◇艱難辛苦は少年を大人に、少女を女に変える(むかしもの2)

 「ね、ねぇ……ホントにボクなんかでいいの?」


 目の前で頬を赤く染めながら尋ねる愛しい少女に、俺は黙って口づける。


 「ンンッ!?……ムチュ……………ぷはぁ! ず、ズルい」


 ん? 何が?


 「の、ノブ君にそんな風に、き、キスされたら、ボクが逆らえないのを知ってるクセに」


 はは、まぁ、な。でも、これでも一応お前の質問に答えたつもりなんだけど?


 「質問って……あっ!」


 みるみる少女の顔が真っ赤になる。


 「異論がなければ、竹千代──いや、チヨ。お前を抱く。抱いて俺のおんなにする!」


 先程のキスと今の言葉でメロメロになっている少女の上に、俺は覆いかぶさっていくのだった。


 * * * 


 俺こと織田上総(おだ・かずさ)と、アイツ──徳川竹千代(とくがわ・たけちよ)は、小学校時代からの友人だった。

 小・中・高と何度か同じクラスになって、それなりに気心の知れた、親友と呼ぶのに一番近い存在だったと思う。


 それが、ある日、見学に行った先の博物館で、展示品の、とある戦国武将の妻が愛用していたという手鏡から発せられる不思議な光に包まれた俺達は、この日本の戦国時代をカリカチュアしたような世界に飛ばされていたんだ。


 武田、上杉、真田、毛利、伊達──といった聞き覚えのある武将は存在していたものの、その半数近くが女性だったのはさておこう。

 俺と竹千代が、何故かそれぞれ「織田家」「松平家」の跡取りとして遇されていたことも、俺達が幼馴染という設定だったことも、この際納得しよう。


 しかし……。


 「どうして、僕が、女の子になってんの!?」


 俺に言われても知らん……て言うか、むしろ俺が聞きたい!

 さらに言うなら、俺達は正確には「幼馴染」と言うより「許婚」だった。弱小国主の松平家が、人質兼政略結婚的な意味を込めて娘を、尾張国主の織田家に差し出していたのだ。


 ──もっとも、周囲の話を聞く限りでは、大人の思惑はさておいても幼少時からふたりの仲は大変良好で、「千代姫」は「織田信長」のことを「兄さま」と慕い、「信長」も彼女を妹のように可愛がっていたらしいが。


 その関係は、未来(?)での俺達の関係と、少なからず似てると言えないこともない。おかげで、俺はあまり労せずに現状を受け入れることができた。


 まぁ、竹千代──いや、「千代姫」の方は多少抵抗はあったみたいだが、いかに未来の知識があるとは言え、こちとらただの高校生。時代を変えられるような特技も、桁外れのすごい武器兵器を持ってるわけでもない。

 安手の「最強主人公物」のごとく無双ができるわけでなし、どうしたってこの時代の慣習なり人間関係なりに、適応して生きていくしかないのだ。


 幸いにして、俺達はふたりとも歴史好きで先祖の業績にも詳しかったので、できる限り先回りして、色々手は打たせてもらった。


 その結果、俺達の知る「史実」より5年以上早く、今川家を降すことに成功。ちなみに、今川義元に相当する武将は、弓の名手のお色気熟女(つっても、まだ実年齢30代半ばくらいで、外見はアラサーだけど)だった。


 負けたクセに最初はかな~りタカビーな態度だったけど、某鬼畜王に倣って一発、というか一晩ヤり続けたら、翌朝にはしおらしくなって恭順を誓ってきたので、「側室なら」ということで配下に迎えてある。


 いやぁ、今川氏が配下についたおかげで、そのあとの戦略がはかどるはかどる。「信長」として数え年25歳の正月を迎える現在、東海地方で最大の勢力にまで成長してるわけだ。


 ちなみに、こちらの美濃の斎藤家の当主は、おそらく俺達の世界では「帰蝶」ないし「濃姫」の名で知られる女傑が道三のあとを継いでいる。別段、俺との間に結婚話なんてのも持ち上がっていない──というか、たぶん、あの女は百合レズだ。


 一応、同盟を結んだ(つーかウチが兄貴分の杯交わした)んだけど、その使者としてウチの城にやってきた明智咲ちゃんがたぶん愛人筆頭と思われるフシがある。もちろん、この子が、俺達の知る明智光秀のポジションなんだろう。


 浅井くん家の新九郎とは、既に割かしいい関係を保っている。ウチの妹の市(兄である俺の目から見てもスゴイ美少女。反面、すげぇお転婆でもあるけど)との婚約も決まってるし。

 ちなみにこの婚約、俺から言い出したわけじゃなく(後年裏切るかもしれない相手に輿入れさせるのは、さすがにないワ~)て、妹が自分で願い出てきて決まった。新九郎はイケメンだからなぁ……このメンクイさんめ!


 これで朝倉さん(ちなみに当主は女武将)との関係を断ち切ってこっちについてくれりゃあいいんだけど──ま、その辺りの見切りと覚悟は俺にもボチボチできてるしな。


 で、俺達のことに話を戻すと、竹千代、もとい「千代姫」は一応ひと月ほど前に結婚して正室に迎えた(すでに側室が複数いる点は気にしない方向で)。

 とは言え、初夜の床ではコイツが完全に緊張のあまり失神したので未遂。

 その後、合戦の準備やらなんやらで忙しくなったんだが、肝心の合戦相手がビビッて無条件降伏してきたんで、突然暇ができたワケだ(いや、もうちょっとしたら降した相手への処置だとか、併合した国の法整備だとかで忙しくなるけどな)。


 初夜以来、どうにもおどおどした様子のコイツをつかまえて、寝床に引っ張り込んで直談判した挙句、ようやっと濡れ場に持ち込んだワケだ。


 順調(?)に「第六天魔王」への道を歩んでいる俺にとっても、コイツはやっぱり特別だ。できることなら、その意に反して組み敷いて犯すなんてことはしたくなかったワケだが……。


 危惧に反して、案外簡単に仲直り(いや、ケンカしてたわけじゃないけど)はできた。それどころか、互いの正直な気持ちを(ちと恥ずかしいが)正直にブチ播けたおかげで、前よりもいっそう、そのら、ラブラブな関係になれた気がする。


 もちろん、男としては此処が押し時だ。

 あえて技巧に任せず直球で行ったのが正解だったみたいで……千代が、まぁ乱れること乱れること。

 結果、翌朝から俺達は「城内一の馬鹿っぷる」として、家臣から生暖かい視線を向けられるハメになるのだった。

 いや、まぁ、幸せだからいいんだけどな。

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