◇イミテーション・マジカルランプ(後編)

【A:妹ルート】


 「そうだなぁ。『しすぷり』のハルカとか、『すまいる☆ぷりきゅーと』のレイカとか、『魔法学園高等部』のミユキとかみたいな、黒髪ロングストレートの大和撫子的な妹というのもいいかもしれん」


 念の為、今より2歳上の中学三年生ということにしておけば、料理関係もそれなりにこなせるようになってるだろうし。この際だから、俺のことをブラコン一歩手前くらいに大好きって属性も付け加えておくか。

 俺は、思いついた内容を紙に書いて、ランプの火にかざした。

 たちまち紙が燃え尽きるとともに、ランプの燃料もなくなり火が消えてしまった。


 「ありゃ、4回限りってこういうコトだったのか。さて、無事に願いがかなっているといいけど……」


 俺は、緊張しつつ階下に降りていった。

 キッチンにいたのは……。


 「あ、お兄様♪ もう御用はよろしいのですか?」


 そこには見慣れぬ(しかし、どこか見覚えのある)顔つきの15歳くらいの美少女が、エプロン姿で何やらデザートを作っていた。

 身長は160センチ弱と高からず低からず。スタイルは細身だが均整がとれているし、雪のように肌の色が白く、対照的に黒く艶のある髪を腰の下あたりまで伸ばしている(料理のためか、今は三角巾でまとめているが)。


 「もう少しで、エッグタルトが焼けますので、今しばしお待ちくださいね」


 何より、ニッコリ笑う美少女のおっとりした物腰と優しい雰囲気に癒される。


 「ああ、楽しみにしてるぜ、亜樹(あき)」


 そう言って“自慢の妹”の髪を優しく撫でてやると、亜樹はポッと頬を染めて恥じらいつつも満更でもなさそうだ。


 ──フハハハハハ、我が事成れり!

 「ねんがんの パーフェクトシスターをてにいれたぞー!」と、大声で周囲に触れ回りたい気分だが、「殺してでも奪い取」られたら嫌なので自重しておこう。

 「お兄様、お味は如何でしょうか?」

 「おぅ、いつも通り絶品だ。亜樹は将来いいお嫁さんになれるぜ!」

 「そんな、褒めすぎですわ♪(ポッ)」


 お袋に負けず劣らず上手い妹の手料理に舌鼓をうちつつ、今後の快適ライフを想像して笑いが止まらない俺だったが……。


 1年後、ふたり暮らしでブラコンをさらにこじらせた亜樹に半裸で迫られ、うっかり兄妹の垣根を越えてしまった挙句、その後、帰国した両親にふたりの関係を知られてしまう。


 もっとも、その両親からも「実は亜樹とお前は実の兄妹じゃない」ということ(正確には俺は父の死んだ兄の子らしい)をサプライズで知らされ、そのままなし崩し的に婚約させられて、17歳にして人生の墓場に片足を突っ込むハメになるのだった。


 「うふふふ……末永くよろしくお願い致しますわ、お兄様♪」


 ──まぁ、でも、こんなバラ色の監獄なら、無理に抜け出す必要もないか。


-Happy End?-


 ────────────────────────


【B:姉ルート】


 その時の俺に、ふと逆転の発想が浮かんだのは、あるいは悪魔の囁きだったのかもれない。


 (──待てよ……年齢的な理由で家事ができないなら、この際、俺よりも年上の“姉”にしてしまえばいいのではなかろーか?)


 向こうの方が年上なら、この家を預かる責任も俺が背負わなくていいだろうし、妹と違って色々手間かけさせないだろうし。


 だが、姉のいる友達ツレ連中は、「姉貴なんて弟にとっては暴君だ。ロクなもんじやねぇ!」とか口を揃えて言ってたな。その点はちゃんと仕込みをしておく必要があるか。


 美人で巨乳、もちろん性格もブラコンで弟にダダ甘な、エロゲやラノベに出てくるようなお姉ちゃんキャラにしとこう。

 頭が良くて成績優秀、ってことにしとけば勉強とかも喜んで教えてくれそうだな。

 ただし、あんまりお堅い感じじゃなくて、むしろやや天然気味でのんびりした性格の方が無難かも。

 で、家の中では脇が甘くて、目の保養になるようなエロハプニングを時々起こしてくれる──アリだと思います!


