第1節 魔女が営む探偵事務所

1

PM2:15 北海道警察中央警察署


 いつもよりザワつくしょの中。このご時世と言うのもあり、皆マスク越しで声を張り、何かを話し合う。


「また死者ししゃが出たぞ。今度は50代男性。死亡推定時刻しぼうすいていじこくは20時4分頃だ。これでこの連続変死事件れんぞくへんしじけんの死者は3人だ!」


 殺伐さつばつする警察署けいさつしょの中、1人の警官けいかん望月もちづきはパソコンで何かを閲覧していた。

 しかし、それを見ていた別の警官に頭をたたかれる。


「望月!お前、調査ちょうさに参加しねぇで何見てんだ?」


五十嵐いがらしさん!いたいじゃないですか!」


「痛いじゃねぇよ。んで?なんのサイトを見てんだ?」


 警部の1人、五十嵐は望月のパソコンを覗きながら話しかける。


札幌七不思議さっぽろななふしぎってサイトです。これがまた面白くてつい」


「あっそう。それが事件に関係かんけいあんのかよ?」


「分かりませんが、何かわかるかもと思って見ているんですよ。多分たぶん


「多分ってお前、一応刑事いちおうけいじだろ?んな根拠こんきょの無いもん調べたって意味いみねぇだろ!!」


 そう言うと、五十嵐はまた望月の頭をしばく。


「いった!また叩かないで下さいよ!」


「たくっ、お前はもう少し責任感せきにんかんってもんを持て!」


 五十嵐は自分の席へと座る。すると、望月は何かを見つけた様だ。


探偵事務所たんていじむしょ 如月きさらぎ?ここって確か七不思議で有名ゆうめいなやつですよこれ!」


「うるせぇ!いきなりはしゃぐな馬鹿ばかが!」


 五十嵐は呆れながら、再び望月の席へと行く。


「これ、有名な七不思議の1つですよ!河川敷沿かせんじきぞいにまう魔女まじょって有名なやつです!」


「魔女?お前、魔女なんて居ねぇだろ?」


「いや、いるんですよ!確か、高額こうがく請求せいきゅうを求められるけど、どんな不可思議ふかしぎな事件や胡散臭うさんくさい|骨董品こっとうひん鑑定かんていしてくれる事で有名な店ですよ!!

ほらここ、ここからそう遠くないですよ!」


「馬鹿言うんじゃねぇよど阿呆あほう!!んなあやしい店に行ってられるからよ!」


 五十嵐は、また呆れながらホワイトボードの方に行く。死体したい写真しゃしんながめ、ひげが生えきったあごに手を置く。その死体と、色々と書かれている地図ちずを眺め続ける。

