第2話

 ジリジリと日が照りつける。山といっても真夏はやっぱり暑いみたいだ。

ここまで僕らは、電車をいくつか乗り継いだ上でバスに乗って来ている。

それから山のふもとにあるバス停で降りて、もう歩いて一時間になる。既に正午を回ろうとしていた。

始発のガランとした電車内で、今日の予定についてしきりに話していたカズは、もうバテている。

前から思ってたけど、カズって意外と体力ない。

そろそろ食事をとろうとか言ってるけど、まだ目的の区域にすら辿り着いていない。

僕らが降りたバス停の終電時刻は十九時ちょうどだった。僕らの感覚ではかなり早いけど、電車のことも考えると、どのみちその時刻までに乗らないと帰るのに間に合わない。

僕は家族に今日は泊まりになるかもと伝えてあるけど、カズはそうじゃなかったみたいだ。だから、あまりのんびりしてられない。

いずれにしても、このままじゃ日が暮れると思い少し歩くペースを上げた。カズは文句を言いながらついてくる。


この辺りに人気はほとんどなく、数十分前にフード付きの日除け帽をかぶった年配らしい女性を一人、遠目に見たっきりだ。

一応持ってきた携帯はもう電波が届いていないらしく、ナビが使えない。

トレッキング用のコンパスはあるけど、念の為に、さっきの人にちょっと道を尋ねてみようかとカズに相談してみたら、もし山に行くのがバレて通報でもされたらやばいだろ、と言う。確かに一理あるなと思い、その場を後にした。

でもよく考えたら圏外なんだから通報なんてされないと、しばらくしてから気付いた。

どうも、二人とも疲れているらしい。さっきのカズの提案を聞き入れ、お昼にすることにした。


辺りはセミの鳴き声が木霊する。アブラゼミ、ミンミンゼミ、ニイニイゼミ、ヒグラシ、多くの種類のセミがいるようだった。

カズはうるさくて話もできないってご立腹な様子だったけど、僕は夏はこうでなくっちゃと思う。

目の前を見慣れない姿のセミが横切る。多分、エゾゼミだ。市街じゃ滅多にいない種類のセミだ。実際に見たのは初めてかも。

カズに教えると、セミくらいで興奮しすぎだって、たしなめるように言われた。いつものカズほどじゃないって言い返すと、手に持ってたおにぎりを一気に頬張りながら、早く先へ行こうって促してきた。

冗談のつもりだったのに、本気にされてないかちょっとだけ心配になった。



 先へ進むにつれ、舗装された道はどんどんなくなっていき、辺りの草は、僕の腰くらいの高さにまで伸びていた。

辺りには空き缶や、エアコンなどの家電製品が落ちてて、人の痕跡こそあるけど、僕らは本格的に大自然に足を踏み入れていた。


僕はナイロンのロングパンツを穿いてきているので平気だけど、カズはいつもの半袖に綿のズボンだ。とても山に来る格好じゃない。

半ズボンじゃないからいいだろって言うけど、カズの背丈だと腕くらいまで草が届いていていた。

これじゃすぐ草負けすると思い、少しひらけた場所に移動してから、上下合わせて着替えてもらった。

こんなこともあろうかと装備の予備を持ってきてて良かった。最初は山に入る手前くらいでいいかと思ってたけど、この時点でヒルや危ない昆虫がいてもおかしくないので、一緒にゲイターも履いてもらった。カズは暑いと嫌がってたけど、我慢してもらおう。


カズには全体的にちょっとぶかぶかだけど、怪我の対策には逆にちょうどいいかも。

去年までは俺の方がでかかったのに、とカズはぼやいている。

そんなに気にすることかなあ?身長なんて。去年まで僕の方が小さかったけど、それを特に気にしたことはなかったし。


よく周りを見渡してみると、水辺がある事に気が付いた。

学校の運動場三つ分くらいの広さで、藻が多く濁りもあるよくある感じの池のようだ。

そこには、たくさんの水鳥たちが住んでいた。その様子を見たカズは興奮気味だ。

そういえば、生まれ変わったら渡り鳥になりたいとか言ってたな。

どうやら色々な種類の水鳥がいるらしく、白黒のカモや、頭が緑色で巨大なくちばしのカモ、そしてハクチョウまでいた。

僕はそこまで鳥に詳しいわけじゃないので、カズ先生の解説を相づちを打ちながら聞いていた。

ここでお昼をとってればなあ、と僕らは思った。



でもハクチョウとかの水鳥って、越冬するためにやってくる鳥だったような。まあ、いいか。

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