 魔が差したというか、妙にノリノリで、俺は思いついた内容を紙に書き連ねて、ランプの火にかざす。

 紙が燃え尽きるころには、ランプの燃料もなくなり、あっさり火が消えてしまった。


 「4回の回数制限は燃料が理由かよ!? それはさておき、ちょい悪ノリし過ぎちまった気がするが、大丈夫かね」


 俺は、微妙に後悔しつつ階下に降りていったのだが……。


 「あ、きよくん、ちょうど良かった。おねーちゃんが、帰りに駅前のショコラテで買って来たチョコカヌレ、いっしょに食べよ?」


 スラリと背が高く、胸もばばーんとでっかい、ポニーテールの若い美人さんが俺に向かってにぱっと笑いかけてくる。


 「お、いいね。じゃあ、俺はお茶でも淹れようか」

 「わーい、ありがとう、きよくん、愛してるぅ」

 「はいはい、俺もな」


 ベタベタとまとわりついてくる“姉”の立派なふたつの膨らみが背中に当たり、思わずニヤケそうになるのを堪えて、俺はワザと気のない風を装いつつ、てきぱき紅茶の用意をする。


 ──あれ?

 でも、なんでこの場面で俺がお茶係になってんの?

 微妙に嫌な予感がしつつ、俺はそれとなく探りを入れてみる。


 「あ~、樹利亜(じゅりあ)ねぇ、食事当番の件なんだけど……」

 「あ、うん、ごめんね、きよくん。本来はふたりで分担してやるべきなのに、ご飯の支度全部任せちゃって」


 ジーザス、やっぱりか!

 どうやら、利亜(13歳♀)の予想は正しく、この人は成長しても料理下手なままらしい。


 いや、それだけじゃなく、僅か一日で判明したんだが、掃除洗濯裁縫全部アウトっぽい。これなら、掃除と洗濯くらいは頑張って手伝ってくれてた利亜の方がまだマシだ。


 そもそも、国立大学にストレート合格するくらいの頭脳の持ち主が、なんで全自動洗濯機ひとつロクに扱えないんだよ!


 「あはは、ホラ、おねーちゃん、文学部で機械オンチだから」


 スマホもよくわかんないから、いまだにガラケー使ってるしねー、と笑う樹利亜ねぇ。


 「だからって、弟に自分の下着まで洗濯させんなよ!」

 「ごめんごめん、やっぱりお年頃の男の子には刺激が強すぎるかな? お詫びに、きよくんだったら1、2枚くすねても、おねーちゃん、許しちゃうよ♪」

 「姉貴のパンツなんか盗らねーよ!」


 そう威勢良くタンカは切ったものの、じつは少なからず心揺れたのは、ここだけの秘密だ。

 しかも、自室に帰って本棚の裏とかベッドの下チェックしてみると、題名に“実姉”とか“義姉”とかの字がついてるブツが多いし……。


 「だーーっ、いくら家ン中だからって、そんな格好でうろつくなぁ!」


 さらに、“時々”どころか、ほぼ毎日、エロハプニングが起こる──と言うか、樹利亜ねぇの場合、ワザとそうしているフシがある。仲がいいって言うか、過剰なスキンシップ好きだぞ、コレ。

 単に弟をからかって楽しんでるのか、本気でブラコンをこじらせたのか……あるいは、その両方という線も考えられる。


 くそぅ、あと2年近く、エロ可愛い年上美人あねとのふたり暮らしを俺は理性を保って乗り切ることができるのだろうか?


 「見て見て、きよくん、紫のベビードール、通販で買っちゃった♪ どう、似合う?」

 「………………フォーーー!!!」 ←ルパ●ダイブ

 「きゃあ♪ ダメだよ、きよくん、こんな所で……ちゃんとベッドで、ね?」


 ──無理でした!


 青い衝動に任せて、樹利亜ねぇを押し倒してしまった俺は、以後、なし崩し的に姉とセフレ(というかほぼ恋人?)関係を続けることになるのだった。


 「もぅ、高校時代の体操服とブルマ姿でシたいなんて……きよくんたら変態さん♪」

 「とか言って、樹利亜ねぇもしっかり着て、興奮してんじゃねーか」


 ……まぁ、それなりに充実してるとも言えるけどな。


-Happy End?-

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