魔王城―第1話―

 魔王城の一角、石造りの薄暗い廊下に、4人分の足音が響いていた。

 先頭を歩くのは黒いマントに黒い角を生やした、黒尽くめの服装の男、魔王。そのすぐ後ろにワイシャツに黒いベスト、黒いスラックス、そして黒い羊の角を生やしたガタイのいい魔王の配下が続く。その男の手には、鈍色に光る鎖が握られている。

 その鎖は、さらにその後ろを歩く水色の胸当てと篭手、そしてすね当てと冠を付けたボロボロの男、勇者を縛り付けていた。彼の足取りはおぼつかなく、時折躓いては足を止め、黒ベストの男に鎖を引っ張られてどうにか前に進んでいる。

 そして最後に、その3人をカメラで撮っている黒ジャンパーに黒い山羊角の男がいた。全員一言も喋ることなく、粛々と廊下を進んでいる。

 と、先頭を歩いていた魔王が廊下の端にたどり着き、足を止めた。その目の前には、巨大な木製のドアが鎮座している。黒ベストの男も魔王に続いて足を止め、鎖を引っ張って魔王の真横に勇者を立たせる。

 魔王は勇者の方を見ることなく、ドアノブへと手を伸ばした。彼の手がドアノブに触れた瞬間、ドアは大きな鈍い音を立てながらゆっくりと開いていき、身体を揺らすほどの振動と轟音に、勇者が反射的に身体を震わせ怯えた表情を浮かべる。

 数秒かけてドアは開ききり、魔王はその先へと足を踏み出した。ドアの先にあったのは吹き抜けの大広間で、石で出来た床と壁が延々と続き、装飾品も家具も何もない。ただ部屋の中央にぽつりと、頼りなさげな木の棒が突き立てられている。

 勇者は怯えて数歩後ずさりしたが、黒ベストの男は遠慮なく鎖を引っ張り、半ば引きずるようにして部屋の中央に向かって歩き始めた。一方の魔王は、部屋に入ってすぐのところで足を止め、後ろについていた黒ジャンパーの男の持つカメラの方へ振り返った。

「魔王だ。今現在、私達はこの放送を乗っ取っている。いいか、これを見てる全国民に告げる。今連行されているこいつは、勇者などと名乗って私に刃を向けてきた不届き者だ。3回目までは見逃したが4回目にも同じように刃を向けてきた。よってこれから3日後、こいつを処刑することにした」

 魔王の背後で、部屋の中央に到着した黒ベストが少々乱暴に勇者を木の棒に押し付けた。勇者は抵抗する気力もないのか、木の棒に身体を打ち付けて少しだけ苦しそうな呻き声を上げる。

 黒ベストの男はその呻き声にも一切反応することなく、無表情のまま勇者の身体に巻き付けられていた鎖を手際よく外すと、その鎖を使って勇者を木の棒にくくりつけ始めた。

 魔王は彼らの方を見ることなく、カメラに向かって淡々と言葉を続ける。

「それまではここで監禁させてもらう。私に歯向かった不届き者がどうなるかじっくり見せるために、1日1回この放送を乗っ取って、やつれていく勇者の様子を流す予定だ。処刑の瞬間も、もちろん中継する。私のもとに来たやつがどんな運命を辿るのか、その目でじっくり確かめるが良い。それじゃあまた明日、この時間に会おう」

 魔王はそこで喋るのを止め、わずかに口角を上げた。その背後では、黒ベストの男が淡々と作業を進めている。

 と、黒ジャンパーの男が何やら手に持っている機械を操作し、カメラを床に向けた。

「……はーい、中継終わりました。画面切り替わってまーす」

 彼がそう緊張感のない声で告げると、魔王は上げていた口角をスンと元に戻し、気だるそうに姿勢を崩した。

「終わったか。全部テレビで流れた?」

「はいもうばっちり。かっこよかったっすよ、魔王様」

 カメラを持っていた黒い山羊の角に黒いジャンパーの男が応じると、魔王はそうか、と軽く流してから、背後を振り返った。そこではちょうど黒ベストの男が作業を終え、鎖を南京錠で留めていたところだった。勇者は抵抗することもなく、俯いたままピクリとも動かない。

 と、魔王はそんな勇者の真ん前までゆっくりと歩いていき、その正面で立ち止まると、じっと勇者の顔を見つめた。俯いていた勇者がわずかに顔を上げ、前髪の隙間から魔王の顔を睨みつける。

