第2話「初めての敗北」

 複数のカメラのシャッターの音

「はい」低い声

 複数のカメラのシャッターの音

「いえ、ここまでが出来過ぎたっだのだと思います」低い声

 複数のカメラのシャッターの音

「そうですね。改めて一から出直したいと思います」低い声

 複数のカメラのシャッターの音

「はい。頑張ります。ありがとうございました」低い声


          *


「師匠。負けちゃいました」

「はい。次は負けません」

「絶対に勝ちます。私の実力を見せつけて、二度と対局したいと思うくらいボロボロにしてやります」

「怖い事言うなって。そんなこと言っていませんよ」

「それじゃあ、これから夕飯の準備をしますね」

「出前?大丈夫ですよ。師匠。出前なんてもったいないですし、いつもみたいに私が作ります」

「……そんな、師匠は私の料理より出前のが良いんですか?」

「はい。そうですよね。私の料理がいいんですね。ありがとうございます。それでは少し待っていてください」

「師匠?どうしました。えっ。俺の前で強がるななんて。強がってなんか」

「うっ」

「うっ。ぐすっ」

「悔しい」

「とても悔しい。負けるのがこんなに悔しいなんて思わなかった」

「心が裂けそうです。こうして師匠と一緒にいるのに、投了した時のあの盤面がずっと頭から離れない」

「……えっ。これから検討ですか?」

「いえ、宜しくお願いします」


          *


「師匠。今日はありがとうございました」

「パソコンも用いて時間をたっぷりと使って今日の反省ができました。自分が悪かったと思う点。そして勝敗を分けたトッププロの会心の一手とそれについてどう対応すべきだったのかの検討。お付き合い下さりありがとうございます」

「約束します。師匠。私はまだまだ強くなります」

「今日の敗北は氷の女王の成長のための一戦として後に語られるようにしてみせます」

「ちょっと遅くなっちゃいましたけど、これからご飯作りますね」

「いえ、出前じゃ無くて大丈夫です。私が作ります」

「……………それじゃあ、師匠」

「ご飯作り頑張ります。自分で言いだしておいてずるい気もするのですが、今日頑張った分我儘を言ってもいいでしょうか?」

「なんでも言っていいって。ありがとうございます。師匠。それではお言葉に甘えます」

「……あのですね」

「ご飯が食べ終わったら、今日は一緒にお風呂に入って欲しいです。あと、一緒に寝て欲しいです」

「はい。昔みたいに手を繋いで一緒に眠って欲しいです」

「ありがとうございます。それじゃあおいしいご飯作りますね」


 師匠 25歳。

 弟子 16歳。

 二人のとある日常の一コマ

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