第16話
不思議と僕は、体を山のある方角へ向けていた。
自分でも、よくわからない。でも、何かが僕を呼んでるって、そう思った。
きっと、カズだ。目には映らないけど、あそこに、カズがいる。
呼んでるってことは、助けを求めているんだ。
怪我を早く治してあげないと。それに、非常食が尽きたのかもしれない。急がないと。
とにかくあそこに行けば、あの中へと続く道を、開けることが出来るはずだ。
でも、うまく体が動かない。ちょっとずつ、前に進んでるような気がするけど、これじゃ永久に辿り着けない。そんな気がする。
僕、泳ぎは下手じゃなかったはずなんだけどな。
最初は全然、泳げなくて、それを見かねたカズが、僕に泳ぎ方を教えてくれたんだ。
クラス対抗の水泳大会で、最終種目のクロールで僕がカズに逆転勝ちして、カズは凄い悔しがっていたっけ。
「協力するって私、言いましたよね?ほら、背中を押してあげますから。早く行きましょう」
こいつ、今までどこに行っていたんだ。勝手にいなくなっておいて。
「すみません。私も、穴を開けられる場所を探し回っていたんです。隈無くね。結局、見つかりませんでした。
でも貴方は、見つけてしまった。私より、ずっと早く。
貴方は、とても凄いです。それだけ、貴方のカズ君への想いが強かったんでしょうね。
それとも、私の想いが既に、いえ何でもありません。とにかく急ぎましょう」
急ぐ?まさか、カズの身に何か起きているのか?
「先程も言いましたよね。カズ君が、山の内部での生活を望むのであれば、私達にはもうどうにも出来ないと。まさに、そうなっている節があります」
そんな。いや、待て。どうしてお前は、そんなことがわかる?
まさかお前は、カズの様子が見えているのか?
「ええ、漠然とですけどね。どうやら、山の者達に無事に保護されているようです。
特に、危害を加えられている様子はありません」
「何でそれを早く言わないんだ!?
どんなに僕が、それを気にしていたと思っているんだ!?」
「だって、聞かれませんでしたから。あと、貴方がそれを知ったところで、特に私達の行動は変わらないでしょう?
それに、貴方が必死になった方が、より早く穴を開けられる場所が見つかるだろうと思っていましたから。
実際に、その通りになりましたよ」
もういい。それよりあの中について、もっと教えてくれ。その口ぶりだと、カズ以外のことも把握してるようだから。
「分かりました。あ、でも本当にうっすらとしか見えてませんよ?」
かまわない。少しでも、カズに関することは知っておきたい。
「そうですか。えーっと、そうですね。カズ君はどうやら、怪我はしてなさそうですね。
山の者達に治してもらったんでしょう。それに、お腹も空いてはいないようです。ご馳走になったんでしょうね。
服は、着物を着ています。なんだか、見覚えがあるような。
えーっと、山の内部は、結構綺麗ですね。下手したら、この辺りよりもずっと。
あ、なんだか見ていると腹の立つ姿の住人が、周りにいますね。カズ君と仲良さそうにしています。
ざっと、こんな感じですかね」
そっか。カズは、あの中で、上手くやってるんだ。流石、カズだ。
僕が心配なんて、する必要なかったみたいだ。
「どうしますか?もう、帰りましょうか?これじゃ、貴方にした質問のもう一方を叶えることも、私は出来そうにありませんから」
いや、僕は、このままあそこへ向かう。もう二度と、カズと一緒にいられなくても。
「何故?」
最後に一度だけ、話がしたい。たとえ会えなくても、返事がなくてもいい。僕は、伝えたいことがあるんだ。
「たった、それだけのために、ですか?」
そうだ。頼む。僕に協力するって言ったろ?
「分かりません、私には。でも、貴方のその態度に、興味が湧いてきました。
いいでしょう。貴方に付き合ってあげます。
貴方の行動の先に何があるか、見届けてあげましょう」
ありがとう。
「あ、素直になりましたね。いつもそうなら、かわいいのに」
うるさい。
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