「……なんだよてめえ。何でいちいち俺を捕まえたんだよ。3日と言わずに、すぐ殺せよ」

「そう急ぐことはないだろ?ちょっと話そうぜ」

「お前と話すことなんてねえよ!いいからさっさと殺せ!こんな場所、1日だっていたくないんだ!」

 勇者が魔王を睨みつけながら広間に響き渡る大声を上げた。そのいら立ちと恐怖が入り交ざった言葉を聞いた魔王は、途端に面倒くさそうに宙を見上げる。

「うっわまじ喧嘩腰じゃん……。いやまあこんな状況にしたのは俺だけど、それにしても興奮しすぎ。ちょっと落ち着けって。別にお前のこといじめたいわけじゃねえんだよ」

「……は?」

 急にフランクになった魔王の言葉に、勇者が威嚇半分驚き半分の声で応じる。

 と、魔王は視線をパッと勇者に戻し、愛想笑いをしながら話し始めた。

「いやいや、ほんと、殺す気も傷つける気ないんだって。ちょっと取引させてほしくてさあ」

「取引……?お前、こんな状況で何を今さら」

 まだ強気な勇者の言葉を遮るように、魔王は大声を上げた。

「あー、そんなややこしいのじゃないから。とにかく聞いて。……あのさあ、人間って弱いじゃん?特にお前とか、人間の中ではまあまあな強さなんだろうけど、4人いても俺に勝てないじゃん?」

「……まあ、それは。いつか倒すけどな」

 勇者は言いにくそうに言葉を濁した。ようやく落ち着いた勇者を見て、魔王は満足そうに頷く。

「でも、正直俺はさあ、ここでアニメ見てだらだら過ごしたいのよ」

「……はあ?」

 突然の魔王の言葉に、勇者は思いっきり顔をしかめた。が、魔王はそれを気にせず、腰に手を当てて話を続ける。

「外に出る気もないし、人間界を脅かす気もないし。魔物もあいつら勝手に生活してるだけで俺の配下じゃない。配下はここにいる2人だけ。現にこの城、魔物出てこないだろ?」

「……確かに」

 勇者が眉をひそめながらも頷くと、魔王は深いため息をついた。

「なのにここにいるだけでさあ、お前みたいな勇者名乗るやつがやってくんの。いっぱい。お前らは特訓してるからまだ真面目なんだろうけど、この前とかやべーよ。頭まっきんきんに染めた10代の若者が3人、釘バット片手に乗り込んできてさあ。何喋ってるか分からねえし、こっちの言葉通じねえし、仕方なく眠らせて外に放り出したけど、どう見ても勇者じゃなくて不良だろ。お前らの政府の政策どうなってんの?勇者の人選くらいしっかりしろよ」

「適性試験に通れば素行不良は無視だからなあ……。じゃあもうちょい誰も来なさそうな場所に建てれば良かったじゃん。街からはちょっと遠いけど、登山頑張れば誰でも来れるぜ、ここ」

 勇者が言うと、魔王は勢いよく首を横に振った。

「ここがギリギリなんだよ!テレビの電波受信出来るのと、ネット回線繋がる場所!なるべく遠くしたんだぜ、これでも!これ以上離れるとアニメ見られねえだろ!」

「……はあ」

 勢いよく語る魔王に、勇者は困惑した表情を浮かべる。と、魔王はそんな勇者に向け、手を合わせた。

「でも俺もさ、魔王として生まれたからにはちょっとかっこつけたいわけ。かっこいい呪文唱えたいし、勇者をやっつけたいし、何なら服も黒一色で揃えちゃうし、部屋薄暗くしちゃうし」

「……さっきの中継もそれ?すげえカッコつけてたけど」

「そう!で、俺、処刑とか口走っちゃったけど、正直勇者まがいの奴らが来なくなればいいんだよね。だから取引なんだけど……。死んだふり、してくれない?」

「……死んだふり?」

 勇者がぽかんとしたまま言葉を繰り返すと、魔王は何回も頷いた。

「そうそうそう、人には圧倒的な恐怖を植え付けたい、そしてここに来てほしくない。でも人は殺したくないっていう俺が考えた最強作戦!俺は勇者を殺すふりをして、勇者は死んだふりをする。で、全部終わったら静かな田舎にでも解放するから、そこでのんびり暮らしてくれればいい。あ、もちろんある程度の支援はするぜ。お金とか。……どう?」

