第9話
うお、なんか、ヒゲも髪も、全部シラガのおっさんだ。てか、じーさんだな。
でも他のおっさんより偉く見える。やっぱり同じくらいちっちゃいけど。きっとこのひとが王様だな。
「では、あなたから王に話すといいダス」
じーさんが俺に顔を向ける。なんか、思わず目をそらしてしまった。ビビってるわけじゃねーけど。
なんか、じーさんに気を取られてて気付かなかったけど、この家すげーな。なんていうか、外見と比べてハイテクというか。
「うむ、別に緊張せんでもよい。28から事情は聞いておる。何でも話してくれ」
「28って、あのおっさんのことか?え、まだ28才だったのかよ!?」
じーさんが大声を上げて笑ってる。なんか、笑いのセンスは俺たちと似てるっぽい?
「うむ、うむ。思ったより、余裕がありそうで良かったわい。まあ、そこに掛けなさい。
あのおっさんはな、実はもっと長い年月を生きておる。おぬし達人間が、恐らくマンモスを狩っていた頃からだ」
は!?原始時代から!?いやめちゃくちゃだろ。ていうか、たしかおっさんは、ここには時間の概念がないって言ってたよな。
年数を数えられるわけねーじゃん。適当こいてんだな、このじーさん。
「いや、でたらめを話しておる訳ではない。厳密には、儂とあのおっさん達は別の種族なのだ。儂は、原始時代より遙か前から生きておる」
ん?俺、声を出してたっけ。てか、自分はおっさんよりさらに長生きだとか、そんな自慢されても困るって。
「いや、失礼。儂は、他のものの心が読めるのだ。大体な」
ええ?テレパシーってヤツか?そういえば、このじーさんと話してるとなんか気が楽になるというか、リラックスできてる気がする。
「28と、かなり長く対話しておったようだな。彼らとのコミュニケーションは、おぬし達にとって少し体の負担が大きいようだ。
儂は今、おぬし達と同じ言語で話しておる。気が休まるのはそのためだろう」
あ、そういえば。ちゃんとくちの動きと聞こえる音が合ってる。おっさんと話す時は、あまりくちが動いてなかった気がするな。
「なあじーさん。どうしておっさん達は音波で会話してるんだ?言葉で会話する方が、なんかよくない?
今思い返すとさ、おっさんって笑ったりとかしてなかった気がするんだけど」
「確かに彼らも言葉を覚えれば、今の儂らと同じようなコミュニケーションが取れるだろう。
だがそれは、この世界にとって問題が起きてしまう可能性があるのだ。
彼らが、外の世界に興味を持ってしまうという、可能性がな」
え?それって、別にいいことじゃん。
てか、そうだ。俺はここから出してもらうように、このじーさんにお願いしないといけないんだった。
「じーさん、俺、友達を待たせてるんだよ。だから、そろそろ外に出たいんだ」
「うむ、その話をする前に、まず儂の話を聞いてもらいたい。
おぬしは、28からある程度、この世界の事情について聞いておるな?」
「事情って、穴を開けちゃダメとかってヤツ?あれって何なんだよ。
そのせいで俺、外へ出られないんじゃねーの?
じーさんが決めたルールなんだろ?だったら、何とかしてくれよ」
「この中ではな、全ての物質を、儂と彼らで管理しておる。
空気も土も動物も、全てな。もし外へと繋がる穴をつくってしまうと、ここの空気が外へ出て行ったり、動物が逃げてしまったりと、管理するのに様々な不都合が起きる可能性があるのだ」
「管理って、どうしてそんなことするんだ?ここって動物園なのか?
それなら柵とか、逃げないようにしつけをしっかりするとか、色々方法があるだろ?」
「疑問は尽きぬと思うが、まあ聞け。おぬしは、原子という存在を知っておるか?」
ゲンシ?原始時代、って話じゃないよな。そういや、理科で習ったような。
元素?のことだったっけ。周期表の覚え方、すいへいリーベとかのだよな。えーっと、
「あっ思い出した、エッチツーオーは水、とかの話だろ?空気はオーツーとか。あれ、違う?」
「うむ、まあそうだ。頑張って勉強しておるようだな」
おっ、合ってたみたいだ。親からは、勉強のことはボロカス言われてたからな、九九からやり直せとか。褒めてくれるのって、けっこう嬉しい。
「世界の全ては、その原子によってつくられておる。一切の例外なく、な。
それはおぬし達の世界でも、この中の世界でも同じで、そして原子の数は定められておるのだ」
??じーさんの言いたいことがよくわからない。俺たちの体も、木や草も、原子って言う共通の材料でできてるってことか?
そういや授業でそんな話を聞いて、んなわけねーじゃんって思ったような気もする。
「うむ!その通りだ。とても良く理解しておるな。
我々は、この原子なくては生きられず、存在することも出来ぬ。
原子は、世界で最も重要な資源なのだ」
まだしゃべってないのに。考えてることがバレてるって、なんか嫌だな。
「でも、それが俺が外へ出ちゃいけないことと関係あるのかよ?」
「おぬしは今まで、誰かと喧嘩をしたことはないか?」
なんだよ急に。そりゃ、ケンカぐらいしたことあるけど、そんなこと話したくねーよ。
デリカシーってもんがないな、このじーさん。
じーさん、無言のまま表情変えずにこっちずっと見てるし。
「そりゃ、あるよ。貸したマンガをなかなか返してくれなかった時とか。
でも今はそんなの、全然関係ねーだろ?」
「それが、大アリなのだ。おぬし達人間に限らず、この世の全てのものは、原子を奪い合いながら生きておる。
また原子は、食べ物や土地といった、より価値のあるものに姿を変え、狙われる対象となっているのだ。
無論、そのマンガも例外ではない」
なんだかもうよくわかんねえ。社会の授業みたいになってきた。
「奪い合う、争いというものは自然の摂理でもある。おかしなことではない。
だがそれが、許容出来ない段階にまで膨れ上がると、もう取り返しがつかぬのだ。
そして儂ら、いや儂はせめて、この中でだけでも原子の安定を保つために【管理】をすることに決めたのだ」
管理って、そういやさっきも言ってたな。おっさんも、自然の管理がどうとかって。う~ん。
「だが、原子の管理というのは非常に難しくてな、っとしまったな。眠ってしまったか。
心を読まれるのを嫌がっておったから、避けておったら気付かんかった。
うむ、色々あったので疲れも溜まっておるだろう。今は、ゆっくりおやすみ」
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