 望月の方を見ると、まだ例のサイトを見ている。五十嵐は、写真を何個か持ち出し、望月の席に戻る。


「おい望月。今からそこ行くぞ」


「今からですか!?やめてくださいよ。急に言い出すの」


「うるせぇ!いいからすぐに支度したくしろ!」


 五十嵐は、鞄に写真などをしまい、警察署けいさつしょを後にする。望月は呆れながら、五十嵐の後に続く。


住所じゅうしょはどこだ?」


「待ってください!今、調べますから」


 望月はスマホを持ち、道案内みちあんないをする。それに合わせ、五十嵐は車を走らせるのだった。


PM3:35 豊平川河川敷沿い


 五十嵐は、煙草たばこを吸いながらハンドルを回す。


「何だよ。駐車場ちゅうしゃじょうねぇじゃねぇかよ」


「そこにパーキングありますね。そこで止めるしかないですね」


 五十嵐は、いやいやそこで車を止める。駐車券ちゅうしゃけんを取り、徒歩で目的地もくてきちへと向かった。


「ここみたいですね」


「何だ?妙に大きい屋敷やしきだな。こんなとこあったか?」


「ここの家主やぬしはしばらく留守るすにしていたらしく、そのご身内みうちが引き取る形で、今も存続そんぞくされてるそうです」


 やれやれと思いつつ、門をくぐる。そして、看板を見つけ、その通りに左の扉を開ける。

 カランカランと扉を開けると、先客せんきゃくが入っていて、豪華ごうかなソファで待っていたようだった。


「いらっしゃいませ。ご予約よやくの方ですか?」


 メイドの様な格好かっこうをした女性じょせいが、2人を出迎える。五十嵐と望月は、その女性に警察手帳けいさつてちょうを見せる。


「警察の方ですか?こちらに何かご用ですか?」


「いや、ここのオーナーに話があってね。今大丈夫いまだいじょうぶか?」


「申し訳ありません。今、先客の方がおりましてそちらの対応中たいおうちゅうでして、お待ちいただけるのであれば、そちらのソファでゆっくりしていただければと思います」


「あぁ。そうさせてもらうよ」


 2人は、ソファに腰をかける。そして、2人にコーヒーを淹れたカップがもてなされる。


「中々いい豆だな。苦味にがみの後に酸味さんみが感じられるコーヒーだ」


「またデタラメですか?それ?」


 望月は、用意された角砂糖かくざとう何個なんこかコーヒーに入れる。


「お前、そんなに入れると甘ったるくて飲めたもんじゃねぇだろ?」


「ブ、ブラックはまだ飲めないんです!」


餓鬼がきかよお前」


 五十嵐は、望月のコーヒーを呆れながら、コーヒーを飲む。すると、奥の部屋から人が出てきた。

 その女性は、なんともうつくしい外見がいけんをしていた。

 まるで、人形にんぎょうのようなあざやか銀色ぎんいろ長髪ちょうはつと、眼鏡越メガネごしではあるが、宝石ほうせきの様に綺麗きれいあかい目をしていた。


鑑定かんていの方が終わりました。では、結果けっかをお伝えしますね」


「は、はい!お願いします!」


 女は、先客に何かを言う。五十嵐と望月は、それを奥から眺め続ける。


「こちらの『葛飾北斎かつしかほくさいふで』としょうされる物ですが、残念ざんねんながら、偽物にせものでございました。理由りゆうとしては2点ほどありまして、1つは取手とって部分ぶぶんが余りにも新しすぎる点です。

 もし、北斎が使用していた物であれば、200年程経過ねんほどけいかしていてここの部分がくさっていてもおかしくは無いはずです。しかし、これは、どこも腐っていない完全かんぜんな偽物です。そして2点目は、筆の部分がぞうのしっぽの毛を使ってる点です。本来、北斎が生きていた時代は江戸幕府えどばくふの頃ですので本人がこだわってない限り、うまのしっぽの毛を利用されると考えられます。まぁようは、北斎が使用していた物をいつわった完全な偽物なのです」


「そ、そんな!かなりのがくをしたから本物ほんものかと思ってました!」


おそらく、詐欺さぎたぐいでしょうね。では、こちらが買取価格かいとりきんがくになります」


「40万円まんえん!?何故でしょう?」


本来ほんらいなら、500円にもならないガラクタですが、お客様きゃくさま被害額ひがいがく想定そうていしての金額きんがくになります。何かご不満でも?」


「え、えぇ。本当によろしいのですが?」


「はい。問題もんだいありません」


 少女は、客に向けて笑顔を向ける。客は驚いた様子で、買取金額かいとりきんがくを見つめる。

 どうやら、実際じっさいの被害額よりも多めに含まれていたようだ。


「では、お気をつけてお帰りください」


「は、はい!ありがとうございました!!」


 客は、少女に頭を下げてその場を去っていった。望月と五十嵐は、驚きながら先客を見る。


随分ずいぶんと肝が据わってるお嬢さんだな」


「凄いですね。出来のいいものをすぐ偽物って言えるなんて」


 2人は、そう言うと少女は近くまで来る。


「道警の方々ですね。どの要件ようけん御来店ごらいてん頂いたのですか?」


単刀直入たんとうちょくにゅうに言うが、ここ最近札幌で起きてる連続変死事件れんぞくへんしじけんの件で、何か聞こうかと」


「はい。こちらでも事件については調べあげておりますのでとりあえずこちらへ」


 2人は、ふたたびソファに座る。少女もまた、名刺と共に、事件について調べたファイルを2人に見える。


「『探偵事務所たんていじむしょ 如月きさらぎオーナー キサラギ・アルトナ』?随分と珍しい名前だな。アメリカ人か?」


「いえ、私は日本に帰化きかしたものですので、お構いなく。

では、こちらが私の方で調べあげた物です」


 2人は、まじまじとファイルの中身を見つめる。

 なんと、捜査本部そうさほんぶよりも精密せいみつに集められた内容だった。

 そっちでは見た事もない写真や諸々もろもろが、そのファイルには記されていたのだ。


「おいおい。お嬢さん、あんた相当調そうとうしらべあげてるな」


「これでも、まだ出てない情報もありますのでなんともは言えないのですが」


「これだけ調べたのを本部ほんぶに見せれば、捜査そうさが進みますよこれ!!」


「いや、ダメだ。奴らはこれを見たって信用しねぇだろ?」


「そ、そうですか。でも、これで次の事件じけん未然みぜんに防げれんですよ!?」


「そうじゃねぇよ。あいつらは、自分で調べたのを有益ゆうえき根拠こんきょに使うだろう。奴らは利益りえき出世しゅっせにしか興味きょうみねぇんだよ。だからこれは使えねぇ。わかるか?」


 望月は黙り込むが、少女は話し始める。


「なら、明日そちらにおうかがいしてもよろしいでしょうか?

もっと有益な情報を提供ていきょうする事を約束をするなら、どうでしょうか?」


 2人は、頷いてお互いを見つめ合う。

 それは、2人にとって願ってもない要求ようきゅうだったのだ。


「よしいいだろう。明日、改めてこちらに車を要して伺うことにしよう。望月。行くぞ」


「行くぞって!いきなり言うのやめてください!!」


 望月と五十嵐は、何かを掴んだ感覚を感じる。

 すぐに戻った2人は、夜中ギリギリまで資料をまとめたのだった。

 

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