 その提案を聞いた勇者は、見えない答えを探すようにキョロキョロと周囲を見渡していたが、やがて魔王の顔をじっと見つめ、ゆっくりと口を開いた。

「……本当に殺さない?」

「しないしない。攻め込まれなきゃいいんだから。てか殺したとも言わないし」

「……本当に?実は俺を油断させるための嘘だったりしない?」

 勇者がなおも魔王に疑いの目を向ける。すると魔王は顎に手を当ててから、おもむろに勇者を拘束する鎖に手を伸ばし。

 次の瞬間、鎖は外れて地面に落下し、自由になった勇者がポカンとした顔で自身の身体を見渡した。そんな勇者へ、魔王が笑いながら声をかける。

「これで信じてくれる?まあ武器はちょっと返せないけど」

「ええ……?」

 未だに戸惑う勇者へ、魔王が明るく言う。

「そうだ、演技下手だと最悪だし、ちょっと死んだふりだけやってみてもらっていい?。俺もやってみたいし」

「やってみてって……。何その漫才みたいなノリ」

 魔王はそのツッコミには答えず、急展開で唖然とする勇者の正面に立ち、軽く呪文を唱えた。すると魔王の手から、赤黒い槍のような形状の魔法が飛び出してきて。

 それを見た勇者は、木の棒を盾にしつつ軽く逃げ出した。

「やっぱ嘘だろ!本当に俺を殺す気だろ!」

「殺さねえって!ほんとに!殺傷能力ないから!」

「嘘だ!」

「まじだって!ああもう……。タリート!ちょっと身体貸して!」

 魔王が叫ぶと、先程勇者の鎖を引っ張っていた羊角の男が、部屋の隅からぬっと姿を現した。

「何でしょう」

「ちょっと身体借りるわ」

 魔王はそう言うやいなや、手に持っていた魔法の槍をタリートの方へ投げつけた。槍はまっすぐタリートの身体を貫通し、先端が背中から飛び出す。

 次の瞬間、タリートは胸元を抑えながら地面に膝をついた。勇者が木の棒を盾にしつつ叫ぶ。

「やっぱり殺す気満々だったんだ!」

「ちげえ!タリート!紛らわしいことすんな!」

 魔王が怒鳴ると、タリートはいたずらがバレた子どものような無邪気な笑顔を浮かべながら立ち上がり、柔らかい穏やかな声で答えた。

「せっかくなら死んだふりしたほうがいいのかと思いまして」

「ちげーって。ったく……。ほら勇者、こいつ無事だろ?種も仕掛けもないから、近寄って確かめていいぜ」

 魔王が脱力しながら言うと、勇者はそっとタリートの方へ近づき、しげしげと眺め始めた。そんな勇者の目の前で槍はすーっと虚空に溶けて消え去り、後には穴一つ開いていないタリートの身体が残される。

 勇者は槍が刺さっていた箇所を恐る恐る触りながら、タリートの顔を見上げた。

「え、本当に何ともないんだ……。痛くない、ですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。身体には何も干渉しない魔法ですので」

 タリートがニコニコしたまま応じると、魔王もこくりと頷いた。

「そうだよ。というか今殺す意味ないじゃん。やるならさっきやってるよ。というわけで次は勇者だな、行くぞ」

 魔王は再び赤黒い槍のような形状の魔法を呼び出した。勇者は怖がりながらも、その正面で立ち止まる。

「ほ、本当に大丈夫なんだよね?」

「大丈夫だって。マグラ、タリート、ちょっと身体支えてやって。本番はさっきみたいに縛り付けるから」

 魔王の言葉に応じて、マグラと呼ばれた山羊角の黒ジャンパーの男とタリートが勇者の横に立ち、脇の辺りを腕で支えた。勇者が戸惑いながら魔王を見る。

「え、ほ、本気でやらなきゃだめ?」

「そりゃ当然だろ。そっちが死んだふりして、初めてこの計画は成功するんだから。出来なきゃまじで処刑するからな」

「えええ!?何その二択」

 驚く勇者へ、隣からタリートがニコニコと声をかける。

「ああ言ってますけど、魔王様は他人を殺す度胸ないので大丈夫ですよ。ゴキブリが出ただけで大騒ぎする人ですから。攻撃と同時に眠らせるとか、何か対策持ってきてくれると思います」

「あ、ああ、そうなんですね……」

「おーい、タリート?余計なこと言わなくていいんだよ。こういうのは追い込んだほうがいいんだから」

 魔王が言うと、タリートはニコニコしながら首を傾げた。その横で、マグラが首を振る。

「主人、それは前時代的っすよ。ちゃんと説明して、しっかり理解を得てから実行に移さないと。精神的に傷つけたらDV……。いや、立場の差があるからパワハラか。パワハラっすよ。主人、すぐ訴えられちゃいますよ」

「どこに魔王からパワハラされたって訴える勇者がいるんだよ!時代の波にも限度があるわ!……こんなアホは放っといて、勇者、とりあえずやるぞ」

「え、あ、うん」

 ぼんやりとやり取りを眺めていた勇者が頷いた。すると魔王は途端にスイッチを入れ、ニヤリとした笑みを浮かべて言う。

「約束通り3日経った。これより勇者の処刑を実行する!俺に喧嘩を売ったことを、後悔しながら死ぬがいい!」

 そう言い放った魔王は、そのまま魔法の槍を勇者に向かって投げつけた。槍は勢いよく勇者の胸元へ飛んでいき、胸の中心をまっすぐ貫く。

 勇者は槍の動きに合わせて身体を反らすと同時にグッ、という声にならない悲鳴を上げた。その後、勇者は荒い呼吸を繰り返しながら胸元に生えた槍を見つめると、掠れた声で魔王め、と呟き、全身から力を抜いて項垂れた。マグラとタリートが両脇で勇者の身体を支える。

