第8話

 それにしても、まだ信じられないというか、色々と実感がわかないな。

なんつーかここ、変っていうか、幻想的っていうのか?なんか現実味がない気がする。何が、っていうと、上手く言えないけど。

にしてもあのおっさん、変なジャムくれたけど、効き目ありすぎだろ。もう体の痛みとか全くないんだけど。

傷も、知らないうちにほとんど治ってるし。魔法アイテムじゃん。何者だよ、あのおっさん。

たしかあのおっさん、この場所はおっさんのすみかだとか言ってたけど、仙人みたいなもんか?

俺、言われるがままにおっさんについてってるけど、大丈夫かな?悪いひとには見えねーけど。

でも、信用するしかないか。俺のこと助けてくれたし。敵じゃないって、言ってたもんな。

てか、お礼くらい言わないとな。


「あっ、おっさん。その、俺のこと助けてくれてありがとな!俺、ひとりじゃ何もできなくてさ」


「気にしなくてもいいダス。わたし、王の命令に従っただけダス」


王様、かあ。どんなんだろうな?きっと、偉いひとなんだろうな。

てか俺、まだここのこと何も知らないな。


「俺、このへんのこと何もわかんないからさ、色々教えてくれない?」


「わかったダス。何でも聞くといいダス」


とはいっても、わからないことだらけで、逆になんか困るな。


「なあ、なんかこのあたりの道って、かなりキレイだな。川なんか透き通ってるし。」


「道は、わたし達が歩きやすいようにいつも整備されてるダス。自然の管理もしやすくなるダス」


「たしか音波で意思疎通してるとかって言ってたけど、まさかおっさんって鳥とか虫とも会話できたりする?」


「昆虫は波長を合わせにくくて、かなり難しいダス。鳥も、わたし達の意思を伝えても無視されることが多いダス。

 でも、意思の疎通が必要になることはあまりないダス。彼らのことは、彼らに任せておけば大丈夫ダス」


「なんか、ロマンがないな。でも俺も練習しておっさんみたいに音波出せれば、鳥と話せるってことか?」


「多分、あなた達では出来ないダス。わたし達と体の構造が違うダス」

 

「なんだよ、俺も鳥と話したかったのに。あっ、そうだ。おっさん、ちょっとリュック貸してよ」


「わかったダス」


「えーっと、あったあった。ほら、ビスケット!おっさんもいっしょに食おうぜ。

 あと、ユッキーからもらったゼリーも。五個もあるからさ」


「わたしはまだ、食べてはいけないダス。気持ちだけもらっておくダス」


「え?なんだよ、まだダメって。別に無理にとは言わないけどさ。じゃあ俺だけ食べよ」


「あー!!」


「うわ!なんだよおっさん、おどかすなって!」


「それを放置しては絶対いけないダス。特にそれは、分解が難しいと聞いているダス。王に厳しく言われているダス」


「えっ、あっ、このポリ袋?ゴメン、ポイ捨てしたつもりじゃなかったんだけどさ、悪かったよ」


「それはわたしが預かっておくダス」


あーあ、また没収されちまったよ。ちょっとくらいいいじゃんか、ケチ。

管理がどうとか言ってたし、意外とガミガミ系のおっさんかよ。別にいいけどさ。


「そうだ、時間。ってあれ?時計、二時ちょっとのままだ。まさか壊れちまったのか?今は何時なんだ?」


「わたし達、あなた達の言う時間という概念は持っていないダス。あなた達の世界の時間のことも、わからないダス」


「なんだそりゃ?俺、友達が待ってるんだ。俺を落とし穴から助けようとひとを呼びに行くって。

 あいつ、俺がいなくなってて今頃、あたふたしてるかもしれねーんだ。俺を上まで送ってくれよ」


「あなたは、外の世界へは戻れないダス。ここで暮らすんダス」


「は?ここで暮らすって、冗談きついぜ。母ちゃんも親父も、みんなもいないじゃんか。なあ、本気で頼むって。俺、友達のところに帰りたいんだ」


「帰るにも、ここには外への出入り口は一つも無いダス。王の言いつけで、そうなっているダス」


「んな馬鹿な。いやそもそも、ここって空もあるし雲もあるし、外なんじゃないのかよ?どうしてうそばっか言うんだよ?」


「嘘じゃないダス。ここにある自然は、全てわたし達がつくったダス」


つくった?この空や雲を?まさか、さっきの鳥も?

