第4話「疑惑の女」

 複数のカメラのシャッターの音

「はい」低い声

 複数のカメラのシャッターの音

「はい」低い声

 複数のカメラのシャッターの音

「はい」低い声

 複数のカメラのシャッターの音

「はい」更に低い声


          *


「師匠。あの女は誰ですか?」低い声

「師匠と腕組んで歩いていたあの女です」低い声

「答えてください。師匠。あの女は誰ですか?」低い声

「答えてください。師匠。あの女は誰ですか?」更に低い声

「いえ、このままじゃ研究に身が入りません。はっきり教えてください。師匠。あの女は誰ですか?」低い声

「あ・の・お・ん・な・は・だ・れ・で・す・か!?」後半は叫び声に近い

「えっ!?」

「おかあさん?」

「おかあさんっていうのは、お母さん。ということですか?」

「あの人が師匠のお母さん?」

「お姉さんじゃなくて、お母さんなのですか」

「だって、遠目からでもスマホの望遠機能最大にして見ました。お母さんなんてありえないです。つまらない嘘はつかないでください」

「師匠。もう嘘はいいです。本当のことを言ってください」

「あれ、師匠。どこに電話しているんですか?」

「ちょっと。級に手を握ってどこに。こんなことじゃ機嫌は直しませんよ。えっ。出掛ける?」

「ちょっと。どこに行くんですか?えっ。師匠の実家?」

「初めてですね。ずっと師匠の家で内弟子として住み込みで面倒を見てもらっていましたが、師匠の実家って行ったことないですから」

「師匠。嘘は早く認めてください。嘘は長くついたら長くついただけ謝るのが難しくなるって私の姉も言っていました」

「あの女の正体を正直に教えてもらえればすむことですよ」

「いいでしょう。そこまで言うならわかりました。師匠の実家にお邪魔させていただきます。ご両親にもご挨拶させていただきます」

「すみません。ずっと手を握ってもらえていて嬉しいのですが、少し離してもらってもいいでしょうか?」

「いえ、ちょっとだけです。師匠のご両親にご挨拶するのに少し身支度をさせてください」


          *


「師匠。このたびは本当に申し訳ありませんでした」

「でも未だに信じられない気持ちもあります」

「だって師匠は今27歳だから。お義母様も50くらいですよね」

「えっ。55歳?ますます信じられない気持になります」

「あの見た目はずるいです。最後までお義姉さんだと思っていました」

「いえ、戸籍謄本とか昔の写真とか成長途中のアルバムとか全部見せてもらって納得しました」

「いつか、改めて師匠のご両親にご挨拶させてもらいたいと思います」


 師匠 27歳。

 弟子 18歳。

 二人のとある日常の一コマ

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