 数秒の空白を空けてから、魔王が勇者の元へ駆け寄った。

「え、すげえ!めっちゃ演技上手くない!?まじで魔法間違えたかと思った!いい!それいい!それ本番でもやってくれればいいから!」

 テンションがやたらと高い魔王の言葉に、勇者は気だるそうに頭を上げて応えた。

「……まじで?これでいいの?」

「まじでまじで。いい、むしろそれがいい。最高。役者やってた?」

「やってない、けど」

 勇者が答えながら身体を起こすと、刺さっていた槍は虚空に溶けて消えた。勇者が不思議そうに胸元を触る。

「本当に何ともないんだ……。変な感じ」

「いい魔法だろ?」

 魔王が笑って言う横で、マグラがニヤニヤしながら口を挟んだ。

「魔王様、これでたまにドッキリ仕掛けてくるんですよ。魔王の死体があっても驚いちゃだめっすよ」

「あ、てめえ言うなよ。1回は仕掛けようと思ってたのに」

 魔王が言うと、マグラは大きな笑い声を上げた。そのやり取りをポカンとした顔で見る勇者へ、タリートが声をかける。

「大丈夫ですか?なんかポカーンとしてますけど」

「大丈夫、というか、いや、何か不思議だなって……。え?本物の魔王?さっき大広間で、お前らごときじゃ俺には勝てねえんだよ、とか言ってたのと同一人物?」

「ええ、同じ人ですよ。魔王様……。いえ、我々の主人は、本来はこんな人なんですよ。先程までのは魔王のフリというか、まあ空想上の魔王を演じているだけですね。皆さんがイメージしている通りの、圧倒的な強さと恐怖をばら撒く魔王様ということです」

 タリートがにこやかに応じ、勇者は3人の顔をぐるっと見渡してから、口をパクパクと動かす。

「ほ、本当に殺さない、んだ」

「だからしねえって。だって殺すなら最初に殺してるし、こんな面倒なことしねえよ。お前ら全滅したあと女神像に送られるだろ?あれだって俺が飛ばしてんだよ?」

 魔王は疲れたのか、部屋の隅の段差部分に腰掛けながら答え、勇者は驚いた顔で魔王を見つめた。

「え、あれ自動じゃないの?」

「んなわけねえだろ。ゲームしすぎ。俺が手動で飛ばしてんの、魔法で。傷だって回復してやってんだから。今だってお前、服こそボロボロだけど身体は痛くねえだろ?」

「た、確かに。そっか、そうなんだ……」

 勇者が納得しながら自身の身体を見下ろす。と、魔王は自身が腰掛けている段差をポンポンと叩いた。

「っつか座れば?もうちょっと話したいし、疲れたろ」

「あ、うん。……あと俺の名前、ルガって言うんだ」

 ルガと名乗った勇者が魔王の隣に腰を下ろしながら言うと、魔王は、へー、と相づちを打った。

「ルガか。短くていいな。……俺は一応、リーグラッシュ・ブラッドリー・ハードレットクリニッシュっていう名前があるんだけど」

「リーグラッシュ……。なんだって?」

 勇者が聞き返すと、魔王は軽く笑った。

「ブラッドリー・ハードレットクリニッシュ。長えだろ?だからリーグって呼んでくれ。呼び捨てでいいよ。まあ魔王でもいいけど、それ嫌なんだよな。表はともかく、裏でまで魔王やるつもりねえし」

「あ、そ、そうなんだ……。リ、リーグ?」

 勇者が言いにくそうに呼ぶと、魔王ことリーグは嬉しそうに頷いた。と、勇者の横に座ったタリートが口を開く。

「ではこちらも改めて。私は魔王様に仕えているタリート・ハイルーです。気軽にタリートとお呼びください。あと、我々は魔王様の部下なので、固くならなくて大丈夫ですよ」

「そっすね。タメ口で大丈夫っすよ。俺はマグラ!タリートが秘書みたいな感じで、俺は料理長っすね。よろしく」

「あ、うん。よろしくお願いします」

 勇者が座ったまま頭を下げる。と、マグラが興味津々な様子で勇者の顔を覗き込んだ。

「ところで勇者?ルガさん?は、何で勇者になったんすか?」

「あー、俺も呼び捨てでいいよ。勇者になった理由ねえ……」

 勇者は言いにくそうに言葉を濁したが、マグラのキラキラとした瞳に負け、ゆっくりと口を開いた。

「いや、俺ニートだったんだよ。親から、これ受けてみてだめなら働かなくていいからって、勇者の養成所に無理やり書類送られて、書類審査と試験通っちゃって」

「え、ニートだったんすか」

「そう、ニート。でも俺、アクション系とかRPGのゲームが大好きでさ。勇者扱いされて剣とか振ってるうちにその気になっちゃって、気がついたらここまで……」

「へー、勇者の養成所とかあるんすか。イケメンアイドルが芸能事務所入ったときのエピソードでありそうっすね。こういう勇者って、どこかで能力見出されて、幼い頃から訓練受けてるのかと思ってました」

