艱難辛苦を乗り越えた末にゲットできた衣装は、紺色のエプロンドレス──って言うかメイド服だ、これぇ!


 「ま、まぁ、スカート丈は長めだし、エプロンとヘッドドレスさえ外せば、普通の服に見えないこともないか」

 「ダメだ、テスタロッサ。“着用”するとそのふたつも勝手に装備されてしまう。どうやら頭のヘッドドレスから足のショートブーツまでがセット扱いらしい」


 あー、融通がきかねーなぁ、コンチクショウ!


 ──諸君も、VRゲームで自キャラを作成する際は、色々考慮した方がいいと思うよ? いや、マジで。


-おわれ-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る