途端に背筋が寒くなる。服を着てないせいかな。いや、ありえない。やっぱこのおっさんは、たぶんイベントの仕掛け人かなんかだ。

てか、昔習ったろ。怪しいひとについて行っちゃいけませんって。

逃げよう。でも、どこに?もし、本当にここが穴の中だとしたら、逃げられるわけがない。

あっ、そうだ。


「おっさん、さっき出入り口はないって言ってたけど、やっぱりうそじゃん。

 俺が落ちてきた穴からなら、ここから出られるよな?」


「漏れるといけないから、穴はもう塞いだダス。穴を意図的に開けることは禁じられているダス。だから、あなたをここから出す訳にはいかないダス」


え?うそだろ。穴はもうないって。どうやって塞いだんだよ。天井があの空だとして、届くわけねーじゃん。

いやそんなことより、もっと掘り下げて話を聞こう。


「穴を開けるのはダメって、どういうことだよ?それに俺を外へ出せないって、無茶苦茶言うなよ!」


「全て、王のお達しダス。尋ねたいことがあるなら、そこでお願いするダス。

 もうすぐ、街に到着するダス」


なんだこれ、でっかいアーチ?石造りみたいだけど、中はやけに暗い。

そういや、外はやけに明るかったな。でもここが穴の中だとしたら、太陽なんて出てるはずないよな。

俺は気絶してたってあのおっさん言ってたけど、どんくらいの時間経ったんだろ。

気絶なんて俺、今までの人生で一度も経験してないしな。そういや昔、ユッキーが貧血で倒れたっけ。




「なんだこれ!?全部レンガかこれ!?」


アーチを抜ければ街だって思ってたけど、こんなんアリかよ?

床も壁も建物も、オブジェっぽいのも全部レンガだ。

あたりは赤茶色メインっぽいけど、かなりカラフルだ。なんか、童話の世界みたいだ。


「あれ?おーいおっさん、どこー?」


「ここにいるダス」


ああ、そこにいたんだ。なんか、おっさんと街の風景がマッチし過ぎてて、一瞬わからなかった。

ただでさえおっさん小さいから、余計に迷子になりそうだ。迷子になるのは俺の方だけど。


「そういえば、服があるって言ってなかったっけ。

 さすがにパンツいっちょうのまま街を歩くのは、なんかやだよ」


「ちょっと待つダス。仲間に聞いてみるダス」


うわ!?おっさんそっくりなおっさんが、もうひとり出てきた。

ちょっと格好は違うっぽいけど、瓜ふたつだ。

やっぱおっさんって、人間じゃないのか。マジで童話の世界なのかな、ここって。じゃあもしかして、俺の見ている夢?

登場するのがおっさんばっかなんて、悪夢じゃんか。夢なら早く覚めてくれよ。


「恐らく、特殊なものだから王が保管してるダス。諸々含めて、王に会いに行くのが一番いいと思うダス」


おっさん同士の会話は俺には全く聞き取れなかったけど、結局その王様に全部聞くのがよさそうだな。

ていうか、よく見たらおっさん達も割と、王様っぽい風格あるけどな。立派なヒゲ生やしてるし。田舎っぽいけど。


「王様って、今どこにいるんだよ?」


「もうすぐダス。あそこにいるはずダス」


あれ、王様っていうくらいだから、でっかいお城に住んでるのかと思ったけど、ふつーの家じゃん。レンガだけど。

それでも俺んちよりはだいぶでかいな。けど、この街の他の建物とそんな変わんないな。

ていうか、おっさんそっくりなおっさんが、他にも何人か見かけるな。ここって、おっさんの王国なんだろうか。

まあいっか。とにかく事情を話して、俺をここから出してもらえるようにお願いしないと。

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