「いやいや、そんなことない。全員大人になってから、養成所で特訓して勇者になるんだよ。さっきリーグが言ってたように、やべえやつでも能力があれば採用されるし」

 勇者の言葉に、他の3人がへーと感心した声を上げた。と、今度はタリートが勇者へ尋ねる。

「じゃあ先程一緒に来ていた、あの仲間3人も同じく適性試験から?」

「いや、あれは国が採用している傭兵団。魔物退治を仕事にしてる人たちで、勇者の研修が終わると、登録されてる傭兵団から自動的に割り振られるんだよ。相性無視の完全なる運だね。まああまりにも相性悪いときは再マッチング出来るけど」

「女性がいるかいないかも運ですか?」

「そうだね。魔法使いは女性が多いから、俺らみたいな構成が一番多いだろうけど……。良い奴らだよ。ちょっと口悪いけど。まだ組んでから半年しか経ってないのに、もう何回もここに来れるくらい腕立つしさ」

「……良いですね」

 タリートはニコリと微笑んだ。好青年風の微笑に、勇者はやりにくそうに視線を逸らす。

 と、逸した視線の先には魔王がいて、勇者は戸惑いながらも口を開いた。

「えーっと、リーグは何で魔王に?世襲制?」

「うん。世襲。親父も魔王でさあ。とはいえあんま積極的に征服する気はなくて、俺と同じように勇者追い返していただけっぽいけど」

 魔王が笑いながら答えると、勇者は興味深そうに質問を続けた。

「へえ……。お父さんはもう隠居、とか?」

「いや、まあ……。ほら、俺らって結局、最後には倒されるのがハッピーエンドだから」

「あ、ご、ごめん……」

 魔王は一瞬だけ寂しそうに目を伏せた。勇者も気まずそうに視線を自らの足に向ける。が、魔王はすぐに寂しさを消し、口調を明るくした。

「まあ俺らは本当に、生まれつきの魔力がデカすぎて危ないからな。本気出したらお前なんて丸焦げだぜ。こないだなんてさあ、ローストビーフを魔法で作ろうと挑戦したんだけど、火力強すぎてただのステーキになっちゃったからな。美味しかったけど」

 魔王が笑いながら言う。それでもまだ気まずそうに視線を落とす勇者を見て、横からマグラが口を挟んだ。

「そういやさっきの戦闘、この人呪文唱えてたでしょ。実はあれ、いらないんすよ」

「は、おい、ちょ、マグラ!」

 慌てる魔王をよそに、マグラは楽しそうに話を続ける。

「主人は魔力ありすぎて、詠唱いらないんです。人間は必要っすけどね。だけど主人は、あの呪文唱えるのがかっこいいんだ!ってわざわざ唱えるんすよ。特にあの最後の雷を降らす魔法。疾風迅雷!って叫びたいんだそうで」

「いいだろ別に、叫んでも……」

 マグラにそうバラされ、魔王は天を仰いだ。こころなしか、その顔はわずかに赤い。

 と、楽しそうなマグラにつられて明るさを取り戻した勇者が、腕を組みながらうんうんと頷く。

「その気持ちめっちゃ分かる。俺は魔法出来ないけど、かっこよく唱えて止め刺したいとか思うもん。魔法使いが羨ましいんだよなあ」

「お、まじで!?分かってくれる!?」

 魔王が身を乗り出して言うと、勇者は何回も頷いた。

「わかるわかる。かっこいいよな、何だっけあの魔法。天翔ける……?」

「天翔ける天馬よ、暗雲と稲妻の合奏に身を委ね、我の前を翔け抜けろ。疾風迅雷、サンダーラレイン、だな」

「そうそれ!いやー、噛まずにすらすら言えんのまじ羨ましい。ね、他にはないの?」

 勇者がテンション高く聞くと、魔王は嬉しそうに腕を組んだ。

「後なー……。後片付けだるいからあんま使わないけど水の魔法があってさあ。地を這う青蛇の濁流よ、地表をすべて呑み込んで、母なる大地を赤子に返せ。明鏡止水、スネークザウォーター!」

「え、何それかっけえ!」

「だろ?火の魔法もあるんだけどこれはちょい微妙でさあ……。火の象徴が自然界だとマグマなんだよな。だから、地下深くに眠る赤き憤怒よ、今目を覚まして噴き上がれ!みたいな感じで」

