第3話
それから草をかき分けながら進んでいくと、「立入禁止区域」の看板が取り付けられた、体育館くらいの高さがあるフェンスが並んでいるのを発見した。
まだ距離があるのにかかわらず、見渡す限り僕らを阻むように埋め尽くされている。さらにてっぺんは、よじ登れないように忍び返しになっていた。
全く予想していなかったわけではなかったけど、これには僕らはがっかりした。
この辺りまででも十分に珍しい生き物が生息してるはずだから、探索はここまでにしようという話になった。
それでも僕は、フェンスの向こう側が気になって仕方なかった。カズは呆れながらも僕についてきてくれた。
もしかしたら、どこかのフェンスに扉がついているかもしれないと思い、根元まで行って確認することにした。
根元の辺りは意外にも、草が他よりあまり茂っていないようだ。フェンスを立てたのが割と最近なのかもしれない。
でも自然保護のためだとしたら、草木を取っ払ってまでフェンスを土に埋めているのは、何か矛盾してるなと少し違和感を覚えた。
いずれにせよ、それなりに見通しは良かったので、抜け道を見落とすことはなさそうだ。
僕らは二手に分かれて隈なく先への道を探したが、僕の方にはそれらしいものは見つからない。
実はどこか隠し扉みたいになっているのかもと思い、目を凝らしながら金網を見つめていたところ、カズが戻ってきた。
結局カズの方も何も見つからなかったらしく、やっぱり時間がもったいないから道を探すのは諦めることになった。
さっきの池まで戻ろうとカズは言うので、僕が承諾すると、生い茂る草の中をカズは勢いよく走っていった。
その時だった。凄まじい雷鳴が聞こえると共に、カズの姿がフッと消えてしまった。
すぐにカズのいた場所に駆け寄り、僕は大声でカズの名前を叫んだ。
すると下の方から、いつもと同じように僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。ひとまずホッとした。
よく見ると、目の前には大きい落とし穴が広がっていた。長く伸びた草が穴を覆っていて、気が付かなかったみたいだ。
怪我はないかと聞くと、右膝がヒリヒリするらしい。一応すぐ立ち上がれたから、骨折ではなく擦りむいただけだと言う。
すぐに降りて助けたいけど、かなり穴は深く、空が曇ってきたせいか暗くて中がよく見えない。
持ってきた荷物に懐中ライトがあることを思い出し、穴の中を照らすが、カズの姿は見つけられなかった。
ただ、ライトの光は見えたとカズから返事があった。そこまで登れるかと聞くと、傾斜がきつくて厳しいらしい。
僕はそこで、荷造りに使うロープを持っていたのを思い出し、リュックから取り出した。
救助用ロープほどの耐久性はないだろうけど、人一人の体重くらいだったらきっと耐えられるはずだ。
ロープを下ろすから掴まるように伝えると、実は腕も痛めていて拳を握れないと言う。
僕は意を決して、ロープを使って穴の中に降りることにした。
救助活動なんてしたことないけど、僕がやるしかない。
これで僕まで落ちたら、誰もカズを助けられなくなる。慎重にいかないと。
救助用のハーネスなんて持っていないので、僕は以前に消防署へ見学に行った時のことを思い出しながら、ロープをもやい結びにし、命綱代わりにした。やり方はこれで合ってるはずだ。僕ら二人分の体重を支えきれるかわからないけど、やるしかない。
でも、周りにロープをくくりつけられるものがない。遠くに木があるが、距離がありすぎてロープが届かない。
地面にくさびを打ち付けようとしたが、気付かないうちに辺りは土砂降りで、既にぬかるんでいる地面にくさびを固定することができなかった。
僕は手持ちの非常食だけを全てリュックから取り出し、穴に放り投げた。
一声掛けたつもりだったけど、何すんだ!と穴から声が響いた。
すぐに助けを呼んで戻ってくるから待っててとカズに伝えた後、返事を聞く間もなく僕は来た方角へ向かって走った。
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