◆「システムエラー?」

『ある日、突如日本に現れた謎の侵略者“ヘクセンハウス”。

 彼ら──いや、正確には全員女なので「彼女ら」の持つ不可思議な力“魔法”と、どこからともなく現れる奇怪な魔獣(モンストゥルム)たちの前には、日本が世界に誇る自●隊の最新装備ですら微々たるダメージしか与えられない。


 嗚呼、日本、ひいては世界はこのまま奴らの支配下に置かれてしまうのだろうか?


 しかし! そんな強大な敵を相手に、敢然と戦いを挑む勇気ある者たちの姿があった!

 その名は“マギカプラトゥーン”。名前通り、異端の智慧たる“魔道”の力をもってヘクセンハウスの人外魔境の技術に挑む者──魔法少女たち。まさにそれは、毒をもって毒をを制する戦いと言えるだろう!』


 「……いや、博士。この期に及んでそういう、特撮番組のOP風ナレーションはいいですから」

 「なんじゃ、風情がないのぅ」


 ノリノリなところを制止されて、ドクター・ファーイースト(自称/本名は吾妻 極)があからさまに落胆しているようだが、知ったこっちゃない。そんなことよりコッチにはもっと切実な問題があるのだ。


 「100歩譲って、魔女とか魔法少女とか言うくらいですから、変身したら女の子の姿になってしまうのは、仕方ないとあきらめましょう」


 ホントは、それ自体ツッコミたいのだが、前に受けた説明で、MP(マギカプラトゥーン)の使う魔道とやらは、女性にしか扱えないらしいことは聞いている(しかも年若い処女の方が力が強いらしい)し。


 「より正確には、「男性でも扱うことは不可能ではないが、魔力許容量キャパシティが小さいので現実的ではない」と言うべきじゃがな」


 まぁ、それはそうだろう。だからこそ、男の僕が緊急事態とは言え変身ブレスレットを使うことができたんだろうし。


 「うむ、あのブレスレットは、資質のある人間をより魔力を扱うのにふさわしい姿へとメタモルフォーゼさせるものぢゃからな!」


 そのMPになれる資質を僕の姉・市谷那美と幼馴染の相原凪紗が持っていて、密かにメンバーにスカウトされてヘクセンハウスと戦っていたと偶然知った時は、正直目ん玉が飛び出るくらい驚いた。


 それ以来、間接的にでもふたりの支えになれればと、このMP基地(表向きは、ゴシックな占い館)に、サポートメンバーとしてできるだけ顔を出すようにしてたんだけど……。


 ほんの1時間程前、ふたりを含むメンバー5人が苦戦しているのをモニターで見て、いてもたってもいられなくなった僕は、渋る博士から変身ブレスレットのプロトタイプを無理矢理借り受け、MP6人目の戦士マギカ・マリアとして参戦、見事敵を撃退することに成功したんだ。


 それは、いい。男では、下手すると変身すらできないと言われてのに、キチンとマギカフォルム(某アニメで言うバリアジャケットみたいなもの)を形成して、なおかつ他のメンバーにさほどひけをとらない戦闘力(と言ってもどちらかと言うと純後衛型だけど)を発揮できたんだから御の字だ。


 けれど……。


 「なんで、変身解除しても女の子のままなんですかーーーッ!?」


 ……

 …………

 ………………


 「ふぅむ、どれどれ。おお、コレは……」

 「原因がわかったんですか?」

 「うむ、簡単なことじゃよ、麻里まさとくん!」


 マジか!? さすがマッドがつくとは言え天才科学者!


 「よいかな、マギカブレスレットは、使用者の肉体を魔力を扱うのに最適なMP形態へと変換する。それは一時的なモノではなく文字通り「書き換え」ているのじゃ」


 ふむふむ、なるほど。だから変身時間の制限とかがないのか。


 「もっともMP形態のままでは、いろいろ日常的な不都合が出る場合もあるので、変身時に元の体の情報をブレスレットのコアに記録してある。

 この情報をMPメンバーに上書きすることで、あたかも「変身を解除した」ように見せかけているのじゃ」

 「つまり、「元の姿に戻る」際も、実質は変身してるってことですね」


 ──あれ?


 「じゃあ、僕はなんで……」


 元の男の姿に戻れないんだろ?


 「慌てるでない。それでじゃ、そもそもそのブレスレットは、研究初期に作られた実験用プロトタイプであり、かつて君の姉の那美くんが被験者として使用していたものだと言うことは話したな?」


 「ええ、それは聞きました」


 だからこそ、姉さんと遺伝情報や魔力体質の近い僕も、もしかしたら使えるかもしれない──って、博士は言ってましたよね。実際使えたわけですし。


 「プロトタイプゆえのセキュリティの甘さを利用した作戦だったんじゃが……ただ、起動した反面、不具合もあったのじゃ。

 コアに君の身体情報を記録する際、君のY染色体などの男性的要素に関してはエラーだと判断して廃棄し、おそらくその部分を前任者のX染色体ほかで補ったのじゃろうな」


 「ああ、それでどことなく昔の姉さんに似てるんですね」


 今でこそ校内美人ランキングTOP5の常連である那美姉さんも、中学時代は、文学少女風の地味なルックスをしてた。

 鏡を見た限りでは、今の僕の姿は当時の姉さんにかなり近いかもしれない。


 ──ん? てことは、もしかして……。


 「うむ。結論から言おう。君の男の証たるY染色体情報は失われておる。少なくとも、完全な形で元の姿に戻るのは無理じゃな」

 「は、はかすぇ~~!!!」


 恥も外聞も放り捨てて、泣きべそかいてなってすがりつく僕。


 「ええい、落ち着かんか。そもそも、どんな不具合があるかもわからんとは事前に言ってあったじゃろうが!

 「僕はどうなっても構いません(キリッ」とか言って飛び出して行ったのは君じゃぞ」

 「そ、それはそうですけど……」


 あの時はみんなを助けないと、って夢中だったし。


 「一応、次善の策はある。完全に元の通りとはいかんが、君と比較的近い男性の血縁者──父とか兄弟とかがいるなら、その人のY染色体をコピーして情報を再構成すれば、男に戻ることも、時間はかかるが不可能ではない」


 おぉ、そんな手段が!

 でも、僕に姉さん以外の兄弟はいませんし、父も祖父ももう十年以上前に亡くなってますよ。


 「てことは……」

 「うむ。大変残念なお知らせじゃが──君が元に戻れる可能性は、ほぼ0ぢゃ!」


 ……

 …………

 ………………


 ──その後、ボクは博士のコネと魔法の力を併用して、那美姉さんや凪紗が通っている私立涼南女学院の中等部に、姉さんの“妹”の「市谷麻里亜(いちがや・まりあ)」として通うことになってしまった。


 「実はお姉ちゃん、前々から妹が欲しかったのよ~」

 「あ、ナミ姉も? わたしも妹分な幼馴染ってのにちょっと憧れててたんだー」


 姉さんと凪紗が好き放題言ってる──だけならいいんだけど、隙あらばボクにまとわりついて、女の子らしくさせようとするんだよ、コンチクショウ!


 「博士ぇ~、何とかしてボクを男に戻してよぉ」

 「マサト、いやマリアくん、人間諦めが肝心じゃぞ?」


 どちくしょーーー!!


<おしまい?>

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