 盛り上がる勇者と魔王を、マグラとタリートが生暖かく見つめる。

「楽しそうだな、主人」

「そうですね。まあお父上がいた時代はともかく、亡くなってからは私達3人だけでしたからね」

「確かに、ずーっと閉じこもってるもんなあ。何年ぶりだろう、素の主人が他人と話しているところ見るの」

「やっぱり引きこもり体質とはいえ、定期的に誰かと交流する必要がありますね」

 タリートがニコニコと言う。と、楽しそうに話していた魔王がすくっと立ち上がった。

「っとー、まあこんなところで話し込むのもあれだし、そろそろ部屋に案内するか。ルガも戦ったり何なりで疲れたろ」

「え、あ、うん。部屋あるの?」

「もちろん。あ、ちょっと部屋確認してくるからタリート、ルガ連れてきて。マグラ、俺手伝って」

 魔王が部屋のドアに手をかけながら言うと、マグラは身軽に立ち上がり、魔王と一緒に部屋を出ていった。それを見送る勇者へ、タリートが手を差し伸べる。

「すみませんルガさん、先程は手荒な真似を。人目につくところでは魔王軍として振る舞えって言われているもので。極力手加減はしたんですけど」

「ああ、いや確かに痛くはなかったけど……。部下も大変だね」

 勇者がタリートの手を借りて立ち上がりながら言うと、タリートは穏やかな笑みを浮かべた。

「そうでもありませんよ。面白い人なんです、魔王様。見ていて飽きませんし、お給料もちゃんと頂けますし」

「へー。給料制なんだ。って、お金ってどっから出てんの?魔法?」

「いえいえ、確かに魔力は膨大ですが、何もないところから実体のあるものを生み出すことはできません。転移が精一杯です。ですのでご主人様は、便利屋を稼業としています。魔物の困りごとを聞いて、魔法とかで解決する仕事ですね」

「え。税金制度とかじゃないんだ」

 勇者が驚くと、タリートがニコニコと言う。

「土地はこの城だけです。もちろん世界征服すれば話は別ですが、今の所は特に困ってないので。便利屋業もワープ依頼が一番多いので、魔王様は転送屋となりつつありますね」

「へえ……」

 話しながら2人は部屋を出て、あの薄暗い通路に入った。窓も何もない石造りの通路に2人の足音が反響する。

 勇者は室内をキョロキョロと見渡しながらポツリと口を開いた。

「にしても、本当に3人だけなんだ。こんな広いのに」

「そうですね。昔はもっといたらしいですけど、ご主人様のお父上、つまり先代の魔王様が倒されたときに大多数が死んでしまって。ご主人様は人が増えるのを嫌がったので、ご一家に仕えていた私と、仲が良かったマグラがそのまま配下となりました。お母上もとうに亡くなっていて、一家と言ってもご主人様だけだったので」

「そうなんだ……。家族が全員いないなんて、リーグも大変なんだな。そりゃ引きこもりたくもなるよ」

「まあ引きこもっているのは元々の性格っぽいですけどね。言ってもこれ100年以上前の話なので」

「へえ、100年……。100年!?」

 勇者が驚いて聞きなおすと、タリートは出入り口のドアに手をかけながら頷いた。

「100年くらい前です。だってルガさん、魔王が倒された当時のこと知らないでしょう?」

「あ、うん。確かに知らないけど……。いやちょっと待って!?リーグとタリートとマグラって何歳!?」

「何歳でしょうねえ……。100歳超えてから数えるのをやめちゃったもので」

 角こそ生えているものの見た目は20代でも通じそうなほど若々しいタリートが、飄々とした口調で答える。

 そして彼は、足を止めて唖然とする勇者へにこやかな笑みを見せた。

「ふふ、大丈夫ですか?」

「い、いや……。噂には聞いたことあったけど、本当に長生きなんですね……」

 勇者が思わず敬語で言うと、タリートは可笑しそうに声を上げて笑った。

「先程も言いましたが、敬語じゃなくても大丈夫ですよ。このお城の、そして魔王様の大事なお客様ですから」

「あ、いや、はい、ありがとうございます……」

 話しながら2人は通路を抜け、廊下に出た。

 廊下も相変わらず石造りだが、床には敷き詰められた赤い絨毯、そして壁には大きめの窓がいくつも並んでいて、薄暗い通路とはまた違った顔を見せていた。

 窓から外を見ると、見渡す限り山が連なり、生い茂る緑の線の向こうに日が沈みかけていて、真っ赤な夕陽が揺らめきながら木々を、石の壁を、そして勇者の頬を赤く染めている。

