第40話戦は刃を交える前から始まります!!!



一瞬の浮遊感が収まり、身体に重力が戻る。


……多分転送されたのかな?



「よろしくお願いします。」



とりあえず挨拶をしておく。



「あ、よろしくお願いします!」



よかった。まともな人だ。

いろはの対戦者みたいにマナーが悪い人だったらどうしようかと……


声からして、女の人かな?



「では、全力で行かせていただきますね。」



「こ、怖いですね。でも、僕も負けたくないので全力で行きますよ!」



これは、ボクっ娘と言うやつですか。珍しいね。



そうこうしているうちにカウントダウンが始まる。



3


2


1



……0!!!



ザシュッ!!!



「ぇ……?」



ボクっ娘さんの困惑する声が聞こえる。

それもそのはず、たった今喉を掻っ切られたのだから当然だろう。

油断することなくねじりながらナイフを引き抜きもう一撃加える。



「では、対戦ありがとうございました。」



ついでにトドメの一撃を加え蘇生可能時間をゼロにする。



You Win!!!



陽気な音楽とともに勝利を告げるアナウンスが流れる。


それと同時に身体から質量が徐々に消えていき、転送の準備が整っていく。


無事勝てたね。よかった。




何度味わっても慣れない浮遊感が収まると、耳慣れた声が近づいてきた。


その声は弾丸のような速度で近づいてきて…ものすごい衝撃で抱きついてきた。

なんとかその弾丸…いろはを受け止める。



「ゆらざぁん!ずごがっだえずぅっ!!!ずごぐっばやぐぅっでぇ、づよがっだでずぅっっ!!!わだっ、わだじぃざっぎはっっ!!!」



「あーもう、落ち着いてください!!!」



まくし立てるいろはを抱き寄せて頭をなでながら落ち着かせる。


なんか前にも混乱するいろはを宥めたことあったなぁ…ここまでじゃなかった気がするけど。



「大丈夫ですからねっ!!落ち着いて!!!」



安心できるまで、何度も何度も声をかけながら頭を撫でる。

10分くらいそうしていただろうか、いろはもやっと落ち着いてきたのかまともに喋れるようになってきた。



「それで、そんなに泣いてどうしたんですか?」



「ゆらさっ、ん。あのっ!!!すみませんでしたぁっ!!!!わたし、自分勝手にゆらさんのこときずつけて、暴走してっめいわくかけて!!!」



「そうですねぇ。確かにいろはがこの広場という周りに人が大勢いる環境で私に攻撃を仕掛けたのはよくなかったです。今回は大事にはいたりませんでしたが、それでも多くの人に迷惑をかけました。でも、いろはが悪かったのはそれだけです。」



「え…それ、だけ…ですか?」



「はい、それだけです。」



「で、でも私ゆらさんに…」



「私にとっていろはのやったことは迷惑じゃないですよ。というか、あなたの対戦相手の方に明らかに問題がありました。それに怒るいろはの感情は当然です。あんだけ挑発してきた相手なんですからあれくらいやっていいんですよ!もっとやってもいいくらいですもん。」



「え、私はあの……」



「いろは、私はまだあなたの事を知りません。なので、あなたの性格がほんの少しだけ曲がっていたとしても別に気にしませんよ。もっともかわいらしいいろはも、ちょっと腹黒ないろはもどちらも大事なことには変わりありませんですし。」



「で、でも……」



「いいから気にしないでください。忘れる……のは無理かもしれませんが、受け入れることならできますから。」



いろはがあの時浮かべてた表情の意味はわからないわけじゃない。いろはの殺気だった目には、あの男の態度に対する怒りだけじゃないもっと根源的な熱があった。


それだけでなく見られていたことに対する異常なまでの動揺と今の態度、それとこれまでの猫を被っていた理由。

それらを踏まえたとき導き出されるのは……


……きっと今知るべきことじゃないだろう。人の本心を無理に暴く行為は人を深く傷つける暴力だから、私は何も見えなかったことにする。


私はいろはがちょっとぶっ飛んでいて腹黒な1面を知っただけなのだ。そう、それだけ。



「そう、ですか。わかりました……ありがとうございます。」



「あっらぁ!!!ゆら、お帰りなさい!!!んー……もしかしてお邪魔だったかしらぁ?」



そんなしんみりとした少し沈んだムードをぶち破る声が響き渡った。


直後、いろはに突き飛ばされなんとか踏みとどまる。



「お姉様!!!これは、えっと違うんです!!!そうだけど、そうじゃないって言うかっ!えーっとそう、抱きしめられてただけなんです!!!」



いろはの慌てる様子から状況を察する。

そういえば確かに落ち着けるために抱きしめてたままだったねぇ。



「あらぁ……やっぱりお邪魔だったかしらぁ。」



「普通にいろはが幼稚園児並に泣きじゃくって混乱していたので落ち着けていただけです。抱きしめてたのはその名残です。」



「ちょっと!!!ゆらさん、私が幼い子供みたいじゃないですかっ!!!」



「なるほどねぇ。まあいろはがお子ちゃまなのには同意だけどね。」



「お姉様までっ!!!」



よかった。いつもの調子に戻ったね。



「あ、そうだったわぁ。ゆら!!!貴女の試合とぉってもよかったわよぉ。」



「本当ですかっ!?」



「ええ、最初の踏み込みはもちろんのこと、きちんと対象の急所に刺してるのもよかったわ!!!でも、よくあそこまでピッタリの位置にいけたわね?普段だと横に切り裂くはずのところを的確に刺すなんて。」



「それは、あの時対戦相手の人が私とお話してくれたからですね。声の位置がわかったのでわざわざ動きが遅くなりやすきダメージの少ない横振りを選ぶ必要がなくなりましたし、声の高さからしてそこまでの高身長じゃないでしょうから当たればラッキーくらいに下目に刺しただけですよ。もちろん当たらなければ切り返しで首に当たるように調整していましたが。」



「あっらぁ。さすが私の弟子だわぁ!!!じゃあこの調子で次も期待してるわよぉ。」



あはは……荷が重たいな。



「ゆらさん頑張ってくださいね!!!」



「いろはもよぉ?あんだけ刺激的な試合だったんだから次もいい試合、楽しみにしてるわ。」



「ぴぇぇぇっ!!!」



色々あったけど結局いつも通りだね……


まあ、全力でイベント頑張りますか!!!



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蜘蛛さん

「ずっと横にいたけど黙ってたのだ!!!空気が読める偉い蜘蛛だからな!途中からお菓子が美味しくて聞いてなかったけど、皆仲良さそうでよかったのだ。……本当はちょぴっとほっとかれて寂しかったのだ。」

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