 そんな景色を見ながら、勇者がぽつりと呟いた。

「さっきは見る余裕なかったけど、いい眺めだな」

「ええ、ご主人様もこの景色を気に入っていて、起きたらベランダに出てラジオ体操するのが日課なんですよ」

「……魔王がラジオ体操?」

「はい」

 タリートがニコニコしながら頷き、勇者は出そうとしていた言葉を慌てて引っ込めた。

「……まあ、うん、魔王も運動くらいはするよね」

「体操を勧めたのは私ですけどね。油断すると魔王様、モニターの前で1日を終えてしまうので」

「立派な引きこもりだなあ……。それだけ聞いたら魔王だとは思わないよ」

 勇者がため息をつくと、タリートはふふっと笑ってから、廊下の突き当たりにあるドアを引いた。

「そしてこちらが客室になります。ルガさんが3日間過ごすお部屋ですね」

「あ、お邪魔します」

 勇者が室内に入ると、そこでは魔王とマグラがバタバタと片付けをしていた。どうやら倉庫として使っていたらしく、部屋の隅には漫画冊子が積み上げられている。

 部屋の入口で立ち止まった勇者へ、魔王が掃除機に負けないよう大声で叫んだ。

「ごめんルガ!ちょっと待って!何か案外散らかってた!」

「あ、いや、別に汚くてもいいけど……。むしろ漫画なら読みたいし」

「ルガはいいだろうけど、俺が嫌なの!うっかり汚されたらたまったもんじゃねえ!あ、漫画なら俺の部屋で読ませてあげるから、本当にちょっと待ってて」

 手を動かしながら言う魔王に、勇者はなぜか遠くを見るように目を細めた。

「オタクだ……。俺のニート時代を思い出すなあ……」

「ルガさん、もしかして魔王様と同じ属性持ちですか?」

 タリートが勇者の背後に控えながら言うと、勇者は苦笑いを浮かべた。

「うん、引きこもりオタク属性。まあ俺はゲームしてた時間のほうが長いけどね。少年誌は大好きだったよ。毎週買ってた」

「え、買ってた?じゃあもしかしてルガ、ツーピースって読んでる!?」

 話を聞いていた魔王が叫ぶと、勇者はこくりと頷いた。

「あ、大好き。勇者になる前は全巻買ってたよ。宿にも結構置いてあったから、最新巻も追ってたし」

 勇者が答えると、魔王は顔全体にパッと笑顔を浮かべ、片付けの手を止めた。

「まじかよ!?マグラもタリートも全然読んでくれなくてさあ。あの217巻の、主人公がフォージと刃を交えるとことか分かる?」

「うっわ分かるー。あそこ名シーンだよね。イフィーが敵に洗脳されて仲間がやられる中、最後にフォージが前に出てきて、俺がお前を止める、って静かに刃向けるやつ」

「そうそこ!まじであそこ痺れるよなー!あの全てを理解して、その上で仲間を殺す覚悟を決めたフォージの顔がもう良すぎて!全人類の名前書いた婚姻届けを提出するレベル!まじ顔面レベル限界突破宇宙爆破。戦闘シーンに突入するときも、普段のチャラい感じじゃなくて、超真剣な顔で必殺技のはずの両手持ちで構えていてさあ。アニメ版もあそこ、音楽もなしのすごい静かなトーンから一気に戦闘シーン入るんだよ。こう、来るぞ来るぞ来るぞー、って煽りまくってからの、ドーン!って感じでさあ!もうその演出がかっこよすぎて!あれで飯100杯は食える!ステーキ1000枚焼ける!強火すぎて中華料理屋開けるレベル!」

 魔王の口からマシンガンのように言葉が飛び出していく。と、近くで掃除機をかけていたマグラが、魔王へ白い目を向けた。

「主人ー?話すのはいいっすけど、手を動かしてくださいよ。後その無駄に誇張しがちなオタク用語、俺ら以外に聞かさないでって言いましたよね」

「あ、ごめんごめん、なかなか盛り上がれる人いなくて。ルガ、後で話そう。まじで」

 魔王はそう言うと掃除を再開した。そんな魔王を、ニコニコとタリートが見つめている。

「あんなに嬉しそうなご主人様、久々です。来てくださってありがとうございます、ルガさん」

「うん、最初はびっくりしたけど……。魔王って案外良いやつなんだな」

「分かって頂けて何よりです。でも一応、魔王としての尊厳とかイメージとかがあるので、外には漏らさないでもらえると。我々も歴史の重みというものがありますので。嫌でしょう?RPGのラスボスがこんな感じになってしまうのは」

「確かに、オタク用語?をまくしたてる魔王は嫌だけど、うわ、本当に大変なんだなあ……」

 勇者の同情する視線を受けながら魔王とマグラは片付けを終え、積み上げられた冊子を外に運び出し、ようやく勇者を室内に招き入れた。

「よし、終わった。まあちょっと汚いけど、こんくらいで我慢してもらえれば」

「いや、十分だよ。むしろ今まで泊まったどの宿屋よりキレイ」

 勇者が答えながら室内を見渡す。

 入り口近くにはユニットバスと簡易的なキッチンがあり、そこを抜けると10畳ほどの部屋にたどり着く。部屋の右手全面には窓があり、ベランダにも出れるようになっている。一番奥の壁には机、テレビ、ちょっとした本棚がついていて、部屋の中央には机とソファ。そして左手の壁には大きめのサイズのベッドが置かれていて、サイドテーブルにはティッシュとランプが置かれている。

 他にもドライヤーなどの細々とした家電などが部屋の隅の棚に積まれていて、勇者はすごい、と声を漏らした。

「何ならホテルよりも設備いいね……」

「ほんと?なら良かった。いい部屋用意したんだぜ」

「……俺一応、敵に捕まった勇者って立場だよね?こんなもてなされていいの?」

 勇者が聞くと、魔王は少しばかり考え込んでから、まあ、とタリートたちに視線を向けた。

「捕まった勇者ってよりかは、一応俺の作戦の協力者って立場だな。んで俺が言うのも何だけど手法が強引すぎたから、こんくらいは、ねえ?」

 何故か自信なさそうに魔王が言うと、マグラがうんうんと頷いた。

「むしろまだ足りないくらいじゃないっすか?別にずっと閉じ込めててもいいですけど、万が一脱走されたら魔王様殺されちゃいますからね。後演技してくれなさそうだし」

「殺されるって、俺そこまで弱くねえよ」

「いやー、さくっとやられますよ?だって主人、アニメ見るから夜更かしするじゃないっすか。起きるの昼頃じゃないっすか。で、普通の冒険者って宿やら野宿やらする都合上、朝からちゃんと活動する人が多いので、普通に寝込み襲われますよ。主人寝起き超悪いじゃないっすか」

「うっ……。ま、まあ確かにそうだけど」

 魔王は気まずそうに言葉を濁してから、とにかく、と勇者の方に向き直った。

「まあ部屋は自由に使ってくれ。ここにインターホンあるから、押せばマグラかタリートを呼び出せる。不都合あったら自由に押してくれ。夜遅くだとキレられるけどな」

「別にキレはしませんよ。主人がアニメ見ながら、腹減った夜食~とか抜けた声で言ってくるからイラっとするだけで」

 マグラが言うと、魔王はまた気まずそうに視線を逸らした。そんな魔王とマグラのやり取りを、タリートがニコニコと見守る。

「ルガさん、これ普段通りのやり取りなので、気にしないでくださいね」

「なるほど……」

 勇者が納得したように呟く。と、魔王が眠たそうにあくびをした。

「説明はこんなもんか。あー、勇者が来るっていうから今日久々に早起きして、超眠い。俺寝て来ていい?」

「いいっすけど、深夜起こさないでくださいよ。キッチンに夜食用意しとくので」

「ふぁいふぁい、あ、ルガは夕飯、ここでいい?食堂もあるんだけどさあ、どうせ俺いないし」

「あ、ああ。いいよ。むしろ用意してくれるだけでありがたいし、俺も朝早く起きたから眠いし」

「だよなー。ほんとここ来るの良いことねえって。山登りするから時間かかるし。ったく、何で皆来るんだろうなー」

 魔王はそうぼやいてから、じゃ、また明日、と言い残し部屋を出ていった。魔王の後をタリートが追う。

 と、部屋に残ったマグラが、人懐っこい笑みを浮かべながら勇者に話しかけた。

「まあ一応言っときますけど、俺らもそれなりに魔力あるんで、襲わないでくださいね」

「いや襲わないよ。こんな歓迎してもらって、立派な部屋まで用意してもらって、それで住民殺すのは鬼か悪魔しかいないよ」

 勇者がぶんぶんと首を横に振りながら言うと、マグラは安心したように笑った。

「そりゃよかった。じゃあ俺も夕飯作ってくるんでー、ルガは何か食えないもんあります?アレルギーとか好き嫌いとか」

「人間の食い物なら何でも……。あれ?さすがに魔王でもご飯は人間と一緒だよね?魔物とか狩らないよね?」

 勇者が首を傾げながら尋ねると、マグラは一瞬の空白を空けてから、勇者とまったく同じ角度で首を傾げた。

「え?昨日はスライムのゼリー寄せとキンカンチョウの唐揚げ、それにマンドラゴラのサラダでしたけど」

「……ええ?魔王って魔物食べるの?」

 勇者が思いっきり顔をしかめる。と、マグラはその顔を見て、ケラケラと明るい笑い声をあげた。

「冗談っす。一緒っすよ、一緒。人間向けのところからこっそり仕入れてます。昨日はチキンステーキでした。夜食にはパンケーキかおにぎりかラーメン作りますし」

「……うっわびっくりした。焦らせないでよ。なら大丈夫、アレルギーもないよ」

「はーい了解っすー。じゃ、作ったら持ってくるので、それまではゆっくり休んでてください。テレビ、近くの街と同じチャンネル構成っす」

 マグラはそう言うと部屋を出ていった。

 部屋に鍵は付いていないようで、試しに勇者がドアを押すとすんなりと開き、無人の廊下が姿を現す。

「本当に信頼されているんだな……。でも、何か、良い奴だったな」

 勇者は室内に戻ると、防具と冠を外してごろんとベッドに寝転がった。布団はしっかりと日に当てられていたようで、優しいお日様の匂いが優しく勇者を包み込む。

 すぐに訪れた眠気に抗いきれず、勇者は無防備なまま意識を手放した。

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